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箸休め①:マンションはなぜペットOKか(後編)

挿絵(By みてみん)

箸休め:まさかの後編です。なぜマンションはペット

OKになったのか、いよいよその真相が明かされます!

衝撃に備えよ(備えなくていいよ)








挿絵(By みてみん)

ブエノスディアス、アミーゴ。ソイ健太です。

名前の由来は(当時の)全日本プロレス小橋健太選手です。

だから首輪がオレンジクラッシュ(分かる人には分かる)

 さて困った。どうしたものか。熟睡する茶トラ白を

 を見下ろし思案に暮れる。この部屋はペット不可だ。

 可哀想だが追い出すしかない。或いは里親を探すか。

 とりあえず今夜はもう私も寝よう。しかし、どこに

 寝ればいいのだ。見ると猫の横が少し空いていた。

 隣に寝たら怒るかな。噛みつかれて、引っ掻かれる

 かも知れない。だが待ってほしい。元々これは私の

 布団だ。なぜに私が遠慮しなければならないのか?

 寝るぞ寝るぞ! 勇を鼓して猫に並んで横たわる。

 すると狭い額が私の肩に押し付けられてきた。胸と

 お腹もくっついてきて、ゴロゴロと喉が鳴っている

 のが肌に伝わってくる。野良猫だからか、ちょっと

 生ゴミの臭いがしたが気になるほどではない。寝顔

 を覗き込んで撫でてみると、喉のゴロゴロに鼻息の

 ブヒブヒが加わり、両の前足でしがみついてきた。

 丸まった背中に腕を回して、猫の体を脇に抱える。

 二の腕に乗せた頭から、スピスピ寝息が頬にかかる。

 これまで経験したことのない癒しと安らぎと温もり。

 そして至福感と愛情と同時に、後悔と戸惑いと葛藤

 が胸に押し寄せてくる。何なんだ、この生き物は。


(失敗した)(もう手放せない)(飼うしかない)


 数日後、私の部屋に猫がいることを知った大家さん

 がペットは禁止ですと注意しに来た。居直った私が

「分かりました。すぐに引っ越します」と答えたら、

 おそらくアパートでは一番家賃の高い部屋の住人が、

 急に出ていくと言い出したことに慌てたらしい大家

 さんは、近所から苦情が来なければ飼ってもいいと

 譲歩してくれた。実のところ引っ越し先の目途など

 全く立っていなかった私は大いに感謝して、健太と

 名付けたその猫と、部屋に住ませてもらっていた。

 しかし、正直ちょっと(かなり)心苦しかったので、

 毎日こつこつとペットOKの物件を探し続けた。今

 はどうか知らないが、30年前(30年前!)はペット

 OKの部屋はなかなか見つからず、あっても家賃が

 私の懐具合からしたら高かったり駅から遠かったり、

 いざ条件が良さげで内見に行ったら、ペット以前に

 人間が住むのも大変なボロボロのお化け屋敷みたい

 な部屋だったりして、かなり困難な状況ではあった。


(これでダメだったら潔くあきらめよう)

 そう心に決めて最後に足を運んだのは、私が大学に

 合格して上京してきたとき部屋を仲介してもらった

 都内の不動産屋だった。目つきの鋭いリーゼントの

 社員が対応してくれた。これまでの経緯を説明して、

 新居の条件としては①間取りも家賃もリーズナブル、

 ②駅からもなるべく近く③内装はできるだけ美麗で、

 ④なおかつペットOKと、慎ましい希望 (どこがや)

 を伝えたところ、リーゼント社員は身勝手な要望に

 呆れるどころか、目をキラリと光らせ、こう答えた。

「あります」

 そして物件の概要書を私の前に広げた。


「間取りはこれ。家賃はこれ」(うわーリーズナブル!)

「地下鉄の駅から歩いて2分」(近い近~い♪)

「築4年。リフォーム済」(綺麗綺麗~♪)

「ただしペットOKではありません」(ガーン!)


「そ、そんな……!」

「大丈夫。ここの大家さんは、とても優しくてすごく

 いい人だから、契約のハンコを押す直前に猫がいる

 ことを告白してください。絶対にOKしてくれます」

「本当に?」

「本当です」

 リーゼントは不敵にニヤリと笑って大家さんに電話

 をかけると、早々に私を内見と面談に送り出した。

 

 地下鉄駅の出口から本当にすぐのマンションだった。

 マンションの前で待っていてくれた大家さんと会う。

(ハー君のはなし本編に出てくる大家さんのお父さん)

 聞いていたとおり、すごく感じのいい優しそうな人

 で、案内された部屋も実に素晴らしい部屋だった。

 ここなら健太と心置きなくゆっくり暮らせそうだ。

 話はトントン拍子に進んで、契約書も滞りなく全て

 書き終え、認め印を取り出す。そして、切りだす。

 いわゆるここが、正念場である。


「あの、すいません。実は、猫を飼っているんですが」

「えーーーっ!?猫いるのーーーっ!?」

「はい…… 一匹だけ」

「うーん…… 外に出さない?」

「絶対出しません。完全室内飼いにします」

「そう。じゃあ、いいですよ!」


 何ていい人だ!こんないい人に私は何て姑息な手段

 を!いや私じゃない、そそのかした不動産屋のリーゼント

 社員が悪いのだ(嘘です。感謝してます)

 大家さんはにっこり笑ったが、私は泣きそうだった。


 不動産屋に戻ってうまくいったと報告。リーゼント

 社員は、ほっとした笑顔を浮かべて喜んでくれた。


「よかった!念のため次の物件も用意してたんだけど」

「え…… では、ダメだった可能性も?」

「いやいや。あの大家さんなら大丈夫と信じてました!

 あくまで念のため!良かったです、契約が成立して!」

 本当に念のためだったのだろうか? まあいいや。

 感謝をこめて、リーゼント社員とガッチリ握手した。


 私のペットOK入居がきっかけなのか、マンション

 は他の部屋もペットOKになり、猫や犬を飼う住民

 が入居するようになった。大家さん自身も保護猫を

 飼い始めた。ほとんどの住民がペットを飼っている

 から、増えてきた野良猫たちに餌を与えることにも

 抵抗があるどころか、給餌スペースが作られて皆が

 思い思いに餌をあげていた。ハー君が登場する下地

 は着々と用意されていたのだ。しかしこの箸休めの

 最初に、マンションがペットOKになったのは私の

 おかげだと書いたがあれは嘘だ。おしかけ猫の健太

 とおしかけられた私の、頼りなくも危なっかしい猫

 と人間の家族が路頭に迷わないように、鷹揚に受け

 入れてくれた、マンションの大家さんのおかげだ。

 もちろんペット禁止なのに同居を許してくれていた

 前のアパートの大家さんや、30年以上も続く奇跡の

 邂逅を仲介してくれた、不動産屋のリーゼント社員

 のおかげでもある。皆さんありがとう。多謝多謝。








挿絵(By みてみん)

にゃっはー引っ越し完了!全てNNNの計画通り!

(悪い顔に見えますがあくびしているだけです)








挿絵(By みてみん)

              健ちゃんぺ。



この頃の思い出として(今の)大家さんから聞いた話。

私の入居が決まった日の夜、帰宅した今の大家さんは、

前の大家さんの奥さんつまり今の大家さんのお母さん

(なんでそういうややこしい書き方をするのか)から

とても嬉しそうに、こう聞かされたそうです。

「今度来るまおちんさん、猫飼ってるんですって!」

お母さんは猫大好きで、健太が来るのを楽しみにして

くれていたそうな。ありがたい話である。

大家さんのご両親にも、本当にお世話になりました。


もしかしたら不動産屋のリーゼント社員はこの情報を

把握していたから強気に推していたのか?












挿絵(By みてみん)

箸休め終了。次回からハー君のはなし本編再開です。

お楽しみに~♪

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