12. 冒険者をやってみよう
目の前にたたずむ冒険者ギルド……
その扉を開いた瞬間、
「……」
俺は少しだけ固まった。
想像していたよりも、ずっと賑やかだったからだ。
大きな酒場のような雰囲気で
壁には大量の紙が貼られている。
受付には何人もの冒険者が並び、奥では依頼について話している人たちがいる。
「これが……冒険者ギルド」
思わず呟く。
前世の記憶では、ゲームや小説でしか知らなかった場所。
でも、ここは現実だ。
剣を腰に下げた人。
杖を持った魔術師。
重そうな鎧を着た人。
様々な人がいる。
「……すごい」
少しだけ胸が高鳴る。
ここから俺の新しい人生が始まる。
そう思った。
「……とはいえ」
すぐに現実を見る。
俺は冒険者経験ゼロ。
戦闘経験もほとんどない。
あるのは、
「岩石刻印と、石への知識だけ……」
果たして冒険者と言えるのだろうか。
少し不安になりながら、受付へ向かう。
「冒険者登録をしたいのですが」
受付にいた女性が顔を上げる。
「はい、冒険者登録ですね」
笑顔での優しい対応。
「初めての登録でしょうか?」
「はい」
「では、こちらの用紙に必要事項を――」
説明を聞く。
名前・年齢・得意な武器・使用できる魔法。
……。
そこで俺の手が止まった。
「得意な武器……」
ない。
「使用できる魔法……」
土魔術。
でも、まだ実戦経験なし。
「……」
困った。
「どうされました?」
「あの……」
少し迷ってから書く。
名前:バサルト=ガリソディア
年齢:16歳
得意武器:なし
魔法:土属性
スキル:岩石刻印
好きこそものの上手なれ
「……」
受付のお姉さんが紙を見る。
そして、
「珍しいスキルですね」
そう言った。
「役に立たないですよね」
思わず言ってしまう。
すると、
「いえ?」
予想外の返答だった。
「スキルの価値は、使う人によって変わりますから」
「……」
少し驚く。
父上とは違う。
この人は、最初から否定しなかった。
「ただ」
受付のお姉さんが続ける。
「登録したばかりの場合、最初はFランクからになります」
「分かっています」
冒険者にはランクがある。
Fから始まり、E、D、C、B、A、そして最高位のS。
「まずは簡単な依頼から経験を積んでください」
「はい」
カードを受け取る。
そこには、
『冒険者ランク:F』
と書かれていた。
「本当に始まったんだな……」
手の中のカードを見る。
ガリソディア家の名も、公爵家の身分も。
ここでは関係ない。
俺はただの新人冒険者。
少し不思議な気分だった。
依頼掲示板を見る。
様々な依頼がある。
・魔物討伐
・護衛
・素材採取
・薬草採取
「……」
やはり、目に入るのは素材系。
特に、
『鉱石採取』
という文字。
「……」
気になる。
ものすごく気になる。
しかし、
「Fランクでは受けられないか」
依頼条件を見る。
必要ランク:D以上
「ですよね……」
まだ始めたばかりだから仕方ない。
そこで、一つの依頼を見る。
『薬草採取』
報酬はそこそこ。
難易度は低い。
「これなら」
できそうだ。
戦闘経験がなくても森へ行けばいい。
そして、
「もしかしたら……」
薬草の近くに、
珍しい石があるかもしれない。
「……」
結局そこなのか。
自分でも思う。
でも、それが俺だ。
依頼書を持って受付へ向かう。
「薬草採取ですね」
「はい」
「初依頼になりますね」
「はい」
受付のお姉さんが少し微笑む。
「頑張ってください」
「ありがとうございます」
依頼書を受け取る。
冒険者として最初の一歩。
そのはずなのに、
俺の頭の中にあるのは。
報酬でも、冒険者ランクでもない。
「森か……」
どんな石があるだろう。
そんなことだった。
ギルドを出る。
空を見る。
新しい生活。
新しい場所。
新しい出会い。
「よし」
俺は歩き出す。
まずは薬草採取。
そこからだ。
そして、この世界にある、まだ見ぬ石をいつか全部見てみたい。
そんな思いを胸に。
バサルト=ガリソディアの冒険者生活が始まった。
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