箸休め①:マンションはなぜペットOKなのか(前編)
「ハー君のはなし」は全四部構成となる大河ロマン?
で、ここまでの5話が起承転結の起、序破急の序に
あたります。けっこうな長丁場になるかもしれない
ので、各部の間に箸休め的に私が関わった他の猫の
エピソードも挟んでいくことにしました。
まずは、私が生まれて初めて飼うことになった猫の
話です。この猫は、私だけでなく、多くの人たちに
猫との出会いを演出したおそらくNNN幹部クラス
の猫だったと思われます。今回は私が今も住むこの
マンションに引っ越してきたエピソードだけですが
本当に面白い猫だったので、機会があったら他の話
も披露していけたらなと思います。一話完結の予定
が、出会いの場面が長引いてしまったので前後編で
お届けします。箸休めなのに大盛りサービスです。
お楽しみください。
吾輩も猫である。名前はまだない(その後、健太と命名)
ハー君がマンションの駐輪場を縄張りにできたのは、
ここがペットOKで、大家さんもほとんどの住人も
猫や犬を飼っているので、野良猫たちに接すること
に抵抗がなかったからだと思う。そして、何故この
マンションがペットOKなのかというと、ちょっと
自慢に聞こえたら申し訳ないが、他ならぬこの私の
おかげなのである(自慢である)。
私は今のマンションに引っ越してくる前、隣の区に
アパートを借りていた。ある春の夜、友人とお酒を
飲んだ私は、最寄り駅からの帰路、都営団地の公園
の砂場に何匹もの野良猫が静かに集まっているのに
出くわした。いわゆる猫の集会である。いい感じで
酔っ払っていた私は、噂には聞いていたが実際には
初めて見る猫の集会にすっかり盛り上がってしまい、
「こら~猫~っ!」と意味不明の叫びをあげながら、
砂場に遠慮なくズカズカと足を踏み込んでいった。
『うわ、酔っ払いだ!人間の屑だ!』
『贅肉モリモリマッチョマンの変態だ!』
『触られる!モフられる!セクハラされる!』
突然のおっさんの乱入に、ほとんどの猫がパニック
になって逃げ惑う中、逆に一匹だけ、こちらに駆け
寄ってくる茶トラ白の猫がいた。その猫は、私の足
に前足を掛けて、きゅるんとした瞳で見上げてきた。
そして嬉しくなってしゃがみこんだ私の膝に乗ると、
掌や腕や顔に、熱心に鼻を擦り付け頭突きしてくる。
すごく人馴れしている。もしかしたら飼い猫かもだ。
私は、あまりに無防備で無邪気な猫を、心行くまで
モフりにモフって、十二分に満足すると猫を膝から
下ろし、頭をそっと撫でて、「じゃーまたね!」と
手を振って立ち去ろうとした。すると、茶トラ白は
私の後をいそいそとついてくるではないか。
(愛い奴ぢあ)
立ち止まり、しゃがみ込むと、猫は、再び私の膝に
乗ってきて、目をキラキラさせながら、こう言った。
『飼ってください』
「ごめんねえ、うちはペット不可だからダメだよう」
『そこを何とか』
「無理なんだよう」
茶トラ白を膝から下ろすと、団地区域とアパートの
あった住宅街を隔てる、二車線の道路を横切った。
猫の行動範囲は、道路や線路などで区切られること
が多い。振り返ると猫は、道路の端に佇んでいた。
名残り惜し気に、私を見送っているようだった。
(よしよし、今日はそこまでな。明日また会おう)
私も名残り惜し気に手を振った。すると茶トラ白は、
注意深く道路の左右を見渡し(←本当です)どちら
からも車が来ないことを確認すると、躊躇いもなく、
一気に道路を横断して、私のところまで走ってきた。
そしてキラキラした目で私を見上げた。
『来ましたよ!』
「いや、だから、ダメだって。ペット禁止なの(汗)」
『そこを何とか』
「ダメだってば(激汗)」
私は縋ってくる猫を押し戻し、距離をとると早足で
自宅に向かった。猫はニャアニャア声を上げながら
追いかけてくる。しかし、振り向いてはいけない。
情にほだされたら大変だ。だって飼えないんだもの。
アパートに着いた私は、部屋の入口(工務店を改装
した部屋だったので、ドアではなくガラスの引き戸)
を開けると、猫が来る前に中に入って、戸を閉めた。
猫は外から引き戸のガラスを叩いたり引っ掻いたり
しながら大声で鳴き続ける。ガラス越しに茶トラ白
が懸命に体を伸ばし戸にくっついているのが見える。
諦めて帰る様子はない。困った困ったコマドリ姉妹。
夜中の11時過ぎ。鳴き声が響き渡る。近所迷惑だ。
可哀想だが、ここは心を鬼にして追い返すしかない。
私は箒を手にすると、それを構え、場合によっては
殴打も辞さないバイオレンスな威嚇の姿勢を取って、
引き戸を開けた。と、私の股間をスルリと潜って、
茶白い影が素早く室内に侵入してきた。あっという
間だった。三和土から、ぴょんと床上に飛び上がる。
「おいこら」
私の声を無視して茶トラ白は悠然と部屋の中を歩き、
見回して、匂いを嗅ぎ、いろいろと検分していた。
「何度も言わせるな。ダメだ。出ていきたまえ!」
箒をもって追い回すも、どうせ殴ってこないと安心
しているのか、逃げる様子は見せず室内を徘徊する。
見くびられたものである。人間様を馬鹿にするなよ。
殴るぞ、殴られたら痛いぞ!殴るぞっ!(殴れない)
やがて猫は、敷きっぱなしになっている煎餅布団の
万年床を見つけた。そして上に乗ると、くんくんと
匂いを嗅いで敷布団にゴロリと横になり、丸まった。
「おい」
声を掛けたのに、こちらを見もしない。目を閉じて、
横っ腹がゆっくりと上下して、寝息を立て始めた。
そして私は、安眠する茶トラ白の傍らに腰を落とし、
無力感に苛まれながら、こう思っていた。
(そこは私の寝床になっております)
続く
ZZZZZZZZZZ……




