10. 石好きの無駄遣い
追放されてから、三日がたった。
そして、
俺はとある街にいた。
名前は……サウベリアという。
ガリソディア領都から離れた場所にある、そこそこ大きな街だ。
俺は街の大通りを歩いていた。
周囲には、たくさんの店がある。
食料品店、
武器屋、
防具屋、
雑貨屋。
そして⋯⋯
「……」
俺の視線は、一つの店にとまる。
看板に書かれている文字。
『鉱石・魔石専門店』
「……」
それを見て、足が止まる。
いや、止まってしまった。
「……少しだけ」
そう呟く。
「見るだけなら問題ないよな」
誰に言っているのか分からない言い訳をしながら、
俺は店の扉を開く。
カラン。
小さな鐘の音が響く。
「いらっしゃい」
肉付きの良い体をした店員、
いや、見た目からして店長が俺に軽く会釈をする。
だが、俺の意識はもう店内に釘付けだった。
「……」
棚に並ぶ石のは、
石、
石、
石。
そこらじゅうが石に囲まれた空間だ。
赤い鉱石。
青い結晶。
淡く光る魔石。
見たことのない色、知らない形の未知の鉱物。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
前世では、
図鑑や店でしか見られなかった。
そして、今はもっと違う。
魔力を宿した石など、異世界特有の鉱石がある。
ここには、俺の知らない石が大量にある。
「お客さん、何かお探しかい?」
店員が尋ねる。
「えっと……」
俺は棚を見る。
「これは?」
「それは炎鉱石だな」
「これは?」
「水属性の魔石だ」
「じゃあ、これは?」
「これは珍しいやつだぞ」
店長は笑って言う。
よくぞ目につけた。
みたいなことを心で言ってそうな感じだ。
「黒曜石系の魔鉱石だ」
「黒曜石……」
その言葉だけで、興味が跳ね上がる。
「ください」
「あっ?」
「これください」
気づけば口にしていた。
それからというもの、時間が経つのは早かった。
あっという間だった。
「ありがとうなー」
店長の声を背に、俺は店を出る。
手には一つの袋がある。
中身は、鉱石、魔石、珍しい石たちだ。
「……最高だった」
心の底から思った。
こんなに楽しい買い物は久しぶりだ。
前世でも仕事終わりに鉱物ショップへ寄った時は、疲れを忘れることができた。
それと同じ。
いや、それ以上だ。
「さて」
俺は歩き出す。
「次は宿を探して……」
そこで、ふと気づいて、財布を見る。
中身を確認する。
「……」
もう一度見る。
「……」
さらに見る。
「……」
「え?」
俺の思考は停止した。
俺の所持金は、明らかに減っていた。
減っているというレベルではない。
「……」
俺は袋を見る。
大量の鉱石。
俺は財布を見る。
残り少ないお金。
「……」
嫌な予感がする。
俺は頭をフル回転させ考える。
宿代・食費・移動費など諸々の必要な生活費。
そして、鉱石代。
「……」
冷や汗が流れる。
「……やった」
小さく呟く。
「やってしまった」
追放された貴族。
新しい人生。
自由な旅。
そう、そこまではまだ良かった。
だが、
「三日目で金を石に変えた……」
石好きとしては間違っていない。
むしろ正しい。
だが、生活者としては、
「完全に間違えている……」
その日の夜、俺は宿屋の部屋で、購入した石を並べていた。
「……綺麗だ」
灯りに照らされた鉱石が輝く。
後悔はない。
全くない。
むしろ満足している。
問題は、
「明日の飯……どうしよう」
そこだった。
俺はベッドに横になる。
天井を見る。
「父上が見たら、何と言うだろう」
たぶん
『愚か者』
と言うだろう。
ヴァルネスなら、
『バサルト様らしいですね』
と苦笑するだろう。
……否定できない。
俺は昔からそうだった。
石を見ると夢中になる。
好きなものを前にすると、周りが見えなくなる。
「《好きこそものの上手なれ》……か」
スキル名を呟く。
俺の性格そのものみたいなスキル。
「でも」
俺は鉱石を見る。
「石は悪くない」
問題があるとすれば、
「俺の使い方だな……」
そう呟いた瞬間。
腹が鳴った。
「……」
静かな部屋に、やけに大きく響く。
「明日は……」
決意する。
「ちゃんと働こう」
石を買うために……
……ではなく、
まず、生きるために。
こうして、バサルト=ガリソディアの旅は。
三日目から少しだけ、前途多難なものになった。
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