第五話 初陣
ついに、凛子ちゃんが変身した。プリンセスタ・カプリコンに。
ターコイズブルーのシュシュでツインお団子を作り、そこからさらに膝下ほどまで髪が伸びている。眼鏡は外していた。
気になるドレスのほうは――トップスは、シアンと水色とを基調にしたビスチェ。編み上げ部分の留め具は星形で、これは私とも共通だ。水色のフリルデタッチドスリーブが、大人っぽさを強調する。バックリボンはブルー。ボトムスも三つの段差が付いたミニのティアードスカートで、これも色はシアンと水色。私のとは色違いだ。ソックスはネイビーのレギンス。シューズはブルーのリボンで飾られた水色のロングブーツで、折り返しの部分がアザーブルーのスカラップだった。
この上なく美しかった。素材がいいし。自分よりも洗練されて見えるのは、彼女の印象によるものだけではないと思う。一応、私のほうが身長は五センチほど高いんだけどね。
キライーヤが出たのは、駅前駐輪場の敷地内だった。自転車は周囲に投げ飛ばされていた。
ワニ人間は、私達の姿を見て愕然とした。
「プリンセスタが二人になっているぞ。どうすんだ⁈」
本日はメイナも彼の右隣に立っていた。
「とうとう変身してしまったか」
ワニ人間が不安そうにたずねる。
「いいのかよお。勝てるのか?」
「そのためにデータ分析をしてきた。やるしかないだろう」
キライーヤが私達二人のほうを見る。私がしゃべった。
「凛子ちゃん――じゃない、プリンセスタ・カプリコン。基本は相手の攻撃をよけながら近づいて攻撃。あとはそのときに応じて教えるね」
まだ、呼び方に慣れていない。カプリコンが返事をした。
「わかりました。参考にします」
キライーヤはこちらの様子をうかがっている。メイナだっているし、相手も何かの能力を有しているのかもしれない。
跳躍して相手に接近する。そして、キライーヤの右脚にローキック。だが、彼は足をさっと上げてかわした。
後ろからカプリコンも続いてきていた。手には白い光を放つ空色の剣が。武器があるなんて、うらやましいぞ。彼女はそれで斬りつけたが、相手が身体をひねってよけた。
その瞬間、私はキライーヤに蹴り飛ばされる。地面に叩きつけられた。
カプリコンもいったん間合いを取る。
「大丈夫ですか?」
「平気。見た目よりも痛くないから」
星の力のおかげでね。私が立ち上がると、カプリコンは提案を持ちかけてきた。悪くなかった。自分も賛成した。
彼女が先にキライーヤへと斬り込む。しかし、相手は身体を右にずらして回避した。そこを狙って、私がパンチを浴びせる。だが、キライーヤが二歩下がった。そして、パンチはむなしくも外れてしまった。
たったの二歩。偶然なのだろうか。そう感じたときには、相手による張り手が自分の左脇腹に命中していた。
カプリコンもキライーヤに殴りつけられ、吹っ飛ばされていた。
「なるほど。思ったよりもダメージはありませんね」
そのように言えるうちは大丈夫。これが徐々に蓄積するとヤバくなる。
次は私を先頭に。キライーヤの肩あたりまでジャンプする。相手の右胸を目がけてパンチ。彼の大きな手のひらで全身を弾き飛ばされた。
同時に、キライーヤの背後にまわり込んだカプリコンがばさりと斬りかかる。今回は二人で戦っているのだ。どちらか一方だけでも、相手にダメージを与えられればいい。
ところが、ぬっとキライーヤは振り返り、一歩だけ後退した。これだけだったけれど、カプリコンの剣先は相手に届かなかった。彼女へとキライーヤによる膝蹴りが直撃した。
立ち上がると、カプリコンが私のほうに目をやった。
「攻撃が全然当たりません。まるでこちらの動きを読まれているようです」
彼女の疑問は理解できる。私達の放ったすべての攻撃がキライーヤには当たっていない。二人がかりでの連続攻撃でも、背後からのものでさえもだ。
カプリコンがつぶやく。
「動体視力が並外れて高いのでしょうか」
私は返事をした。
「気配なのかもしれない」
プリンセスタは星の力を利用して戦う。キャメルンのように、その動きが視認できるとか。
「こういったとき、どうすればいいのでしょう」
「色々と試してみるしかないね」
二人でキライーヤへと近づく。私は両腕をクロスさせてガードする。彼の左横からカプリコンが剣で斬りつけた。しかし、相手は右側に逸れてかわした。
私の存在は完全に無視されていた。攻撃するつもりがないことをわかっているのか。
自分にとっては好都合だ。私は空高くにジャンプをする。上空からながめると、キライーヤは身体を左右に動かしてカプリコンの剣を連続でよけている。
相手に向かって跳び蹴り。キライーヤがひょいと右に移動する。そのまま、私は横倒しになっていた自転車の列に激突した。
どうしたらいいか。カプリコンにも上空から攻撃してもらうようにお願いはできるが。私の跳び蹴りも避けられてしまったのだ。おそらく効果はないだろう。正面も背後も上からもだめだった。
だったら、残りは下からか。キライーヤの右足を狙って滑り込み。スライディングだ。ふんわりとしたイメージでやってみたが、動作自体は上手にできた気がする。小学五、六年生の頃だったか、雨の日に男子が教室でスライディングをしてドアを壊し、先生が激怒した記憶があった。プリンセスタの身体だから、アスファルトの上でしても全然痛くない。
動作自体――つまり、攻撃としては失敗だった。キライーヤは半歩後ずさりし、惜しくも命中しなかった。相手に踏みつけられそうになったところを、とっさに両腕を伸ばす。これで向こうの脚をつかむことができれば、転ばせられるかもしれない。
だが、キライーヤは、私の腕の届かない少し先をしっかりと踏みしめた。また読まれた。
そのとき、カプリコンの剣先がキライーヤの左肩をかすった。
ようやく攻撃が当たったのだ。うれしいことにはちがいない。けれども、どうして。
私はカプリコンに声をかけた。
「ちょっと試してみたいことがあるの」
話を聞いて彼女はうなずいた。そして、高くジャンプをしてもらった。
その間に私はキライーヤへと駆け寄る。右手でパンチをするが、相手は左に横歩きしてかわした。想定していたことだ。
すかさずキライーヤがカウンターパンチで反撃をしてきた。見切った。相手の腕をつかもうとする。
キライーヤが身体を大きく反らした。瞬間、彼の背中をカプリコンが斬りつけた。
効いている。自分の攻撃でなくてもわかるらしい。こいつも星の力のおかげだろうか。
キライーヤはよろめく。私が踏み込んでハイキックを加えたが、当たらなかった。
相手は身体をつかまれるのを特に嫌がっているようだった。なぜか。ここ最近のキライーヤは何かしらの能力を持っているものが多かった。たぶんメイナが関係しているのだろう。
彼らも私につかまれるのには弱かった。ゼタキライーヤは自身へ能力を使うことができなくて、彼と接触していれば対象から外れた。光の弾を用いる個体も手強かったが、自身のほうへは撃てないことがポイントだった。空間をゆがませるものも、感触を頼りに投げ飛ばして倒した。目の前に今いるキライーヤも、同様なのかもしれない。
「なんとか相手をつかんでみるから、その間に攻撃を続けて」
キライーヤにダメージを与える方法は判明した。あとは、あちらの能力を突き止められたらいいのだが。
私が相手の脚をつかもうとすると、キライーヤが警戒したのか後ろに下がった。そのとき、倒れていた自転車の一台をぐしゃりと踏みつけた。シルバーのフレームでカゴ付きのやつだ。中高生が通学に使っているのではないかな。申し訳ないが戦いの後で復活するから、許してほしい。
はっと思いついた。どこかの誰か知らない自転車の持ち主のことじゃない。キライーヤの能力についてだった。




