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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第二章 ハロー! マイディアフレンド

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第二話

 授業終わり、大学の中庭(ガレリア)で明宝さんと待ち合わせた。

 彼女は先にやって来ていて、出入り口の付近、休憩のために設けられたテーブルのところでスマホを触っていた。私が話しかける。

「お待たせ。わざわざ呼び出してごめん」

 明宝さんがスマホをホワイトのレザーポシェットにしまう。ショッキングピンクをベースにしたマグネットネイルがちらりと見えた。

「遠慮は禁止。だけど日香里がアタシに相談なんて何? 気になるー」

 私達は大学近くのアメリカンダイナーに入った。以前、明宝さんが別の友人から聞いて気になっていたお店だ。

 二人とも名物のハンバーガーを注文した。今夜のディナーだった。親には連絡してある。明宝さんは一人暮らしだから気にしなくてもよかった。

 相談したかったのは、アルバイトのことだった。

 たとえば今、ちょっとおしゃれなダイナーで、夕食をとりながら友人に相談事を持ちかけている。なんて大学生っぽいんだろう。自分で勝手に思っているわけだが。それには、当然食事代が必要になる。この間のカラオケもそう。服、コスメ、美容院の料金、たまに『プラチナドリーミングス』やら他の作品のグッズやらを買うこともある――傘もだったが、『プラチナドリーミングス』は現在でも商品の展開がされているのだ。作品に人気がある証だから喜ばしいことだろうけど。

 高校生の頃はお小遣いでやりくりしていた。しかし、それでは足りなくなってきていた。グループの子達もバイトを始めたというし。

「明宝さんは、入学したときからバイトしてるんだよね?」

「一人暮らしだからねー。仕送りだけじゃさすがにキツい」

 明宝さんは下宿先のアパート周辺にあるカフェで働いていた。無口なオーナーの経営するお店で、ちょうどスタッフを募集しているところだった。

 前回のシフトのとき、彼女はオーナーにたずねてみたそうだ。すると、バイト希望なら一度面接に来てほしいと。そこで私がお願いして、面接のこと、店の様子、仕事の内容、ついでに履歴書の書き方まで色々と教えてもらった。

 週末、そのカフェを訪れて面接を受けた。その場で採用が決まった。

 店には、明宝さんと私以外にも学生バイトが何人かいた。最初は食器洗い、続いてテーブルの清掃を習った。

 大学が終わってからバイトに向かう。私にとっては三回目、偶然にも明宝さんと同じシフトだ。

 事前に彼女から聞いていたけれど、平日夕方のカフェというのは結構暇だった。店内を見渡すと、テーブルは四割ぐらいしか埋まっていない。お客さんだけでなく、バイトの私達にもゆったりとした時間が流れている。

 一九時を過ぎたあたりだった。突然、間近に雷が落ちたかような音が響いた。オーダーを取りキッチンに戻ってきた明宝さんがたずねた。

「今のすごい音、何ですかねー?」

 サイフォン式――砂時計みたいな形をした器具で、コーヒーを()れていたオーナーが短く返事をした。

「……さあ」

 しばらくして、遠くにパトカーのサイレンが聞こえた。落雷で信号が動かなくなったとかだろうか。私と明宝さんとは、静かなホールまで届かないように小声でそんなことを話し合った。

 この日は接客も教えてもらっていた。オーダーの品をテーブルに運んでいると、店のドアが乱暴に開き、来客を告げるベルがしつこく鳴り響いた。慌てた様子の警察官だった。彼は荒い息遣いでしゃべった。

「今、五〇〇メートル先の交差点で、未確認の巨大な何かが暴れています。危険なので、ここから出ないでください‼」

 閉めるのも乱暴に、警察官は店を去っていった。たぶん、この周辺の店に伝えてまわっているのだろう。

 キライーヤか。私は直感した。

 お客さんの少ない店内も、にわかにざわつきはじめている。キッチンに戻ると、オーナーと明宝さんに話した。

「すみません。私、ちょっと外の様子を見てきます」

 戸惑う二人の声を背中に受けたが、カフェを飛び出した。

 店の前からでもキライーヤの姿が見える。

 どこか変身できる場所は。あたりをたしかめ、カフェの入居しているビルとその左隣の建物の間、路地裏に行った。

 今回はためらわなかった。変身より戻った後の心配はしなくてもいい。バイトのためにメイクはしてきているし。カフェの制服も――白のポロシャツと黒いスラックス、上からモスグリーンのたすき掛けエプロンに同じ色のキャスケットを着用している。シンプルだが悪くない制服だと思う。これで街歩きはできないが、店の前の道路を通る程度なら気にならない。

 キライーヤは交差点の真ん中で立ち止まり、両手を広げ、夜空に向かってくぐもった低い音を発している。マイクから離れたところで何かのエンジンを響かせているみたいな。理由はさっぱりわからない。

 片側が二車線ずつの大きな国道だが、何台も並んだパトカーが交差点を封鎖しており、大きな混乱はなさそうだった。

 青く四角い経路案内標識の上に、ワニ人間は腕を組んで直立していた。どんなバランス感覚をしているんだ。彼を見上げる。

「私の行く先々で、わざわざ大変ね」

「それはこっちの言葉だろうがよお、プリンセスタ。いつも都合よく現れやがってえ」

 さてと。キライーヤのほうに目をやった。交差点から動こうとせずに、まだ叫び続けている。

 バイトもあるわけだし、手っ取り早く終わらせるか。高くジャンプして、相手に跳び蹴りを浴びせた。

 ところが、キライーヤの身体がわずかに揺れたにすぎなかった。倒れないのだ。効いていないのだろうか。

 電柱や道路標識の看板を足場に跳び、相手の胸元に飛び込む。向こうからの攻撃がないので、接近も簡単だ。そして連続でパンチ。

 キライーヤはかすかにうめいた。しかし、ダメージを受けている気配はない。ずいぶんとかたいな。巨体を仰ぎ見ながら感じた。

 と、そのとき、急に右脚でこちらを蹴ってきた。両腕を組んでガードする。間髪を入れずに連続でパンチを浴びせられた。すべて防げたけれど、衝撃で私は後ずさった。

 それからキライーヤは再び立ち止まった。ぐるりと相手の周囲を走り、出方をうかがったが、何も仕掛けてこない。

 ふと、気になった。今度は相手のお腹のあたりにパンチ。すると、こちらを目がけてこぶしが飛んできた。

 攻撃を真似しているのか。身体が大きすぎて、跳び蹴りはできなかったようだが。

 向こうへと近づいてキライーヤにローキック。すぐさま後退する。また距離を縮めて相手の胸らへんにパンチ。即座に下がる。これを何度も繰り返す。ヒットアンドアウェイ――高校生の頃、ゲーム好きの友人に付き合ってFPSを遊んだときに教えてもらった。

 キライーヤがキックを繰り出した。ガードで防ぎながら、ぐっと踏ん張る。相手が後退するタイミングで、じりじりと間合いを詰めていく。次の攻撃をこらえた。相手も後ずさる。

 ビルの壁に背後からキライーヤが激突した。コンクリートのがれきが道路に降りそそぎ、すさまじいほこりが舞った。ビルはぐらりと傾いて、地面に引き寄せられるかのように轟音を立てて崩れ去った。

 私とキライーヤとでは身体のサイズが違う。歩幅だって当たり前のように違うのだ。

 ほんの数分前までビルを構成していた大量の残骸の上で、彼は仰向けに倒れ込んでいた。

「……アルバイトデハ……バイトリーダー……アイテノキモチニタチ……コンゴノゴカツヤクヲ……ドウシテオレハ……」

 心の声だ。さすがに、これは効き目があったようだった。ビル一棟を巻き込んだわけだしな。

 左目の高さで横ピース。もう慣れたぞ。

「チカキラりんっ」

 指先をダイヤモンドの形に構え、キライーヤに向ける。

「ステラ・ブリリアント・シャワー‼」

 ベビーピンクの光で、キライーヤの身体が細かく吹き飛ばされるようにぱらぱらと消えていく。

 そして、黒いリクルートスーツを着た青年が、路上にぼんやりとたたずんでいた。

「日本にはたくさんの企業があるんだ。明日からもエントリーシート頑張るぞ」

 同じ大学の先輩だろうか。彼は駅の方向へ歩いていった。

 知らないうちに、ワニ人間は標識の看板から歩道の上に下りていた。

「あーまただぜえ。なんで勝てないんだろうなあ」

 変身前の姿に戻ると、私はカフェへと走った。店のドアを開き、先程の警察官のように叫んだ。

「すみません。気分が悪くなったので、ちょっと外の風に当たっていました」

 苦しい言い訳だ。キライーヤが出現してからの出来事は人々の記憶に残っていない。だが、いつの間にか私が店を抜け出しており、たった今帰ってきたことは、彼らも知る間違いのない事実だった。

 オーナーからは散々に叱られた。当然だった。明宝さんにもどこへ行っていたのか質問されたが、正直には答えられなかった。プリンセスタとして怪物と戦っていた――なんて言えないし、信じてもらえるわけもない。

 おまけに、家でもキャメルンに怒られた。キライーヤの気配を感じて部屋から飛び出したが、間に合わなくて途中で引き返したという。大学へは電車で通うぐらいの距離があるわけで。キャメルンは、私が留守番を命じたせいだと言い張った。

「しかたないでしょ。誰かに見られたら大変なんだから」

 明宝さんからメッセージが届いていた。今日のことを心配しての内容だった。

 お店でオーナーに説明した通りで、本当にも何でもないから。迷惑をかけてごめん。こうとしか返信できない。

 すると、彼女からは「気にしないで」のスタンプが来た。

 このときの私は、文字通りの意味でスタンプを理解していた。その裏に隠されていた明宝さんの気持ちに、まだ気づいていなかった。

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