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38. 炎の渦に包みましょう

「すみません!」

 俺は冒険者ギルドの訓練場へ駆け込んだ。

 訓練場では数十人の冒険者や魔術師が、街の防衛に備えて魔術の確認をしている。

 その中心で、一人の赤髪の女性が巨大な炎を操っていた。

「炎渦!」

 ゴォォォォォッ!!

 炎が竜巻のように渦を巻き、訓練用の岩を一瞬で真っ赤に焼き上げる。

「すごい……」

 思わず見とれてしまう。

 熱風がここまで届くほどの威力だった。



「何か用?」

 炎を消した女性が俺へ近づいてきた。

「えっと……」

「お願いがあります」

「お願い?」

「はい」

 俺は深く頭を下げた。

「その炎渦を、もう一度使っていただけませんか」

「……?」

 女性は不思議そうな顔をする。

「見るだけでいいの?」

「はい!」

「攻撃してほしいわけじゃありません!」

「変な子ね」

 苦笑しながらも了承してくれた。

「じゃあ、いくわよ」

 女性は右手を掲げる。

「炎渦」

 ゴォォォォォォッ!!

 再び巨大な炎の渦が生まれる。

 俺はその魔術陣を、一瞬たりとも見逃さないように目を凝らした。

「今だ」

 収納から、一つのルビーを取り出す。

 これは前に唯一買った石。

 高かったけれど、美しかったので思わず買ってしまった宝石だ。

 まさか、こんな形で使うことになるとは思わなかった。

「好きこそものの上手なれ」

 身体が少し軽くなる。

 集中力が一気に高まる。

 続けて、

「岩石刻印」

 淡い光がルビーを包み込む。

 俺は炎渦の魔術陣を頭の中で再現し、それを一つ一つ刻み込んでいく。

 線、円、魔力の流れ。

 一切のズレが許されない。

 数分後、

「……できた」

 ルビーの内部には、赤金色の複雑な紋様が刻まれていた。

 今までで一番精密な刻印だ。

「これが……」

 ””炎渦の刻印石””



「それ、何?」

 女性が興味深そうに覗き込む。

「刻印石です」

「刻印石?」

「魔術を石へ保存する道具……みたいなものです」

「そんな物、聞いたことないわよ?」

「俺も最近作れるようになったので」

「……」

 女性は少し黙った。

「試してみなさい」

「はい」

 俺はルビーへ魔力を流し込む。

 ブゥン。

 刻印が赤く輝く。

 次の瞬間。

 ゴォォォォォォォォッ!!

 ルビーから巨大な炎の渦が放たれた。

「なっ!?」

 訓練場中がざわつく。

「本当に出た!」

「刻印石から炎渦だと!?」

「あり得ない!」

 魔術師たちが次々と集まってくる。

 炎が消える。

 俺はルビーを見る。

「割れてない」

 一度で壊れるかと思ったが、まだ使えそうだった。

 ただ。

「少し色が薄くなった」

 魔力をかなり消費したのだろう。

 何度も使えるわけではなさそうだ。

 それでも……

「十分だ」

 一発でも、この威力なら戦局を変えられる。



「君!」

 突然、一人の男性魔術師が声を掛けてきた。

「その刻印石、いくつ作れる?」

「石があれば」

「魔力が続く限り」

「……」

 男性は息を飲む。

「街が助かるかもしれない」



 その日の夕方、

 俺は買ってきたルビーを5つ取り出した。

 もちろん一個しか持っていなかったので、

 鉱石やさんで新しく買ったものだ。

 大銀貨三枚はちょっと痛手だが……

「全部使おう」

 石は眺めるだけじゃない。

 誰かを守るためにも使える。

 それなら、

「きっと石たちも喜ぶ」

 そう信じて、俺は一本一本、丁寧に炎渦を刻み続けた。



 翌朝、

 遠くの地平線には、

 白い大群。

 灰色の大群。

 凶暴ウサギ二万。

 灰狼一万。

 総勢三万の魔物が、ゆっくりと街へ近づいていた。

「始まる……」

 誰かが静かにつぶやく。

 街の命運を懸けた戦いが、ついに幕を開けようとしていた。

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