16. 盗賊さん
探知の刻印石。
それが完成してから一日がたった。
そんな俺は、
冒険者として少しずつ依頼をこなしていた。
薬草採取だ。
まだFランク。
まだまだ新人。
だけど、
「少しずつ慣れてきたな」
そう感じていた。(まだ、冒険者登録して3日目だけど)
最初は街を歩くだけでも分からないことばかりだった。
冒険者ギルドの仕組み。
依頼の受け方。
報酬の受け取り。
魔物への警戒。
全部が初めてだった。
でも、
ガルドさんのおかげで、少しずつ覚えている。
「ありがとうございます」
昨日、俺が改めて言うと、
「気にするな」
ガルドさんはいつものように笑った。
「俺も昔、先輩に教えてもらった」
「だから今度は俺の番だ」
怖そうな顔、大きな体。
でも、中身は本当に優しい人だった。
今日は、
俺は一人で依頼を受けていた。
内容は、森での薬草採取。
危険度は低い。
探知の刻印石もある。
少しずつ一人で行動する練習をするための
第一歩だ。
「さて……」
森の中を歩く。
周囲を見る。
木、
草、
そして、
「……」
”石”
やっぱり、
森という場所は面白い。
同じように見える石でも一つ一つ違う。
色・形・魔力の流れ
それらが全て違う。
「……」
気づけば目的の薬草より石を見ていた。
「いけない」
首を振る。
今は依頼中だ。
集中しないと。
そう思った瞬間、
「……」
何か違和感を感じた。
静かすぎる。
鳥の声がしない。
風の音だけがする。
「《探知》」
俺は刻印石へ魔力を流す。
すると、
「……」
反応だ。
これは……人間?
複数いるな。
距離は……
約百メートルほどだ。
「人?」
魔物ではない。
でも、なぜ森の中に複数の人間がいる?
警戒しながら進む。
すると、木々の隙間から声が聞こえた。
「金目の物は全部出せ!」
「お願いします! 見逃してください!」
……。
嫌な予感がする。
俺はそっと近づく。
そこにいたのは数人の男たちだった。
そして、荷物を抱えた商人らしき人。
「盗賊……」
思わず呟く。
どうしよう。
関わらない。
それが普通だ。
俺はまだ新人冒険者。
戦闘能力も高くない。
そのうえ相手は複数だ。
危険すぎる。
でも、
「……」
目の前で困っている人がいる。
前世の俺なら、
きっと見て見ぬふりをしたかもしれない。
忙しいから、怖いから、関わりたくないから、と……
でも、
今の俺はバサルト=ガリソディア、冒険者だ。
「……」
ゆっくり前へ出る。
「そこまでにしてください」
盗賊たちが振り返る。
「……あ?」
一人の男が睨む。
「なんだ坊主」
「一人で英雄ごっこか?」
周囲から笑い声が上がる。
確かに俺は小さい。
武器もない。
見た目だけなら、ただの少年だ。
「忠告します」
俺は言う。
「今なら引いてください」
「は?」
盗賊の一人が近づいてくる。
「舐めてんのか?」
その瞬間。
俺は石を取り出した。
「《岩石刻印》」
魔力を流す。
石が光る。
「……?」
盗賊たちが怪訝な顔をする。
そして、
「土壁」
地面が盛り上がる。
巨大な壁が出現した。
「なっ!?」
盗賊たちの進路を塞ぐ。
攻撃ではない。
ただ、動きを止めるため。
「魔法石……?」
一人が呟く。
だが、
俺はそこで気づいた。
盗賊の中に、一人だけこちらを冷静に見ている男がいる。
「……」
その男は笑っていた。
「面白い力だな」
低い声。
「坊主」
「その石……」
「どうやって作った?」
「……」
嫌な予感がした。
この男……
ただの盗賊ではないな。
目の前にいる盗賊たち、その中で俺は一人の男から目を離せなかった。
他の盗賊とは違う。
荒々しい雰囲気で、乱れた服装。
手には武器を持っている。
それでもその目だけは冷静だった。
「坊主」
男が口を開く。
「その石」
「どうやって作った?」
……。
やっぱりそこを見るか。
普通なら、突然現れた土壁に驚くところだ。
なのに、
この男は、俺が使った石に興味を持っている。
「答える必要がありますか?」
警戒しながら聞く。
すると男は、
「ないな」
あっさり答えた。
「悪かった」
「……え?」
予想外だった。
盗賊は、もっと乱暴で、自分勝手な人間だと思っていた。
だが、この男は違う。
「俺の名前はレグ」
男は名乗る。
「この盗賊団の頭をやっている」
「盗賊団の頭……」
つまり、一番危険な人物。
だが、レグはため息をついた。
「……とは言っても」
「まぁ、盗賊なんて呼ばれるのも微妙だがな」
「?」
意味が分からない。
すると、後ろにいた商人が震えながら言う。
「そ、その人たちは……」
「本当の盗賊とは違います」
「え?」
商人を見る。
「どういうことですか?」
「この人たちは……」
商人は言葉を選びながら話す。
「元々は村人だったそうです」
「ですが……」
「ある事件で……」
そこまで言って黙る。
レグが笑った。
「まあ、訳ありってことだ」
「でも」
俺は聞く。
「今、あなたたちは人の荷物を奪おうとしていました」
それは事実だ。
理由があったとしても。
やっていることは変わらない。
すると、レグは少し目を伏せた。
「……そうだな」
「言い訳はできない」
意外だった。
『仕方なかった』
『悪くない』
とでも言うと思っていた。
でも、この男は自分のしたことを理解している。
「ただ」
レグは続ける。
「この商人の荷物」
「全部奪うつもりはなかった」
「……」
「食料だけだ」
「食料?」
「ああ」
レグの後ろを見る。
盗賊たちの表情は、よく見ると疲れている。
装備もボロボロで明らかに余裕がない。
「……」
少しだけ分かった。
この人たちは、
ただ楽しんで悪事をしているわけではない。
だが、
「だからといって、許されるわけではありません」
俺が言うと、
レグは頷いた。
「ああ」
「だから止めてくれて助かった」
「……え?」
また予想外の反応。
「俺たちは間違った方向へ進んでいた」
「誰かに止められる必要があった」
「……」
この人、本当に盗賊なのか?
すると、突然後ろから声が聞こえた。
「レグ!」
一人の盗賊が叫ぶ。
「時間がない!」
「……」
レグの表情が変わる。
「そうか」
そして俺を見る。
「坊主」
「一つ頼みがある」
「なんですか?」
レグは自分の腰につけていた袋を外す。
「これを預かってくれ」
「?」
受け取る。
中には、小さな石。
……ではなく。
何かの道具だった。
「これは?」
「俺の大事なものだ」
「だが」
レグは言う。
「今の俺たちには持っていられない」
意味が分からない。
だがその瞬間、俺は気づいた。
「……」
この袋……
魔力の流れがある。
「収納魔法……?」
呟く。
レグが少し驚く。
「分かるのか?」
「少しだけ」
俺は袋を見る。
そして、
ある考えが浮かんだ。
収納。
もしこれを……
「刻印できたら……」
俺の岩石刻印で、
「……」
また新しい可能性が!
レグは笑う。
「やっぱり面白い奴だな」
「坊主」
「名前は?」
「バサルトです」
「そうか」
レグは頷く。
「覚えておく」
「いつかまた会うかもしれないからな」
その言葉を残し、
盗賊たちは森の奥へ消えていった。
俺の手には。
一つの収納袋。
そして、
頭の中には新しい発想がある。
「収納の刻印……」
もし成功すれば。
大量の石をもっと楽に持ち運べる!!
「……」
いや、そこなのか。
普通なら冒険に便利とか考えるところだろう。
でも、俺は違う。
「石を……」
「もっと持ち運べる……」
その瞬間、俺の中で新しい研究が始まった。
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