24. 癒しの刻印
アーシャさんたちの村へ向かう道中、
森の中を歩きながら、俺の視線は何度も彼女へ向いてしまっていた。
「どうかしました?」
アーシャさんが不思議そうに首をかしげる。
「いえ、その……」
言うべきか迷う。
でも、この機会を逃したら二度と見られないかもしれない。
「《癒し》のスキルを、もう一度見せてもらえませんか?」
「え?」
「興味があって」
もちろん、本当の目的は違う。
刻印するためだ。
だが、それを話すわけにはいかない。
アーシャさんは少し考えたあと、小さく笑った。
「それくらいなら」
そう言って、道端に咲く花を一本摘む。
「見ていてください」
彼女は茎を少しだけ折ると、静かに魔力を流した。
「《癒し》」
淡い緑色の光が花を包む。
折れた茎が、ゆっくりと元通りにつながっていく。
「……」
やっぱり綺麗だ。
派手なスキルではない。
でも、命を慈しむような優しい光だった。
俺はそっとポケットへ手を入れる。
取り出したのは、小さな白い石。
さっき拾った乳白色の石英だ。
「……《岩石刻印》」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
石が淡く光る。
俺の頭の中へ、先ほど見た《癒し》の魔力の流れが浮かんできた。
光が巡る順番、
魔力が集まる位置、
放たれる瞬間、
「……刻める」
俺は石へ意識を集中させる。
細く、丁寧に。
少しでもズレれば失敗する気がした。
石の表面へ、美しい刻印が刻まれていく。
円。
線。
葉のような模様。
今まで刻んだ土壁や探知とはまるで違う。
複雑で、繊細だった。
でも、刻めたのは収納の刻印石の時の経験のおかげかな。
「ふぅ……」
完成した。
アーシャさんには適当に誤魔化してその場を離れ、
少し離れた場所で試してみる。
「頼む」
魔力を流す。
すると、
刻印石が淡く緑色に輝いた。
その光が俺の左手へ集まる。
「おっ」
昨日、小枝でつけた小さな擦り傷。
それがゆっくりと塞がっていった。
「成功だ」
思わず拳を握る。
また新しい刻印石が完成した。
そして、俺は左を見る。
アーシャさんがいるはずの方向だ。
多分見えないと思うけど……
だが、
そこには、”いた”。
その様子を、アーシャさんが見ていたのだ。
「……え?」
しまった。
見られていた。
「今の……」
「治癒魔法?」
「えっと……」
説明に困る。
スキルのことは、できれば知られたくない。
「魔道具みたいなものです」
苦し紛れに答える。
「魔道具?」
アーシャさんは興味津々で石を見つめる。
「そんな小さな石で治癒が?」
「便利ですね」
「まぁ……」
嘘ではない。
石なのは本当だ。
その時、
アーシャさんがふと真面目な顔になった。
「バサルトさん」
「はい?」
「その石、大事にしてください」
「?」
「《癒し》の力は、とても珍しいんです」
「珍しい?」
「ええ」
「この領地でも使える人はほんの一握り」
「だから狙われることもあります」
「……」
昨日の傷、
逃げていた理由、
それらが、全部つながった。
「なるほど」
「だから熊になって逃げていたんですね」
「そういうことです」
アーシャさんは苦笑した。
「本当は平和に薬師をしていたいだけなんですけどね」
しばらく歩くと、森が開けた。
小さな村が見えてくる。
木造の家々、
畑、
煙突から立ち上る白い煙、
「着きました」
「ここが私たちの村です」
「いい村ですね」
「ありがとうございます」
その時、
「アーシャ!」
子どもたちが一斉に駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!」
「無事だった!」
「心配したよ!」
アーシャさんは優しく笑いながら子どもたちの頭を撫でる。
「ごめんね」
「もう大丈夫」
その光景を見て、俺は自然と笑みがこぼれた。
この人は、本当に優しい人なんだな。
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