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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第八章 日香里と凛子の大決戦

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第二話 かまいたち事件 その二

 おじさんは、ひっくり返ったトラックのほうに目をやった。

「ばかにするなよ‼ そんなので俺を殺せると思うな」

 この反応を見る限りでは、どうやら彼も想定していなかった事態のようだ。

 がれきの山からはみ出したトラックの荷台をすぱっと切った後、再びおじさんはスマホをのぞいて書き込みを読み上げる。

 そのときに、私とキャメルンの二人が気づいた。ドラッグストアの看板の陰、黒いものが映り込んだ。ライダースジャケットで、ワニ人間の着ていたものだ。

 ワニ人間は右手に真っ黒な玉を持っている。おじさんは慌てた様子だった。

「誰だお前は――邪魔をするな!」

 何をするつもりか、私には予想できていた。対象は改めてあのおじさんか、それとも警官だろうか。

 がれきが飛び散って、巨体がぬっと姿を現す。キライーヤだ。トラックの突っ込んだところからだった。キライーヤにされたのは運転手だったか。

 おじさんが叫んで後ずさりする。

「ひっ、化け物!」

 ワニ人間が彼に話しかける。

「悪い星の力を返してもらうぜえ。でないと、俺が怒られるんだ」

 おじさんは、まずワニ人間、続けてキライーヤへと右手のひらを向けた。

「消えろ! 消えろ……あれ、なんで?」

 ワニ人間は平然として答える。

「俺もキライーヤも、同じく悪い星の力を持っているんだぜえ。お前の能力は効かないんだなあ」

 突然、配信の画面が真っ暗になる。ところどころに照明が輝いている。都会の夜空だ。スマホが地面に投げ捨てられたようだった。カメラが上向きで、画面は伏せられた形かな。

 私はキャメルンに質問した。

「どうするのよ。あそこ東京よ⁈」

 場所は東京都渋谷区東だ。電車と新幹線に乗っても三時間半はかかるぞ。待ち時間だってあるし。それに運賃は。支払えないことはないが、このためだけに使うのもね。

 キャメルンは少しの間じっと考えていた。

 しばらくして、ふわふわと窓のほうに飛んでいき、ぱっと開け放した。

「これがキャメルンの答えキャル‼」

 窓辺に立つと、深く息を吸い込むかのように両手を広げた。理解できなくて、私がたずねた。

「何やっているの?」

「星の力を集めているキャル。しばらくお待ちくださいキャル」

 一〇分ほどが経過した。キャメルンがこちらへと振り向く。

「準備ばっちりキャル。日香里も変身したほうがいいキャルよ。星の力に対する感覚が高まるキャルね」

 変身は構わないが。解けたときのことを考えなければ。別に渋谷だからってわけじゃないけどね。クローゼットから明日大学に着ていこうと用意していた分を取り出した。

 白地に黒の縁取り(パイピング)が入ったタンクトップに、ベージュをしたギャザーのフレアスカートだ。白いオープンカラーの半袖シアーシャツジャケットを羽織る。

 御法山さんに発信したが、出なかった。なので、LINEで連絡をしておいた。

 そうして、ようやく変身。キャメルンが話した。

「キャメルンを抱っこしてキャル」

 甘えん坊かよ。ちゃんと言われた通りに、両手でキャメルンを抱きかかえた。

「それじゃ行くキャルよ。れっつごーキャル」

 目の前が真っ白になった。ステラ・ブリリアント・シャワーを浴びたらこんな感じだろうか。色違いのね。

 私達は事件の現場に移っていた。あちこちに積まれたがれきの山が視界に入ってくる。

「何これ? こんなことできたの?」

「星の力を使って移動したキャル。ものすごく疲れるからあまりやりたくないキャルが……キャメルンと他に誰か一人にしか使えないキャル」

 キャメルンは私の腕から抜け出た。

「じゃ、あとは頑張るキャルよ」

 ふらふらと彼は飛んでがれきの山に身を隠した。

 ワニ人間が気づいて話しかけてくる。

「なんだあ。プリンセスタもいたのか。ちょうどよかったぜえ。キライーヤを出したのがむだにならずに済む」

 あたりを見まわす。なるほど、あのおじさんはいなくなっていた。

「何? 逃げられたの?」

「しょうがねえだろ。相手は能力持ちだぜえ」

 おじさんよりも、私にはもっと気になることがあった。

「今日、メイナはいないの?」

 ワニ人間が返答をする。ちょっとうれしそうだった。

「あいつは研究が忙しいとかで来てないぜ。やっと自由にできるんだぜえ」

 キライーヤにワニ人間が命じた。

「せっかくのチャンスだ。プリンセスタをやっつけろ!」

 ワニ人間が単独なのは久しぶりだ。どのように出てくるか。

 キライーヤがこちらを見る。両膝を曲げて前屈みになり、相手は地面に手をつけた。陸上の短距離でスタートするときの姿勢だ。後で調べると、クラウチングスタートというらしい。ブロックはないけれど。

 敵が突進してきた。ひらりとかわすことができた。キライーヤはがれきの山に突っ込んで、まわりに様々なものをまき散らした。

 またキライーヤが向かってくる。両腕をクロスして防ごうとする。だが、受けきれなかった。衝撃が強すぎたのだ。自分はがれきの山に突っ込んだ。

 身体の上に折り重なったがれき――コンクリートの壁もあれば、薄っぺらい金属の板、ガラスの破片、鉄の棒まで色々なものを払いのけて立ち上がる。

 関節がぴりぴりと痛んだ。立ったり動いたりできないほどではないが。ガードしてもこれほどの威力がある。

 だったら次は、攻撃を仕掛けてみる。走ってくるキライーヤの身体をよけ、左脚にパンチを加えた。と、接触しただけで弾き飛ばされ、別のがれきの山に激突した。

 起き上がると、肩こりのようなものを感じた。ダメージが溜まってきているのだ。

 ワニ人間が叫んだ。

「プリンセスタを宇宙の果てまでぶっ飛ばせ‼」

 狭い場所に誘い込むのでも悪くないか。けれども、この近辺のことはまるで知らない。どこに何があるのか。おじさんががれきまみれにしたせいで、余計にわからなくなっていた。

 跳躍してキライーヤに近づく。敵は私よりも約三歩先の位置だ。この距離であれば、相手は一歩を踏み出したところですぐぶつかる。助走はほぼゼロだ。

 そこを狙うことにした。キックを当てようとしたのだが、先に向こうが体当たりをしてくる。

 私は吹っ飛んで、がれきの散らばったアスファルトに叩きつけられた。助走がなかったのに。威力の原因は体格差か。

 以前に、怪獣レベルにでかいキライーヤと戦ったことがあったな。あのとき、通常のパンチやキックは全然効かなかった。軽すぎたのだ。

 思い出した。アフリカのサバンナでゾウの群れに密着して取材されたドキュメンタリーだ。ライオンでもゾウを襲うことはないとか。ゾウの巨体が脅威だからだった。

 戦車に人間がぶつかったところで壊れはしない。しかし、人間のほうは大きく跳ね飛ばされてしまう。一方で、人間が昆虫に触れても無傷だ。それと同様なのだった。

 重量の違いをないがしろにしてはいけない。重力だと、どっかのロボットアニメ――と思ったが、質量だった。

 相手を刺激せずに静かにその場を離れる。大声を出したり、慌てて走ったりしてはいけない。仮に襲われたら、身をかがめて脚を閉じ、防御の体勢を。とは、イノシシに遭遇したときの対応だ。一昨年だったか、私の市でもよく目撃されて市役所がビラを配っていた。って、これは生命を守る方法で、相手を倒せるわけじゃない。反撃すると攻撃が激しくなるとも。だめだ。

 キライーヤの攻撃パターンは単純。体当たりを繰り返しているだけだ。なのに、とにかく対処が難しい。

 回避はできる。ところが、過去に何十回も経験してきた通り、それだけでは勝てない。私の攻撃は通用しない。そのくせ、キライーヤの一撃は着実にダメージへとつながっている。

 もしかして詰んだか。

 キライーヤが再びこちらを向く。背中を前方に曲げて、スタートの構えをしてきた。

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