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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第八章 日香里と凛子の大決戦

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第一話 かまいたち事件

※この話の三一行目には殺人描写があります。

比喩のみで直接的な表現はありませんが、注意してください。

 夜、ベッドの上でキャメルンは、シロイルカのぬいぐるみを抱きかかえながらタブレットで動画を観ていた。私が水族館で購入した〝子供〟のほうね。Mサイズはキャメルンがクッション代わりに抱くのにぴったりだった。

 というわけで、買って帰ってきて以来、すっかり彼の愛用となった。

 ふと、キャメルンがたずねてきた。

「その二人目、凛子とは仲良くなれたキャルか?」

「うん。だいぶね」

「彼女の変身はそろそろキャルかね」

 キャメルンによると、星の力は人間の感情に反応して様々なことを実現するのだという。変身コンパクトの入手もそうだ。何かを強く思ったときに現れる。私の場合は、『プラチナドリーミングス』の劇場パンフレットを投げ捨てられたからだった。気持ちとしては怒りだろう。

「まだコンパクトが出てこないんだよね」

「プリンセスタになりたい、って願いもきっかけになるキャルよ」

「向こうもあんまり積極的じゃなさそうなんだよね……」

 だからきっと、コンパクトも御法山さんのもとに出現していないのだ。キャメルンがしゃべる。

「日香里は凛子にやってほしいキャルよね。お願いしたらどうキャルか?」

「それも悪くないけど。でも――」

「でも何キャルか?」

「友達だと思っているから」

 プリンセスタが大変なのは彼女にも理解してもらえている。二人の関係も深まってきた現在、御法山さんに頼んだらしてくれそうな気もする。

 しかし、それでいいのだろうか。もし自分がひさぎから同じように頼まれたら、おそらく聞き入れたと思う。逆にひさぎに頼んでも、彼女は快く引き受けてくれただろう。そして御法山さんが頼み主でも、私は力になってあげようと考えている。

 けれども、何かの事情があって断ったとしても、私もひさぎも笑って納得するはずだ。正直なところ、御法山さんがそうしても、残念だが私は諦めるつもりでいる。なぜなら、お互いを信用しているからだ。それが友達――親友じゃないかな。

 御法山さんにお願いして戦ってもらうのは、とってもありがたいことだけれど、こちらを信じて受けてもらえるのでなかった。同情は友情じゃない。これから一緒に戦うのだ。どうせなら、文句なしに良好な関係でいたい。

 だから、向こうが私のことを認めてちゃんと信じてくれるまで待つしかないのだ。

 御法山さんとのお出かけですっかり忘れかけていたが、世間はかまいたち事件で騒然となっていた。ネットニュースでも色々なサイトでもまとめられている。

 まず名古屋近隣の市で人材派遣会社の事務所が襲われた。ここでは、社長と社員二人の計三人が犠牲に。続けて、同じく近隣の市の銀行支店が強盗被害に遭った。六人に加え、駆けつけた警察官の二人も含め、計八人が無惨にも殺された。大阪ではジュエリー店、京都では家電量販店に押し入られ、警察官も合わせて、この二件で七人が死亡した。さらに、ここ一週間ほどでは関東地方でも死者が出ていた。東京や神奈川では、かまいたちのようなものにやられたと推測される遺体が一三人発見されている。警察の捜査では、どれも同一の単独犯だ。全部の事件で合算して二六人が命を奪われたことになる。ミステリーでもこんな人数はめったにない。

 警察は犯人を既に特定していた。東京で殺された中には外国人観光客も含まれていて、その国の政府高官が言及したこともある。国会でも議題として取り上げられた。犯人は各地を転々としていて、警察も逮捕しようと動いたのだが、すべて失敗に終わっていた。犯人の激しい抵抗に対応しきれなかったのだ。警察官自身が生命の危険にさらされているほか、周辺にある物品や建物なども切り刻まれたり移動の後に頭上から振ってきたりして足止めをされてしまう。

 現在、共同捜査本部――各地域の警察が連携して設置される組織らしいが、これが立ち上げられて犯人の逮捕に全力であたっている。

 火曜、バイトから帰ってきてすぐの私にキャメルンがタブレットを見せてきた。

「この人、知っている人キャル。日香里もキャルよ」

 画面にはニュースサイトの記事が映っている。

 ニュースに載るような人物で思い当たるのは。一人いるか。あの人、また何かやったんだろうか。なお、キャメルンは私の小中高の同級生のことは知らないので、当たり前だが彼らのうちの誰かではない。

 愕然とした。自分の思っていた人物と違っていたのだ。記事は一連の殺人事件を報じるもので、警察の公開した顔写真が掲載されていた。一瞬、誰なのかわからなかった。

 が、まもなく思い出した。嫌な気分とともに。あのストーカーのおじさんだ。トラックにひかれそうになり、私につきまとってきた。そして、ゼタキライーヤにされ、悪い星の力を残したままで人間へと戻った。

 そういうことか。彼は悪い星の力を悪用しているのだ。ゼタキライーヤの能力は対象を移動させるものだった。実在の物体の一部だけを、切断するように動かすこともできる。鉄筋コンクリートの橋を真っ二つにし、舗装のコンクリートはさいの目切りになった。あれを人間にも――やめよう。想像するにしても残酷すぎる。

 今後いったい、どうなっていくのだろう。

 プリンセスタだったら止められるのか。たしかにゼタキライーヤとの戦いでも、星の力を宿したプリンセスタは切断攻撃を受けつけなかった。だが、相手は能力持ちといえ人間だぞ。普通、変身ヒロインは人間に手出しをすることはない。力の差がありすぎて、それこそチートになる。変身ヒロインは正義なのだから、弱者をいたぶるようなことはしない。そういったものがよく登場する女の子向け作品には基本いい人しか存在しない、との事情もありそうだけれど。

 一方で、変身しないで彼と対峙すれば、三〇人近い犠牲者達と同様の末路をたどってしまう。こちらは生身の人間なのだ。

 プリンセスタであっても自分にできることは、今のところ何もなかった。警察に頑張ってもらうしかない。が、どうにかできるのだろうか。

 これまでも充分にそうだったが、翌日、犯罪史上に残る事態がさらに起きた。

 一九時二二分、おじさんがライブ配信を開始したのだ。アカウントはこのためだけに作られた即席だった。

 配信の最初のほう、私はちょうど夕食だったから全然気づかなかった。二〇時前、自分の部屋でSNSを見ているとき、トレンドに出てきて知った。

 場所は開始直後に判明していた。自分は東京の地理に詳しくないので細かく説明できないが、渋谷区の東部、地名もその通りに東というところらしい。そこの大通りを走っていた車を能力ですべて移動させ、約八〇〇メートルにわたる区間を占拠した。車は区間外の道路に、スクラップでも扱うかのようにがしゃんとまとめて落とされたそうだ。

 おじさんは配信で、ひじょうに腹を立てていると述べた。一連の事件について、SNSやニュースサイトのコメント欄で彼がごうごうと非難されていたからだ。人を殺しているんだから当然の気もしたが。とにかくおじさんには許せなかった。自身にはこれだけの能力があるのに、まわりからは軽く甘く見られている。しかも、ネット上での書き込みがその偏見を余計に強めている。他の人がまた非難する。悪循環だ。

 そこで彼は、自身の力を世間に見せつけようと考えた。

 おじさんが周囲のビルや信号機、交通標識を切り刻んでいく。道路上にはがれきが幾重にも積み上がった。

 パトカーのサイレンが響きわたる。警官達が車や歩行者の立ち入りを防ぐため、現場を取り囲んでいる。五〇人はいるか。

 配信サービスの規約違反で、すぐにでも停止させられそうだが――自身の意思に反して続行できなくなった場合、おじさんは集まってきた警官達を殺すと脅していた。今までの犠牲者の数と何回も逃亡してきた事実からしても、絶大な効力があった。

 私は配信を観はじめたのは、ドラッグストアの看板が設置された商業ビルをみじん切りにしたところだった。

 やがて手近なものを破壊し尽くしたのか、おじさんは新しくスマホを取り出す。京都の家電量販店から強奪したものだ。そして、自身が特にムカついたとの書き込みを紹介しだした。

 実際、かなりひどい内容だった。しかしそれでも、こんな風に暴れていい理由にはならない。

 八時五分のことだった。いきなり、叫び声と警笛(ホイッスル)とが聞こえてきた。交通整理で使うやつだ。

 画面が揺れ動き、そちらのほうが映る。警官の制止を振り切り、大型トラックが迫ってくる。

 一瞬でトラックは逆(・)さ(・)ま(・)になって、運転席のほうからがれきの山へと突っ込んだ。速度は六〇、七〇キロほど出ていたのでないか。荷台には「はちかぜ運送」と書かれていた。

 いつからか、後ろで一緒にキャメルンが配信を観ていた。彼がたずねてきた。

「いったい、何が起こっているキャルか?」

 自分だって「わからない」との回答しか持っていなかった。

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