19. 未成年だから、オサケは飲めないよ?
薬草採取の依頼を終えたその日の夕方、
俺は、いつものように冒険者ギルドへ報告を済ませると、財布の中をちらりと確認した。
「……思ったより増えたな」
薬草の依頼報酬に加え、森で拾った鉱石や素材の買い取り金。
先日まで「金欠だ……」と頭を抱えていたのが嘘のようだ。
もちろん、大富豪になったわけではない。
それでも、宿代を気にせず数日は生活できるくらいの余裕はある。
少しだけ心が軽くなった。
「今日は何か美味しいものでも食べるか」
そう呟いてギルドを出て歩き始めようとした、
その時だった。
「おーい! バサルト!」
後ろから聞き覚えのある声が飛んでくる。
振り返ると、大柄な男が片手を上げていた。
「ガルドさん」
俺の初依頼をサポートしてくれた冒険者、ガルドさんだ。
今日も相変わらず強面だが、その表情はどこか柔らかい。
「依頼達成、おめでとう!」
「ありがとうございます」
「よし! 今日は祝いだ!」
そう言って俺の肩をバンッと叩く。
……痛い。
「酒場行くぞ!」
「酒場ですか?」
「ああ! 初依頼を終えた新人は、先輩がおごるのが俺たちの流儀だ!」
「まぁ、二日も遅くなったがな」
周りにいた冒険者たちも笑いながら頷く。
「そうそう!」
「新人祝いだ!」
「今日は飲むぞー!」
ずいぶん賑やかだ。
断る理由もないので、俺はガルドさんたちについていくことにした。
街の一角にある酒場、
夕方にもなると、多くの冒険者で賑わっていた。
木のテーブル。
香ばしい肉の匂い。
笑い声。
ジョッキがぶつかる音。
いかにも異世界の酒場という雰囲気だ。
だが、この酒場、どう見ても冒険者ギルドなのである。
だが、そんな思考の隙もなく、
「座れ座れ!」
ガルドさんに席へ押される。
すると店員のお姉さんが笑顔で近づいてきた。
あっ、冒険者ギルドの受付の人だ。
と、それとなく俺は思った。
でもやっぱり気になる……
「ここって、冒険者ギルドでは……」
「冒険者ギルドは今日は店じまい」
なんとなくガルドさんが答えてくれると思っていたが、
店員さんが答えてくれる。
「だから、夜は酒場を経営しているのよ」
だが、
「ご注文は?」
と、すぐに別の話題に移る。(話題かな?)
「エール人数分!」
「かしこまりました!」
店員さんは改めて俺を見ると、少し首を傾げた。
「あれ?」
「この子、まだ若いわよね?」
「え?」
ガルドさんも俺を見る。
「そういや、お前いくつだ?」
「十六歳です」
「……」
場が止まった。
次の瞬間、
「あっ」
全員が同時に声を漏らした。
「未成年じゃねぇか!」
「酒飲ませちゃ駄目だ!」
「危ねぇ危ねぇ!」
さっきまで「飲むぞー!」と騒いでいた冒険者たちが、一斉に慌て始める。
店員さんは苦笑しながら言った。
「じゃあ、この子には果実水ね」
「お願いします」
俺は素直に頷く。
前世でも酒はそれほど好きではなかった。
それに、今の身体は十六歳。
わざわざ飲む理由もない。
というか、この世界……
ちゃんと未成年の概念があるんだ。
結構ちゃんとした国なんだなぁ……
しばらくすると、それぞれの前に飲み物が運ばれてきた。
冒険者たちの前には黄金色のエール。
俺の前には、透明なグラスに入った淡い赤色の果実水。
甘い果物の香りがふわりと漂う。
「いただきます」
一口飲む。
「……!」
美味しい。
リンゴともブドウとも違う。
ほんのり甘く、後味はすっきりしている。
まるで、俺が前世で好きだったマンゴーみたいな……
まぁ、異世界にはないか。
「これ、美味しいですね」
「だろ?」
店員さんが嬉しそうに笑う。
「うちの自家製よ」
「ありがとうございます」
その横では、
「乾杯!」
「初依頼達成おめでとう!」
ジョッキがぶつかり合う。
ガルドさんたちは豪快に酒を飲み始めた。
「ぷはぁーーっ!」
「これだよこれ!」
「仕事終わりの酒は最高だ!」
……楽しそうだな。
俺は果実水を飲みながら、その様子を眺める。
こういう時間も悪くない。
追放された時はどうなることかと思った。
でも、
冒険者になって、ガルドさんたちのような人と出会えて、
少しずつ、この世界での居場所ができ始めている。
「バサルト」
「はい?」
ガルドさんがジョッキを持ちながら笑う。
「お前、本当に変わった奴だ」
「え?」
「薬草を百束集める新人なんて初めて見た」
周囲から笑い声が上がる。
「しかも鉱石まで拾って帰ってきやがる」
「石好きだからな!」
誰かがそう言うと、また笑いが起きた。
俺も思わず苦笑する。
「石が好きなんだから、仕方ないじゃないですか」
「はははっ!」
酒場中が笑いに包まれる。
その夜、
俺は果実水を三杯おかわりした。
一方その頃、
ガルドさんたちは……
「うぇぇぇ……」
「飲みすぎた……」
「頭いてぇ……」
全員、完全に酔いつぶれていた。
俺はそんな先輩冒険者たちを見ながら、小さく呟く。
「……やっぱり果実水で正解だったな」
そう思いながら、最後の一口を飲み干した。
もちろん、この時の俺はまだ知らない。
翌朝、自分があんなことになることを……
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