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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第一章 春から大学生になる私が変身ヒロインですか?

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第四話

 散らかり放題の部屋を片付けていると、母親が帰ってきた。まもなく夕食になったが、キャメルンはまだ戻ってこない。

 夕食の後も部屋の片付けを続ける。ずいぶん静かだと思った。この二週間はずっとキャメルンがいたから、キャルキャル騒がしいのに慣れてしまっていたか。

 だが、寂しくは感じない。アイスで汚れたパラレルベルトラウムブーツのことを考えると、込み上げてくるのは怒りと悲しみだ。

 片付けがようやく終わって一息、スマホでSNSを見ていた。トレンドの中に気になる投稿があった。

 駅前に怪物が出現した――ホラー映画か何かの宣伝かな。と思ったら、真っ黒で巨大な人影みたいな怪物の外見は私も知っていた。キライーヤじゃないか。

 動画を撮ってアップしている人もいた。私の住んでいる市の駅、エスカレーターから下った先のお惣菜屋の前にはワニ人間が立っていた。

 こんな地方を舞台に映画やドラマの撮影をすれば、話題の一つにでもなりそうだけれど。色んな人が違った方向からの写真や動画を投稿しているから、フェイクというわけでもなさそうだし。

 キライーヤは駅前ロータリーを歩きまわり、停まっていたタクシーや送迎の車を弾き飛ばしていく。ロータリー中央に設置されたデジタル時計のポールもへし折られた。さらに歩道の上、キライーヤの身体が地下道に続く出入り口に触れると、外装のタイルがばらばらと崩れ落ちる。

 自分には関係ない、とはいかないよな。やっぱり。これがヒロインの宿命か。

 慌てて家を出ようとして、ふと思いついてしまった。今のままだと、すっぴんで外出することになる。軽くでもメイクをしたほうが――といっても、プリンセスタに変身すれば勝手に芸能人並みのメイクをほどこされる。キライーヤをやっつけたらすぐ家に帰って落とす(オフする)だけだし。夜だと暗くて遠目にはわからないだろう。おまけに、星の力が使われてからの出来事は人々の記憶には残らないという。

 でも、だからといって気にならないわけでもない。質問、誰も覚えていないから、下着姿をみんなに見られても平気か。答えはノーだ。それと同じ。

「あーもう!」

 アニメの変身ヒロインなら大半は中学生か高校生で、こんな悩みとは無縁かもしれなかった。私だって中高生の頃は、休日に遊びに出かけるとかを除けば普段メイクをしていなかった。若さとはなんてまぶしいのだろう。

 自分の部屋でプリンセスタに変身した。ドレスは相変わらずちょっと恥ずかしいが、ジャンプを繰り返して空中を移動し、人目を避けることもできるし。

 飛び跳ねて空から見下ろした駅前は、ひどい有様だった。車がひっくり返ったり横倒しにされたり、それら何台かは黒い煙を上げて燃えている。アスファルトはあちこちがひび割れ、駅舎や周辺建物のがれきが散乱している。どこかで電線が切れたのか、ぷつりと一帯の照明が消えた。

 炎に照らされて、キライーヤの身体がオレンジっぽく輝いた。バス乗り場のほうへ歩いている。と、その行く手をさえぎるように小さな何かが。

 がれきではない。小刻みに震えながらも宙にとどまっていて――あれはキャメルンじゃないか。

「やめるキャル! 街を壊しちゃダメキャル」

 ワニ人間がにやにや笑いながらしゃべった。

「お前に止められるかよお。ついでに星の力もいただくぜ。やっちまえ、キライーヤ‼」

 キライーヤが腕を振り上げる。キャメルンはうつむき目をつぶった。

 車を軽々と払いのけるほどの威力を持ったキライーヤの張り手は、私のクロスさせた両腕に受け止められた。

「バカ、心配するでしょ」

 キャメルンは目を開いた。

「……キャル」

 両腕を広げ、キライーヤの手を押し払う。ワニ人間が声を上げた。

「なんだよお、プリンセスタも来たのかよ! そいつもまとめてやれ」

 キライーヤがワニ人間の言葉に反応してこちらを見た、ような気がした。相手には表情がないから推測だけど。

 さて、ここからどうしたものか。キライーヤは両腕を振りまわし、手当たり次第に物を壊している。プリンセスタの力なら防ぐのは簡単だが、それだけでは向こうの暴走を止めることはできない。

 なんとか近づいて反撃したい。キライーヤがこちらに右手を振り下ろしてくる。とっさに後方へとジャンプしてかわした。

 おっと、着地のとき左足に力をかけすぎて少しよろめく。その隙をすかさずキライーヤの左手が。ほこりが舞い上がり、夜霧のように視界をさえぎった。

 この程度の攻撃、プリンセスタの私にはなんてこともない。だが、ほこりが晴れると、自分の立っている周囲のアスファルトはビスケットか何かのように細かく無惨に砕け散り、その下の乾いた地面が露出していた。

 なるほど。あたりの様子をたしかめた。

「こっちだよ。こっち!」

 声でキライーヤを引きつけながら、ロータリーのところまで移動していく。先程まで相手の暴れまわっていた場所で、今は破壊し尽くされて大小のがれきだらけだ。

 一瞬、キライーヤの巨体が揺らぐ。そこを見逃さなかった。二階建ての駅舎よりも高く跳躍して――空気を引き裂くかのような跳び蹴り。

 古典的な手だった。さっき私がよろめいたのも、舗装のアスファルトが砕けて足場が悪くなっていたせいだ。それを相手にも応用した。散々に使われてきた手で、何作か心当たりはあったが、王道とは正道なのだ。

 キライーヤは前のめりに倒れた。

「……イヤダ……センパイガイナクナル……ナンデ……イドウ……ワタシヒトリ……デキナイ」

 心の声が聞こえる。だとすれば、かなりのダメージが入っているのだろう。

 今回は迷わない。左手は目の高さぐらい、最上級のかわいさを意識して横ピース。

「チカキラりんっ」

 両腕は肩と平行にしてまっすぐに。顔の正面へと動かし、指先をダイヤモンドの形に構える。

「ステラ・ブリリアント・シャワー‼」

 放たれたベビーピンクの光を浴び、キライーヤの身体がさらさらと崩れていく。

 中から現れたのは二〇代の女性だった。黒いカーディガンにペールフレンチベージュのテーパードパンツ、夜だからかカーディガンの色に合わせた薄手のジョーゼットジャケットを羽織っている。

「部署が変わっても先輩とランチしよ。話もいっぱい聞いてもらいたいし」

 女性が家に帰っていく。駅前からは破壊の痕跡がきれいさっぱり消えた。

 ワニ人間は不機嫌そうにつぶやいた。

「なんだよお。またプリンセスタに負けちまったぜえ」

 私も変身前の姿に戻る。あ、忘れていた。キャメルンがこちらにやって来た。慌てて私はキャメルンの身体を両手で持った。

「日香里……キャメルンのこと、助けてくれてありがとうキャル……あと、ごめんなさいキャル」

 キャメルンの身体を顔の正面に寄せた。

「うん。私も怒鳴ったりしてごめん。ちょっとこうしててほしい」

「キャル?」

 家を出る前にメイクをどうしようかひたすらに悩んだ。だが、変身が解けた後のことはまるで考えていなかった。プリンセスタでなくなった私の服装は、ゆったりめのトレーナーにトラックパンツだった。変身する前に自宅で着ていたルームウェアだ。変身コンパクトのミラーは見る気も起きないが、残念ながら、たぶんすっぴんだろう。

 キャメルンを目隠しにして、こそこそと家に帰った。大学生にもなろう子がぬいぐるみを抱いているのも変かもしれないが、これはもうしかたない。どうせ服のほうは隠しきれないんだし。

 お風呂から出てスキンケアとドライヤーを済ませた後、改めてキャメルンに伝えた。

「ごめんねキャメルン。私も悪かったわ。家で五時間も何もせずにいたら退屈だもんね」

「キャル……キャメルンのこと、許してくれるキャル?」

 何度でも言うが、パラレルベルトラウムブーツのカードは無念極まりない。私はキャメルンを見つめた。

「過去の思い出は美しくてきれいで、かけがえないもの」

 悲しそうにキャメルンはうつむく。

「キャル」

「でも、未来の思い出はそれ以上にだってできる」

 キャメルンの瞳がうるんで輝き、私の顔のあたりに抱きついてきた。モコモコな身体からは、収穫の季節を迎えて真っ赤な実がところどころでたわわに生ったリンゴ農園のような、フルーティで甘酸っぱい香りがした。

 私はタブレット端末を手に取った。

「考えたんだけど、今回あんな風に部屋がなってしまったのは、キャメルンが『プラチナドリーミングス』のすごさを知らなかったのもあるかなって」

「キャル?」

 指先でタッチしてアプリを起動する。動画配信サービスを視聴するためのものだ。

「だからもし、キャメルンが『プラチナドリーミングス』の価値を理解していれば、きっとこの部屋のグッズも大切に扱うはず」

 以前より母親にアカウントを使わせてもらっていた。『プラチナドリーミングス』のページにアクセスする。

「初期シリーズは画質が〝きれい〟までしか選べないんだよね。本当はブルーレイで観るのが一番なんだけど。さすがにコンプリートBOXは買えない」

 キャメルンがタブレットの画面をのぞき込んだ。

「どうするキャル?」

「今から毎日、最低三話ずつ『プラチナドリーミングス』を観ていくよ! これなら家にいても退屈しないし‼」

 私は右手の親指を立てて見せた。

「キャル⁉ それはキャメルンのやつキャル」

「全シリーズで三五〇話、それに劇場版が五作。一日三話なら一二五日もあれば終わるわね」

 話数リストから第一話を選択して再生する。すぐに本編が始まった。第一話もオープニングは冒頭のシーンの後にしっかりと流れるんだよな。

「やっぱ何回観ても最高。ここからすべてがスタートしたんだよね。あと五〇億回は観たい」

 キャメルンを抱きかかえた。彼がつぶやく。

「前に日香里がしゃべってた言葉の意味がわかった気がするキャル……あくむキャル」

「何言ってんの。これは最高に素敵な夢。『プラチナドリーミングス』を何の記憶もなく観られるなんて、うらやましすぎる。ぜいたくすぎる幸せだわ」

 その夜、歓声だか悲鳴だか、キャメルンの甲高い声が近所に響いたという。

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