18. 依頼達成(過多)
刻印石を作ってから一日、
冒険者になってから、しばらくが経った気がする。
何をするにも緊張していたし、
今でも、冒険者ギルドからもまだお金を借りては返す、の生活だ。
でも、
今は少しだけ慣れてきた。
そして、
俺には一つの強力な味方がいる。
「収納の刻印石」
手の中にある小さな石を見る。
これのおかげで、採取依頼の効率は大きく変わった。
普通なら、
薬草を集める。
袋に入れる。
重くなったら戻る。
それを繰り返す。
しかし、
俺の場合、
「収納」
集めた薬草が消える。
重量も増えない。
まだまだ入る。
つまり、
「もっと探せる」
ということだ。
……。
今思えば、
この時点で気づくべきだった。
俺は
限度というものを知らなかった。
「……」
森の中、
俺はしゃがみ込んでいた。
目の前には薬草、
その隣にも薬草、
さらに奥にも……
「……」
見つけた。
また見つけた。
「珍しい種類だ」
少し違う色、
少し違う葉の形。
「これは研究用に……」
収納。
「こっちも……」
収納。
「あ、これは品質が良い」
収納。
気づけば、
俺は依頼対象以外の薬草まで集めていた。
いや、
正確には、
薬草だけではない。
「この石……魔力が少し高い」
収納。
「この鉱石も……」
収納。
「こっちは珍しい模様……」
収納。
目的が、
完全に変わっていた。
数時間後、
俺は街へ戻った。
そして、
冒険者ギルドへ入る。
「こんにちは」
受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれる。
「依頼達成の報告です」
「薬草採取ですね」
「はい」
俺は依頼書を渡す。
「では、薬草を確認しますね」
「はい」
受付さんが確認用の箱を出す。
「それでは納品を――」
「取り出し」
俺は刻印石を使う。
すると、
薬草が次々と現れる。
机の上、
箱の中、
床の近くまでも。
「……」
受付さんの手が止まる。
「……」
冒険者たちの会話も止まる。
「……」
俺も少し嫌な予感がした。
「えっと……」
受付さんが恐る恐る聞く。
「バサルトさん」
「はい」
「これ……」
「全部、今回の依頼の薬草ですか?」
「はい」
即答。
すると、受付さんは、依頼書を見る。
次に、薬草を見る。
そしてもう一度依頼書を見る。
「……」
「多すぎません?」
「え?」
聞けば、
今回の依頼での必要数は十束ほどらしい。
新人冒険者なら、
半日かけて集める程度。
しかし、
俺が持ってきた量。
その数なんと、
「百束以上……」
受付さんが呟く。
「……」
俺は少し考える。
「確かに」
多い。
でも、森にはたくさんあった。
収納もある。
なら、
集めるしかないと思った。
「……」
受付さんは頭を抱える。
「バサルトさん」
「はい」
「採取依頼は」
「森を空にする依頼ではありません」
「……」
正論だった。
さらに問題は続く。
「こちらの鉱石は?」
受付さんが別の箱を見る。
「あ」
「それは……」
俺は少し言葉に詰まる。
「森に落ちていたので」
「拾いました」
「……」
受付さん。
沈黙。
「依頼外の素材ですね」
「はい」
「買い取りになります」
「!」
その言葉で。
俺の目が輝く。
「買い取り……」
「はい」
「お願いします」
即答。
受付さんは苦笑した。
結果、薬草依頼の報酬は通常通り。(というか6回分ぐらい)
しかし、
大量の薬草、追加素材、鉱石、その他採取物……
それらの買い取りによって。
「……」
俺の財布。
かなり潤った。
「すごい……」
追放直後、金欠だった俺が、
今では、
少し余裕ができた。
「収納の刻印石」
改めて思う。
便利すぎる……
冒険者ギルドを出る。
そのとき、
俺は考えていた。
「次は何を刻印しよう」
探知
収納
土壁
どれも便利だった。
まだまだ可能性はある。
そして、俺の視線は城壁の外へ向かう。
広い世界、
未知の場所。
そこにはまだ見たことのない石がある。
「……」
胸が高鳴る。
冒険者になって。
正解だったかもしれない。
しかし、
俺は知らなかった。
この「薬草を集めすぎた事件」が、
冒険者ギルド内で、新人冒険者の噂として広がっていることを。
「新人なのに収納持ち?」
「いや、それより……」
「薬草百束って何だよ」
「……変な奴が来たな」
こうして、バサルト=ガリソディアの名は少しずつ、冒険者たちに知られていくことになる……
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