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4. 石好き、猶予される

 スキル鑑定の儀の後、

 馬車に乗り込む。

 そこにヴァルネスはいない。

 おそらく、

 俺の処遇をどうするかを決めるのに、

 父上と話し合うためだろう。

 結局、

 俺は

 馬車で一人だった。

 美しい景色も、なにか空虚で、

 寂れたものに見えた。

 まるで、自分の今の心のように……



 朝が来た。

 そして俺は鏡の前へと

 まだ歩くのもおぼつかない足で向かう。

 眼の前に映るのは、

 少し疲れた顔をした自分……

 ただ、

 それだけだ。

 昨夜は眠ることができなかった。

 スキルの詳細は

 もちろんのことだが

 気になっていた。

 だが、

 一番の理由は、自分の事だ。

 父上が俺のスキルをどう受け止め、

 俺にどんな処罰を下すのか……

 それが今、一番俺の気になるところだ。

 昨日の静寂がまだ頭の中で響く。

 ヴァルネスは屋敷に帰宅後も

 いつもどおり接してくれている。

 前と何ら変わりない、

 優しい笑顔、

 優しい声で。

 でも、

 心の裏では、何かを感じているのではないか?

 と、考えてしまう。

 いけない。

 俺は今日、少し疑心暗鬼気味だ。



 そして、

 毎日のヴァルネスによる家庭教師が始まる。

 今日は、神の歴史だという。

 でも、

 俺は最初に聞いたこと以外は、

 あんまり聞けていない。

 俺は窓の外を見る。

 蝶が羽ばたく。

 自由に舞う蝶。

 蝶は自由なのだろうか。

 父上もヴァルネスも別に嫌いではない。

 だからこそ、

 この家を離れるようなことには……

 なりたくはない。

 だが、

 あの蝶のように

 外を自由に羽ばたいてみたい、

 そんな気持ちも心の片隅にあった。

 俺はバサルト=ガリソディア。

 だが、

 岩塚紫輝の記憶を継いだ人間でもある。

 この大陸には色んな種類の鉱石がある。

 もしかしたら、

 俺も知らないような鉱石、

 そんなものがまだまだあるのかもしれない。

 そんなの……

 そそるにきまっている。

 俺の前世の人格に告げられている。

 ””大陸中の石を見て回りたい””

 そんな思いがある。

「バサルト様」

「気が抜けていらっしゃいますよ」

 窓から視線を戻し、

 部屋の中を見ると

 ヴァルネスが少しムッとした顔をしている。

 さすがに気づかれたようだな。

 俺は観念して授業をちゃんと受けようと決心する。

 そして、心に決めたその時、

「あぁ、そういえば、ブレイス様が11時にお呼びだそうですよ」

 と思い出したように言う。

 脈が一瞬早く打った。

「えっ?」

「父上が俺に何の用?」

 たった一言。

 たった一言だ。

 だがそれでも一言だ。

 そして、

 その一言は、

 俺の危惧していることへと

 近づくことであった。

「いや、私も詳しくは知りかねますね」

 俺の質問に、

 ヴァルネスはきちんと答える。

「まぁ、言ってみてくださいな」

「はぁ……」

 ヴァルネスらしからぬ、少し敬語がなまったような一言に、

 俺は、つい気の抜けた返事をしてしまう。

 そして、なんとも納得できなかった俺であった……



 ヴァルネスによる授業が終わり、

 自室には誰もいなくなる。

 壁にかけてある時計を見る。

 10:20を表している。

 父との話。

 それまであと38分ほどだ。

 だが、おそらくではあるが

 ちゃんとしているヴァルネスは

 俺が忘れていても良いように、

 10分前には部屋に来るはずだ。

 つまり、

 実質の残り時間は、28分だ。

「あと28分……」

 特別することがない。

 そう、なにもないのだ。

 身構えたとしても、

 今更できることなど限られている。

 というか、なにもない。

 それでも何かはしたいな……

 そう考えていると、

 ベッドが目に映る。

「そうか」

「いっそのことベッドで寝てしまえばいいのか」

 俺はひらめいたように呟く。

 これから何ができるか。

 そんなことを今から考えたとしても

 気が重くなるだけだ。

 自分で自分に追い打ちをかけることなどない。

 それならば、

 寝てしまっても良いはずだ。

 そうすれば、

 何も考えずに済む。

 うん、得策だ。

 俺はベッドに飛び込むと、

 すぐ寝る。

 すぐに意識が落ちる。

 やっぱ、疲れていたのかな?

 のび太よりかは遅いけど

 まぁ、早い眠りであった。



「―ルト様」

「バサルト様!」

「起きてください」

 俺はその声に起き上がる。

 そして、

 眼の前にいたのは

 ヴァルネスであった。

 やはり、俺の予想通り

 10分前には来たのだろう。

 ……ん?

 ってことは?

 俺は時計を見る。

 それは10:55を指している。

 あちゃ……

 たぶん、ベッドが気持ちよすぎたんだな。

 疲れてたのも幾分作用しているだろうが、

 まぁ、寝すぎたのを悔やんでももう遅い。

 少し眠気が残っていた俺はヴァルネスに連れられ、

 父上の書斎の扉の前に着く。

 コンコン。

 俺のノックに呼応したのか、

 扉が高い音を奏でる。

「いいぞ」

 父のその声に

「失礼します」

 と答え、扉を開く。

 部屋に入ると、

 父は書斎机に座らず、

 窓を向いて立っていた。

「バサルト……」

 父上の優しげな声が聞こえる。

 そして、

 俺の肩の力は少しだけ抜ける。

「父上……」

 シンプルに嬉しかった。

 父上はスキルで判断しなかったのだと、

 それをヴァルネスと話していたのだと。

 そう思ったその時、

 父上は振り向き、話し始める。

「そんな地味なスキルはいらん」

「お前は追放だ」

 その言葉とともに彼は、俺に対して指を指す。

 そう、たしかに俺、自分にだ。

 その言葉に、俺の幻想は

 一瞬にして砕け散る。

「そ、そんな……」

 俺は床に膝をつく。

 衝撃だった。

 その一言で、

 俺の全ては霧のように消え去った。

 そんな俺に対し、父は続ける。

「だが……」

「このまま何もなしで追放するわけではない」

「俗世の知識もなしで追放など、父親として失格ではないか」

「父上……」

 俺は、父に突き放された。

 だが、

 突き放された後のその言葉は、

 全く性質の異なる言葉だった。

「よって、お前を別館住みとし、3年後に改めて追放をする」

 そうか……

 追放はされる。

 それだけは変わらない。

 でも、この三年の猶予は

 父なりの優しさだろう。

 俺はそう思った。

 いや、そう思うことにする。

 勝手に思ったっていいはずだ。

 そして、父は続ける。

「そして、ヴァルネスは引き続きおまえの家庭教師を務める」

 その言葉に俺はまたもや驚かされる。

 よくある異世界転生からの追放、では完全に突き放すのが定番だろう。

 猶予だけでもありがたいのに、

 ヴァルネスにまだ教えてもらえるとは……

 まぁ、そういうところが父上らしい。

 頑固なところもある。

 でも、優しいところもある。

 曽祖父様はもっと頑固だと聞くので、まだましなほうだろう。

 でも、

 今わかることは、

 俺が思っていた何倍も処遇が軽かった。

 それだけだ。

 これだけで俺は十分だ。

「分かりました、父上」

「分かったならいい」

「明日、荷を詰めて別館にいけ」

 最後は少しだけ言い方がきつかった。

 ……いや、あれが父上らしいのかもしれない。

「失礼しました」

 俺が部屋を出ると、

 ヴァルネスは何食わぬ顔で微笑んでいた。

 この猶予を活かして、

 俺は何ができるだろう……

 まだまだ、俺は考え続けなければならないようだ。

 三年……

 その追放までの猶予、

 なら、その間に世界中の石を知ってやる。

 誰にも負けない石好きになってやる。

 俺はそう決めた。

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