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15. 探知の刻印

 森の中、

 俺とガルドさんは、足を止めていた。

 理由は一つ。

 ガルドさんが、魔物の気配を感じ取ったからだ。

「探知」

 ガルドさんがもう一度スキルを使う。

 目を閉じ、周囲の情報を読み取っているようだった。

「……」

 数秒後。

「右前方」

「距離、およそ三十メートル」

「小型魔物だ」

 淡々と告げる。

 俺は息を飲む。

 これが探知。

 目で見えないものを知る力。

「すごいですね……」

 思わず言葉が漏れる。

「そうか?」

 ガルドさんは首を傾げる。

「便利ではあるが、戦闘向きではない」

「でも」

 俺は周囲を見る。

「危険を事前に知ることができる」

「それだけで、かなり価値があると思います」

 すると、ガルドさんは少し驚いた顔をした。

「……お前」

「はい?」

「変わった見方をするな」

「そうですか?」

「ああ」

 ガルドさんは笑う。

「普通は、強いか弱いかで判断する奴が多い」

「でもお前は違う」

「使い道を考えている」

「……」

 その言葉を聞いて。

 俺は少し考えた。

 使い道。

 それは俺がずっとやってきたことではないか。

 《岩石刻印》

 《好きこそものの上手なれ》

 父上が価値を見出せなかった力。

 でも俺は考えた。

 どう使えばいいのか。

 どうすれば役に立つのか。

 そして、

「……」

 ある考えが浮かぶ。

 だが、それを実行しようとする時間は

 すぐには訪れなかった。



「狩るか?」

 ガルドさんは俺に聞く。 

「え、俺に聞かれても……」

 こういうのは、逃げたほうが良さそうな気がするんだけど……(俺的には)

「じゃあ、狩るか」

 俺は、結局答えが思い浮かばずだったので、

 結局、ガルドさんが決めてくれた。

「誰かに襲いかかっても、良くないですもんね」

「そうだ」

 ということで、

 俺とガルドさんは、小型魔物がいるという方向へ向かうことにした。

 距離は短かった。

 まぁ、30メートルだしな。

 というか、この世界メートル法なんか……(なんか馴染みすぎて気づかなかった……) 

 木々が開ける。

 すると、

 そこにいたのは……

 「ウサちゃん?」

 俺は口に出す。

 そう、目の前にいたのは、普通に可愛いうさぎだったのだ。

「あれ?」

「でも、なんか違う……」

 うさぎとの決定的な差は、その頭に生えている角だ。

「あれは、ホーンラビットだ」

 そして、ガルドさんは俺に説明してくれた。



 あのウサちゃんは、

 ホーンラビットっていうD級魔獣で子供だったら殺せるぐらいには強いらしい。

 怖っ。

 それが、俺が詳細を聞いた最初に思い浮かんだことだ。

 あんなに愛らしいのに、殺人ラビットだなんて……

 俺は異世界を甘く見ないと決心した。

「よし、言ってくる」

 そう言ってガルドさんは前に出る。

 ガルドさんは腰から剣を抜き、

 ホーンラビットに向けた。

 対するホーンラビットも警戒しているようだ。

 で、

 横から眺めている俺の感想はと言うと……

 ガルドさん、顔に一番合ってる、

 このシーンが。

 睨み合う両者。

 どちらも動きません。(心内実況か何か)

 そして、

 先に動いたのは……

 ホーンラビットだった。

 だが、ガルドさんは

 ホーンラビットが跳んだ一瞬で

 剣を横に傾け、

 スパッ

 と、ホーンラビットを一瞬で斬ってしまった。

「ウサちゃーん!!」

 俺は叫ぶ。

 そして、後に残ったのは、

 うさちゃんの亡骸だけだった……



 ホーンラビットとの戦闘は、ガルドさんのおかげで問題なく終わった。

 だが、その直後、

「いや、なんでそっちに情を傾けてるんだよ」

 ってツッコまれた。

 たしかにそうだった。

 正論に俺は一瞬だが打ちひしがれた。(なんでやねん)

 それでも俺の頭の中には、別のことでいっぱいだった。

 探知の力を、

 もし、

「石に刻めたら……」

 思わず呟く。

「ん?」

 ガルドさんが振り返る。

「あ、いえ」

「また何か考えている顔だな」

「……」

 図星だった。

 街へ戻る途中、俺はずっと考えていた。

 《岩石刻印》

 それは石に何かを刻む力。

 今まで試したものは、

 土壁の魔術だけだ。

 ならば、

 スキルそのものは?

「……」

 試したい。

 ものすごく試したい。

 でも、

 勝手に他人のスキルを刻むことなんてできるのだろうか。

 そう思っていると、

「バサルト」

 ガルドさんが呼ぶ。

「はい」

「何をそんなに考えている」

「……」

 少し迷った。

 でも、正直に話す。

「ガルドさんの探知スキルを見て」

「石に刻めないかなと思いました」

「……」

 沈黙。

 やっぱり変なことを言っただろうか。

 しかし、

「面白いな」

 ガルドさんは笑った。

「普通はそんな発想しない」

「でも」

 ガルドさんは自分の手を見る。

「できるなら、便利そうだ」

「本当ですか?」

「ああ」

「試してみてもいい」

「……!」

 案外一瞬で許可が出た。

 これこそ、案ずるより産むが易し、だ。



 街へ戻ると、俺はすぐに準備をした。

 用意した石、

 そして、

 ガルドさんの探知スキル。

「本当にいいんですか?」

「ああ」

「失敗しても気にするな」

 ガルドさんは笑う。

 いや、聞いてるのはそちらではないのですが……

 そんな俺の顔にも気づかず、ガルドさんは続ける。

「何事も試さないと分からない」

 その言葉は、父上とは違う。

 そして、同じくらい、俺を信じてくれている気がした。

 俺は石を握る。

 意識を集中させる。

「《岩石刻印》」

 そして、

「《探知》」

 ガルドさんのスキルを意識する。

 石の中へ魔力の流れを、能力の形を刻み込む。

「……!」

 石が光る。

 魔法陣が浮かぶ。

 そして、

 数秒後。

 光が収まった。

「……」

 完成した。

 手の中にあるのは。

 小さな石。

 そこには、新しい刻印が刻まれている。

「これが……」

 俺は息を呑む。

 《岩石刻印》によって作られた。

 新しい可能性。

「探知の刻印石」

「使えるのか?」

 ガルドさんが聞く。

「試します」

 魔力を流す。

 すると、その瞬間、

「……」

 周囲の情報が頭に流れ込んできた。

 近くの人、建物、小さな動物、魔力の反応。

「……」

 すごい。

 本当に、

「成功……した」

 俺は石を見る。

 ただの石だったものが。

 力を持つ道具になった。

「これ……」

 もしかしたら、

 俺の岩石刻印は、ただ魔法を保存するだけじゃない。

「人の持つ力すら……」

 刻める。

 そう気づいた瞬間、胸の奥が熱くなった。

 ガルドさんは腕を組む。

「バサルト」

「はい」

「その力」

「たぶん、お前が思ってるよりすごいぞ」

「……」

 俺は石を見る。

 そして思う。

 父上が地味だと言った力。

 誰も価値を知らなかった力。

 でも、俺だけは信じたい。

「もっと試したいです」

「もっとたくさんの石に」

「もっとたくさんの力を」

 未知の石。

 未知の能力。

 未知の可能性。

 この世界には、まだ知らないものがたくさんある。

 そして、俺の旅は、

 まだ始まったばかりだった。

後書きは、刻印石完成の直後の話をちょっぴりと。


 バタッ。

 俺は倒れる。

「おい、バサルト、大丈夫か」

 ちょっと、情報処理が俺の脳では追いつかなかったようだ……

 それは、後日改善せねば……


そんな事を考えるバサルトの日々はまだまだ続く。

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