↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/50

35. 村の温泉は極楽です

 ――戦いは、一時間近く続いた。

 俺は土壁の刻印石で村の防衛線を何度も作り直し、村人たちはその隙に魔術や弓で凶暴ウサギたちを迎え撃った。

 親玉らしき巨大なウサギも、村中の力を合わせてようやく倒すことができた。

「終わった……」

 俺はその場へ座り込む。

 さすがに魔力も体力も限界だった。

「勝ったぞーーー!!」

「村が助かった!」

 歓声が村中へ広がる。

 子どもたちまで家から飛び出し、大人たちと一緒になって喜んでいた。



「旅人さん」

 村長がゆっくり近付いてくる。

「本当にありがとう」

「いえ」

「俺一人じゃ勝てませんでした」

「皆さんが戦ってくれたからです」

 これは本心だった。

 俺の刻印石だけでは、この数は止められなかっただろう。

「それでも」

「あなたがおらねば、この村は壊滅していた」

 村長は深々と頭を下げた。

 続いて、村人たちまで一斉に頭を下げる。

「ありがとうございました!」

 少し照れくさい。

「や、やめてください」

「そんな大したことは……」

 前世では感謝されるより、仕事を頼まれる方が多かった。

 だから、こうして純粋に礼を言われることに慣れていない。



「ささやかじゃが、お礼を受け取ってくだされ」

 村長は小さな木箱を差し出した。

「これは?」

「村で採れた鉱石じゃ」

「!」

 俺の目が一瞬で輝く。

 箱を開ける。

 中には様々な石が並んでいた。

 乳白色の石。

 深緑色の石。

 赤茶色の鉱石。

 そして、一際目を引く淡い青色の鉱石。

「きれい……」

 思わず見入ってしまう。

「この青い石は?」

「アクアライトという鉱石じゃ」

「水属性の魔力を蓄えやすいと言われておる」

「へぇ……」

 水属性か。

 刻印石に使えそうだ。

「大切にします」

 俺は宝物を扱うように、収納へしまった。

「それと、もう一つ」

 村長が笑う。

「ぜひ温泉へ入っていってくだされ」

「温泉?」

「村の自慢なんじゃ」

 温泉。

 前世でも好きだった。

 疲れた身体には最高だ。

「ぜひ!」

 即答だった。

 案内された温泉は、村の奥にあった。

 岩に囲まれた天然温泉。

 湯気が立ち上り、硫黄の香りがほんのり漂っている。

「おぉ……」

 思わず感動する。

「すごい」

 岩風呂だ。

 しかも、

 使われている岩の種類も様々だった。

「この黒い岩……」

「玄武岩かな?」

「いや」

「こっちは花崗岩?」

 温泉へ入る前から石を観察してしまう。

「石がお好きなんですね」

 横で体を洗っている村人が苦笑する。

「はい」

「大好きです」

 即答だった。

 服を脱ぎ、ゆっくり湯船へ浸かる。

「はぁぁぁぁぁ……」

 思わず声が漏れる。

 気持ちいい。

 疲れが溶けていくようだ。

「極楽……」

 前世でも残業帰りに温泉へ行きたかった。

 でも時間がなかった。

 だからこそ、この時間が嬉しかった。

 ふと、湯船の底を見る。

「……」

 石だ。

 温泉で長年磨かれた丸い石が並んでいる。

「最高じゃないか」

 また見惚れてしまう。

 手に取って眺める。

 表面はつるつる。

 色も美しい。

「持って帰りたい……」

 そんな欲望が頭をよぎる。

 しかし、

「いや」

「これは温泉の石だ」

「ここにあるから美しい」

 俺はそっと元の場所へ戻した。

 石好きにも、最低限のマナーはある。



 湯上がり、

 村長が冷えた果実水を差し出してくれた。

「酒もあるが、まだ未成年じゃろ?」

「はい」

「果実水で十分です」

 甘酸っぱい果実水が喉を潤す。

「おいしい」

 戦いの疲れが、一気に吹き飛んでいく。

 もちろん、一杯だけいただいた。



 夜、

 村人たちと食事を囲みながら、俺は改めて思った。

「旅っていいな」

 石と出会える。

 人とも出会える。

 困っている人を助けることもできる。

 追放された時は絶望した。

 でも今は違う。

 自由だからこそ見られる景色がある。

 そんなことを考えながら、俺は満天の星空を見上げた。



 翌朝、

 村長は一枚の地図を手渡してくれた。

「街へ戻るなら、この道を行くといい」

「ありがとうございます」

「……たぶん迷わんはずじゃ」

「たぶん?」

「……」

 村長は静かに目をそらした。

 少しだけ、不安になった。

評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。