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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第二章 ハロー! マイディアフレンド

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第一話

 大学二日目。ガイダンスの中で、自分の同学部生に自己紹介をする時間があった。

 その後には、自分と気の合いそうな子達で何組かのグループが出来た。私も、高校のときの友人に雰囲気が似ている子達に声をかけた。人生一八年も過ごせば、話し方やらファッションやらで、なんとなく人となりがわかってくる気もする。

 彼女達とは授業の合間にしゃべったり、教室を移動したり、昼に一緒にご飯を食べたりしている。話すのは、大学の履修や提出物のこと、全員が知っているアニメやマンガのこと、あとは地元のこと、中学や高校のことなど。

 入学してから四日目。いよいよ授業が始まった。

 今、二時限目が終わった。次は昼休みだ。グループの中でこの授業を受けているのは私だけだった。どこに集まって昼食を食べようか。今日は雨が降っているし、この建物から移りたくはないな。とりあえずメッセージを送っておこうと、スマホを手に取った。

 すると、いきなり声をかけられた。

「あの! 同じ学部だよね?」

 驚いてそちらに目をやる。髪型はハニーブロンドのロングヘアに波巻きウェーブ、白いミドル丈のタンクトップにネイビーのデニムショートパンツ、ゴールドプリント入りの黒いジップアップジャケットを肩落としで着こなした女の子が立っていた。アウターと色を揃えたキャップもかぶっている。

 ガイダンスのときに見かけた子だろうか。正直、よく覚えていなかった。戸惑いながらも返事をする。

「……私は文学部ですけど」

「だよね! 見たことあると思ったんだ」

 彼女の胸元の、ローズゴールドのネックレスがきらりと光る。ファッションから判断する限り、これまで自分の周辺にはいなかったタイプの子だ。

 なんで話しかけられたのか全然わからない。彼女の耳に付けられた、これまたローズゴールドのピアスが揺れた。

「突然で驚かせちゃってごめんねー。アタシは明宝(めいほう)ひさぎ。あなたと同じ文学部の一年生」

「わ、私は見屋日香里です」

「オッケー。日香里ね」

 明宝さんは空いていた真後ろの席に腰を下ろした。距離の詰め方がえぐい。

「日香里が持っている傘。あそこのデザインさ、何か見覚えある。授業始まる前からずっと気になってるんだよねー」

 横長の机に立てかけている傘を彼女が指差した。ネイルがパープルラメでとても目立つ。

 私の傘、実は『プラチナドリーミングス』のグッズの一つだった。といっても、キャラやタイトルロゴは描かれていない。ヒロイン達が通うアイドル学園の指定傘としてアニメ内で出てきたものを再現した商品だ。発売は一年半前、私みたいな世代を対象にしているらしく、晴雨兼用の上に頑丈なグラスファイバー製の骨を採用した作りとなっている。薄いストライプの入った白地にパステルブルーの縁取りが上品で、閉じていると見えないけれどワンポイントとして校章もあしらってある。成人女性が使っていても違和感のないデザインだ。そのぶん、価格も大人向けで、高校生だった私はお年玉をつぎ込むことになったが。

「これは、『プラチナドリーミングス』っていうちょっと昔のアニメの……」

「そっか‼ それそれ。小学生のときに『プラドリ』流行ったわー。アタシもゲームやってたし」

 大人っぽくておしゃれな印象だけど、案外おしゃべりで陽気。そんな彼女を『プラチナドリーミングス』のキャラでたとえるとしたら――明宝さんの言葉が私の空想をさえぎった。

「ってか、日香里ってメイク上手だよね。今度コツとか教えてよ」

 メイクは、小学生の頃から『プラチナドリーミングス』をきっかけに、興味を持って色々と調べてきた。しかし、誰かに教えられるほどの自信などない。

「私のなんて大したものじゃ……」

「遠慮は禁止。そうだ! 今からだけど、お昼一緒に食べない?」

 私は既に他の子達との約束があると答える。すると、明宝さんからは一緒に加わらせてほしいと提案された。断る口実は思いつかなかった。

 こうして、私達のグループには普段と異なるメンバーが一人。みんなの口数が少ない。何を話せばいいのか迷っているのだ。

 ついに、とある子がしゃべった。

「そういえば今週のもう観た? もうめっちゃよかったわ。私マジで泣きそうで」

 今期やっているアニメの話だ。元々のコミュニティにやって来たのはそっちなわけだから、新参者のほうが合わせろということかな。

 だんだん他の子達もしゃべりはじめた。明宝さんがたずねる。

「このアニメって今流行っているやつ? 名前聞いたことあるー。面白いの? 今度私も観ようかなー」

 これが噂に聞くオタサーの姫とかいうやつでしょうか。私達全員、女の子だけどね。明宝さんがもし本当にそうだとしたら、ちゃんと話を聞いて理解してくれるし、噂ほどに嫌じゃないと感じた。

 それから、明宝さん自身も何個か話題を出した。

「これずっと気になってたんだけど、みんな最新トレンドってどうやってチェックしてるんだろ。SNSとか雑誌とかでも、実際に街で見かけるのとはラグあるじゃん」

 大学には制服がない。なので当然、私服で通学する。熱量の差はあるだろうけど、みんな多少でも服装のことは意識しているはず。私達は思い思いに回答した。

 全員が一通り話し終えた後、明宝さんは補足のようにしゃべった。

「このへんって東京からも遠いし。毎週行くとかもできないよね。今はSNSあるから昔よりはマシかもしれないけどさー」

 メンバーの一人が返事をする。

「私、本当は渋谷も原宿もわかりません……」

 それは小学生の頃にCMで流れていた曲だ。

 こうして、かつてないほどに不思議な昼休みは過ぎていく。確実に判明したことが一つ――明宝さんはすっごくいい子だった。

 大学で彼女との会話は少しずつ増えてきていた。授業の合間、教室の移動中、昼休みなど。内容は、グループ内の他の子達と話すものとそんなに変わらない。回数は減るがアニメやマンガのこともだし、この間はコスメについて、お互いの愛用ブランドと使い方をしゃべった。

 入学から二週間目、大学にも慣れてきた頃だ。その日、三時限目の授業は明宝さんと一緒に受けていた。

 授業の後、彼女がカラオケに誘ってきた。

「この後ってさ、時間ある? 聞いたんだけど、大学の近くにカラオケあるんだってー。アタシ達まだ大学以外で遊んだりしたことないでしょ。日香里と一緒に行きたいかなって。どう?」

 スマホを握った彼女の右手のネイル、今日はネイルグリーンとホワイトをベースにクラックラインを描いた天然石風のものだった。

「他のメンバーって誰か……」

「それがみんな予定あるみたいなんだよねー」

 そういうことか。私のグループの子達も用事ありそうだったし。

「えっと、お小遣いが」

「バイトの給料日もうすぐだし、割り勘で大丈夫だって‼」

 これ以上は、まるで明宝さんを避けているみたいに思われそうだった。別に彼女のことが嫌いなわけじゃない。二人きりのカラオケで何を歌えばいいかわからなかっただけだ。

 カラオケ店は大学から徒歩で一〇分ぐらいのところにあった。私達の他にも同じ大学らしい学生が何組かいる。

 カウンターで受付を済ませる。ドリンクバーで飲み物を選んでいる明宝さんに、私はお手洗いに寄ってから行くと伝えた。

 こっそりと個室に入ってスマホを取り出す。女子大生がカラオケで歌う曲ランキングを調べた。よかった、何曲かは知っている。動画サイトで再生回数の多いMVを観ていたおかげかもしれない。

 部屋に戻って、調べたばかりの曲を明宝さんの次の順番で予約した。

 私の番がやって来た。マイクを手にして歌い出す。明宝さんはちゃんと盛り上がってくれた。楽しい。自分の歌に応えてくれる人がいる。気分はまさに『プラチナドリーミングス』でライブを披露するヒロイン達だ。

 交互に、ときには二人一緒に、私達は何曲かを熱唱した。

 次はどの曲にしようか。先程調べたランキングを思い出しながら端末を操作する。明宝さんはグラスに残っていたメロンソーダを飲み干した。

「日香里って絶対歌うの得意だよねーびっくりしたもん」

 得意かどうかはわからないが、小中学生の頃はよく歌を口ずさんでいた。今でも家でたまにする。これも『プラチナドリーミングス』の影響だろうと思う。

「二人で一緒に歌いたい曲あるんだよねー日香里も絶対知っているやつ」

 そちらで決めてくれるのなら。端末を明宝さんに渡した。曲のデータが送信される。画面に表示されたタイトルを見て、私は驚いた。

 イントロが始まった。たしかに私は知っている。一〇〇回は間違いなく聞いていた。もしかしたら、五〇〇回にも達するかもしれない。『プラチナドリーミングス』第二シーズンの後期オープニング。人によっては歴代シリーズの中で至上と名高い、神曲中の神曲だった。なぜ、明宝さんがこのチョイスを。

「ほら。マイク持って。二人で歌うよ‼」

 気分が上がる。好きだから。やっぱり最高だな。

 マイクを右手に握った。そのとき、不意に中学生のときの記憶がよみがえった。今でも悲しみと不安でわずかに心がざわめく。

「……日香里?」

 もうAメロに入っていた。慌てて歌いだす。

 何百回も聞いているから音程やリズムで困ることはない。心の奥で高まる感情を抑えつけながら、私はマイクに向かって声を出した。

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