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22. 森の熊さん

 そして、

 あれから三日がたった。

 人間収納は……

 うん、危険だね。

 そんな俺は、新しい依頼書を眺めていた。

 そこへ受付さんが一枚の依頼を差し出す。

「バサルト君」

「はい?」

「これ、受けてみない?」

 依頼書には大きく書かれていた。

『森に熊出没!討伐求む」

「熊……」

 報酬も悪くない。

 6万メルクルなら、希少薬草3本探すのと同金額だ。

 しかも、森なら……

 石もある。

「受けます」

 即答だった。

 受付さんは笑った。

「気を付けてね」

「その熊、結構強いらしいから」

「大丈夫です」

 俺には探知の刻印石もある。

 土壁もある。

 収納もある。

 そして、石もある。(武器はないけどね。)

「……よし」

 俺は荷物を背負い、森へ向かう。



 翌朝、

 俺は街の西に広がる森へ足を踏み入れていた。

 依頼内容はシンプルだ。

 森に現れた熊型魔物を討伐せよ。

 そう、ただそれだけだ。

 最近、薬草採取に来た人や木こりが何人も襲われているらしい。

 幸い死者は出ていない。

 だが、このまま放置するわけにもいかない。

「さて……」

 俺は収納の刻印石から、小さな石を一つ取り出した。

「探知」

 魔力を流す。

 石に刻まれた刻印が淡く光り、周囲へ魔力が広がっていく。

 しばらくすると、森の地形がぼんやりと頭の中へ浮かんできた。

「……いた」

 反応は一つ。

 かなり大きい。

 おそらく依頼の熊だろう。

「思ったより近いな」

 俺は慎重に森の奥へ歩き始めた。

 鳥のさえずりが響く。

 木漏れ日が地面を照らし、ところどころには小さな石が転がっている。

「……」

 思わずしゃがみ込む。

「この石、層が綺麗だな」

 灰色の石の中に白い筋が幾重にも走っている。

「持って帰ろう」

 収納。

 石が消える。

「よし」

 石を拾って満足した俺は再び歩き始めた。

 ……依頼を忘れたわけではない。

 決して。


 十分ほど歩いた頃、

「グルルルル……」

 低い唸り声が聞こえた。

 探知の反応もすぐ近くだ。

 俺は木陰からそっと覗く。

「……いた」

 巨大だった。

 全身を黒い毛で覆われた熊。

 前世で見た普通の熊より一回り以上大きい。

 鋭い爪、分厚い腕。

 一撃でも食らえば危険だろう。

「どうする……」

 真正面から戦うのは得策ではない。

 俺は静かに刻印石を取り出した。

 土壁

 収納

 探知

 どれを使うべきか。

「まずは様子を……」

 その時だった。

「きゃあっ!」

 森に女性の悲鳴が響いた。

「!」

 熊が一気に走り出す。

 その先には、一人の少女がいた。

 年齢は俺より少し上くらいだろうか。

 栗色の長い髪。

 緑色の外套。

 何かの薬草を抱えたまま転んでしまっている。

「まずい!」

 考えるより先に身体が動いた。

「土壁!」

 刻印石へ魔力を流す。

 ゴゴゴッ!!

 少女と熊の間に巨大な土壁がせり上がる。

 ドォォン!!

 熊が激突し、土煙が舞い上がった。

「今のうちです!」

 俺は少女へ駆け寄る。

「立てますか?」

「え……?」

 少女は驚いた顔で俺を見る。

「は、はい……」

 腕を貸し、立たせる。

「離れてください!」

「で、でも……」

「早く!」

 少女は頷き、後ろへ下がった。

 その瞬間、熊が土壁を砕きながら飛び出してきた。

「やっぱり壊されたか」

 予想通りだ。

 でも、

 時間は稼げた。

「探知」

 熊の動きを読む。

 右、左、

 次は正面。

「そこ!」

 土壁をもう一枚。

 熊の突進が止まる。

「今だ!」

 近くに落ちていた拳大の石を拾い、全力で投げる。

 ゴンッ!

 石は熊の額へ命中した。

「グオオォッ!」

 熊が怒り狂う。

「ご、ごめん!」

 思わず謝ってしまう。

 いや、謝ってる場合じゃない。

 再び石を拾おうとして——

「……ん?」

 違和感。

 探知の反応がおかしい。

「一つ?」

 熊しかいないはずなのに、

 もうひとつ反応がある。

 反応からして人だ。

「熊の中に……人?」

 その瞬間だった。

 熊の身体が淡く光り始める。

「え?」

 黒い毛並みが消えていく。

 巨大な身体が小さくなる。

 鋭い爪も、牙も、

 すべて光の中へ溶けていった。

 そして、

 そこに立っていたのは……

 一人の少女だった。

「……え?」

 俺は思わず固まる。

 さっきまで熊だった場所には、

 茶色い髪を揺らす、一人の少女が立っていた。

 でも、

 耳だけが、熊のままだった。



「……」

 ……熊だったよな?

 少女はふらりとよろめき、その場へ倒れ込んだ。

「ちょ、ちょっと!」

 慌てて駆け寄る。

 呼吸はある。

 ただ、かなり消耗しているようだった。

 少女は薄く目を開ける。

「……助けて」

 その小さな声を最後に、意識を失った。

 俺は空を見上げ、小さくため息をつく。

「熊退治に来たはずなんだけどなぁ……」

 どうして俺の依頼は、こうなったのだろう。



 俺の悩みは尽きないのであった。

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