4:ハー君のお部屋訪問
このようにハー君は、猫の仲間には、気前が良くて
二枚目で、ちょいとヤクザな遠山ザクラ(←昭和か)
のイケメンであったが、人間には、けっして馴れず
媚びず気も許さず、近づこうものなら「ハーッ!!」
と威嚇する強面のハードボイルドキャットであった。
しかし、人間を完全に拒絶していたわけではなくて、
付かず離れず、おそらくハー君にとって安全安心な
ちょうどいい距離感を保っていたのだ。その証拠に
なるかどうか分からないが、こんな話がある。
ハー君の縄張りはうちのマンションの駐輪場を中心
としたエリアで、狭い間隔で隣に建つマンションも
当然ハー君のテリトリーに入っていた。その物件は
ペット禁止だったが、ハー君はペットではなかった
から、共有スペースの廊下やベランダを自由に歩き、
外付けの踊り場の階段も自在に上り下りしていた。
私の部屋の階の廊下から隣のマンションの踊り場に
目をやると、コンクリ製の手すりの上で寛いでいる
ハー君をよく見かけたものだ。もちろん声をかける。
「やあハー君、こんばんは!」
「 ……… 」
距離があるので目線しかくれない。つれない素振り
がむしろ醍醐味で御褒美だ。ありがたやありがたや。
さて、隣のマンション2Fに住むKさんという女性
は大の猫好きだった。ペット禁止なので飼うことは
できなかったが、猫が出入りしていることを知って、
共有廊下の隅にこっそりとカリカリの皿を置いたり、
たまにハー君が来ると、フードやおやつを献上して
丁重に持て成したりしていた。無心に食べるハー君
を目の前にすると、可愛いのでつい出来心が生じて
(撫でたい)とそっと手を伸ばすこともあったが、
「ハーッ!!」
もちろんハー君が安易にそれを許すわけもなかった。
しかし、ハー君がそれで来なくなることもなかった。
ある日のこと。天気も良かったのでKさんが玄関の
ドアを開けたまま一人でお茶をしていると、ハー君
が突然、玄関から部屋に入ってきた。しかも三毛猫
を連れている!(エコルではなくコンちゃんという
別の三毛猫)ハー君はコンちゃんと一緒に部屋の中
をゆっくりじっくり、ぐるりと一回りすると、呆気
にとられたKさんを後に残して、何事もなかったか
のように、また二匹で開いた玄関から出ていった。
コンちゃんは三毛だからきっと女の子だ。ハー君は
日頃から世話になっているKさんに、新しくできた
彼女の紹介に来たのか、或いはコンちゃんに、ここ
に来たらこの人間が必ずご飯やおやつをくれるから
覚えておくようにと、顔合わせに連れてきたのか。
その後は、ハー君は多忙?で、他にもいろいろ寄る
ところがあったからか、滅多に部屋に来なかったが、
コンちゃんはいつもベランダ経由でKさんの部屋に
やってきて、ご飯を食べていくようになったそうな。
ほぼ毎日来るので(ルール違反は重々承知の上で)
いっそ飼ってしまおうかと葛藤する悩ましい日々が
続いたが、この出会いを斡旋したハー君は我関せず、
マンションの水道タンクの上で、ゴロゴロしていた。
ハー君とKさんの、この距離感が劇的に縮まるのは、
もう少し先の話となる。




