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32. 一石百鳥とはこのことです

「グオオオオッ!!」

 巨大な熊が咆哮を上げる。

 土壁を一撃で砕かれた俺は、思わず後ろへ飛び退いた。

「強い……!」

 今日、相手した凶暴魚とは明らかに格が違う。

 女性も震えながら後ろへ下がる。

「バルトさん……!」

「大丈夫です」

 ……たぶん。

 心の中では少し焦っていた。



 熊が再び突進してくる。

 ドドドドドッ!

「土壁!」

 ゴゴゴッ!!

 二枚目の土壁が現れる。

 だが、

 ドォォン!!

 やはり一撃で粉々になる。

 どんな威力じゃい……

 異世界の熊、怖ぇぇ……

「硬いだけじゃ足りないか……!」

 俺は収納から石を取り出す。

 普通の石だ。

 刻印はしていない。

「これでも食らえ!」

 思い切り投げる。

 ゴッ!

 石は熊の鼻先へ当たった。

「グルル……」

 効いてはいる。

 でも止まらない。

「うーん」

 石じゃ火力不足か。

 もう一個、今度は少し大きめの石を拾う。

「えいっ!」

 ブンッ!

 勢いよく投げた。

 しかし、

 熊はひょいっと首を動かす。

「え」

 避けた。

 石は熊を通り越し、そのまま崖の上へ飛んでいく。

 カンッ。

 乾いた音が響いた。

「……?」

 何かに当たった。



 次の瞬間、

 バサバサバサバサッ!!

 森中に羽音が響く。

「え?」

 崖の上を見る。

 そこには巨大な鳥の巣があった。

 しかも、

「ギャアアアアッ!!」

「ギャギャギャッ!!」

 大量の鳥が一斉に飛び立つ。

「……」

 数えるまでもない。

 百羽はいる。

「やっちゃった」

 完全に俺のせいだった。

 熊も空を見上げる。

「グル?」

 鳥たちは怒っていた。

 当然だ。

 巣に石をぶつけられたのだから、

 しかも、

 その巣の鳥だけではない。

 周囲の群れまで一緒になって飛び立っている。

「ギャアアアアアア!!」

「……」

 嫌な予感しかしない。

 一羽、二羽、三羽……

 いや、全部だ。

 百羽以上の鳥が一斉にこちらを向いた。

「……」

 女性が青ざめる。

「バルトさん」

「はい」

「怒ってますよね」

「ものすごく」

 一羽が急降下してくる。

「危ない!」

 土壁!

 ゴゴゴッ!

 鳥はギリギリで回避した。

 しかし、

「ギャアアアア!」

 次々と飛んでくる。

「多い!」

 多すぎる!

 その時、

 熊が鳥へ飛びかかった。

 バシッ!!

 一羽を叩き落とす。

「……」

 鳥たちの標的が変わる。

「ギャアアアアア!!」

 今度は熊へ向かって突撃した。

「え」

 熊も困惑している。

「グオッ!?」

 翼で叩かれ。

 嘴で突かれ。

 爪で引っかかれる。

 巨大な熊が鳥に囲まれていく。

「なんか……」

「熊がかわいそうになってきた」

 だが、

 次の瞬間、

 鳥たちの半分がこちらへ向きを変えた。

「やっぱり来るの!?」

 原因は俺だった。

 当然である。

「逃げます!」

「はい!」

 俺と女性は全力で走り出した。

 森の中を駆け抜ける。

 後ろでは百羽近い鳥が追いかけてくる。

「ギャアアアア!」

「ごめんなさーい!!」

 思わず叫ぶ。

 もちろん鳥は許してくれない。

 熊も後ろから逃げてきていた。

「グオオオッ!」

「なんで熊まで!?」

 森はもう大混乱だった。

 こうして、

 一つの石が原因で、

 熊と百羽の鳥に追われるという、とんでもない状況が完成したのである。

 石好き人生。

 こんな事件は前世を含めても初めてだった。

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