37. 街に着いたら混乱の嵐です
翌朝、
今度こそ迷わないようにと、サウブ村の若者が森の出口まで案内してくれた。
「ここからは街道をまっすぐです」
「ありがとうございます!」
「今度は戻ってこないでくださいね」
「……努力します」
村人たちの笑い声を背に、俺は再び街への道を歩き始めた。
今回は本当に迷わなかった。
昼過ぎ、
ようやく見覚えのある城壁が見えてくる。
「着いた!」
思わずガッツポーズをする。
ようやく冒険者ギルドのある街へ戻ってこられた。
……しかし、
「なんだ?」
様子がおかしい。
城門の前には長い行列。
兵士たちが慌ただしく走り回っている。
「急げ!」
「避難用の荷馬車を増やせ!」
「北門にも応援を送れ!」
街全体が騒然としていた。
門番に声をかける。
「何かあったんですか?」
門番は額の汗をぬぐいながら答えた。
「旅人か?」
「入るのは構わんが、できるだけ外へは出るなよ」
「何があったんです?」
門番は少し黙り、低い声で言った。
「魔物の大群だ」
「……え?」
「西の平原から押し寄せてきている」
「どれくらいです?」
「報告では――」
門番は息を飲む。
「ホーンラビット、およそ二万」
「……」
「それに加えて、グレイリーウルフがおよそ一万」
「…………」
俺は数秒固まった。
「全部で……」
「三万だ」
「三万!?」
思わず大声が出た。
街へ入ると、さらに混乱していた。
商人たちは商品を急いで倉庫へ運び込み、
住民たちは食料を買い込み、
冒険者たちは武器の手入れに追われている。
「ポーションが足りない!」
「矢を追加で五百本!」
「土魔術師は北門へ!」
怒号が飛び交う。
祭りとは正反対の空気だった。
俺も冒険者ギルドへ向かう。
中も普段とはまるで違う。
依頼掲示板は空。
代わりに一枚の巨大な紙が貼られていた。
《《緊急依頼》》
街防衛戦参加者募集
依頼報酬も破格だった。
「小銀貨二十枚……」
普段の何倍だろう。
それだけ危険ということだ。
「おっ」
受付へ行く途中で見覚えのある顔を見つけた。
「あ」
「バルト!」
ガルドさんだった。
「無事だったか!」
「はい!」
「サウブ村で少し寄り道しまして」
「寄り道で済む話か?」
ガルドさんは苦笑する。
「村人から伝令が来たぞ」
「グラトニーラビットの群れを一つ壊滅させた冒険者がいるってな」
「え?」
「あれ、お前だったんだろ?」
「……まあ」
少し照れる。
というか、凶暴うさぎってそんな名前なのか。
グラトニーって暴食って意味じゃないか……
確かに、めっちゃ食ってたけれども……
ガルドさんは真面目な表情になる。
「だが今回は違う」
「三万だ」
「街の歴史でも指折りの規模らしい」
「そんなにですか」
「ああ」
「俺も防衛隊へ入る」
「お前は無理するな」
「まだEランクなんだからな」
そう言って肩を叩く。
「……」
俺は掲示板を見つめる。
三万。
正面から戦えば、俺一人ではどうにもならない。
だが、
「刻印なら」
俺の頭の中に、一つの考えが浮かんでいた。
今まで作ってきた刻印石。
土壁
収納
探知
癒し
それだけでも役に立つ。
しかし、
「もっと強い刻印が必要だ」
その時、
ギルドの訓練場から大きな炎が上がった。
ゴォォォォッ!!
赤い炎が渦を巻きながら天へ昇る。
「すごい……」
思わず見入ってしまう。
「炎渦だ」
ガルドが説明する。
「上級火属性魔術」
「街でも使える奴は数人しかいない」
「炎渦……」
その名前を聞いた瞬間。
俺の脳内で何かが繋がった。
「そうか」
「刻印すればいいんだ」
「え?」
ガルドが首をかしげる。
しかし俺はもう走り出していた。
「すみません!」
「ちょっと訓練場へ行ってきます!」
「お、おい!」
ガルドさんの声も聞かずに、俺は全力疾走する。
頭の中には一つしかなかった。
””ルビー””に炎渦を刻印できれば、この戦いの切り札になる。
石好きの青年の瞳は、期待で輝いていた。
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