第二話 ユルセナイヤの新幹部メイナ
キライーヤが出現したのは、市内にある住宅街の公園だった。私の町内ではないぞ。
ワニ人間とメイナは藤棚の下に設置された二基のベンチそれぞれに座っていた。今の時期、ちょうど大きなエンドウ豆のような実が何十本も垂れ下がっている。同じ敵組織なんだし隣り合って座ればいいのに。
いや、二人の関係性はどうでもいい。私から普通の大学生活を奪っているやつらに言いたいのだ。
「もう少し空気読んでよ! こっちは今度のお出かけ、どうしようか真剣に考えているところだったんだから‼」
まずワニ人間が言い返してきた。
「お出かけだあ⁈ 俺はこの先どうなるかもはっきりしねえんだ。よくわからねえことばっかりやらされてよお」
知らんわ。続けてメイナがしゃべった。
「それは興味深い。いつの予定なんだ」
「あのねえ。来週の――」
おっと危ない。つい話してしまうところだった。わざわざあちらに伝えることはない。また邪魔されたら困るからな。
キライーヤは公園内の広場に立っていた。ここに遊具は何も設置されていなかった。
相手に接近し、まずはキックをして反応を見よう。と、近づいたところで、キライーヤの全身が黄色く発光した。
まぶしくて目を閉じるほどではなかった。ホタルみたいに控えめだ。
どんな意味があるのだろう。考えた瞬間、キライーヤの右足で蹴り飛ばされた。
受け身を取って着地する。相手には先制を許してしまったが、こちらも攻撃に移る。最初に敵へと向かってパンチを仕掛けよう。
再びキライーヤの身体が光った。二回目だが、どんな効果があるかはまだわかっていない。
私は相手の正面にいる。右側からキライーヤのパンチが飛んできた。こちらの右胸あたりに直撃にして倒れ、地面を転がった。
向こうが私のほうへと歩いてくる。相手がまたパンチを繰り出してきた。攻撃パターンは単純だった。ありがたい。両腕を胸の前でクロスしてガードだ。
そのとき、あの黄色い光が目に入った。自分はただ立っている。気づいた瞬間、パンチをお腹に受けた。
よろめいて後ずさりする。ダメージを受けてばかりだが、こちらからも攻撃をしなければ。
蹴り技で一気に攻める。ジャンプしてかかと落としを当てようとする。キライーヤから光が発せられた。
私の前方斜め真下に相手の身体がある。私とキライーヤとの距離がどんどん縮まっていく。ほこりのように彼の左手に払い飛ばされた。
なぜ自分はジャンプをしたのだろう。空中だと、攻撃をかわすのは困難なのに。
ワニ人間がうれしそうにしゃべる。
「これだったら勝てるんじゃねえか。あのキライーヤの能力、光には――」
メイナがワニ人間の言葉をさえぎった。
「余計なことをしゃべるな。敵に情報を渡してどうする」
やはりキライーヤの光には何かある。たしかめなければ。相手に近づく。ローキックを命中させようとしたところ、その光を浴びた。
自分は彼と向かい合っていた。そして、キライーヤにまた蹴りつけられた。
私の身体が後ろに押しやられる。キャメルンが叫んだ。キャメルンは公園手前、植え込みのツツジのところだった。
「プリンセスタ! どうして攻撃しないキャルか⁈」
そうだ。まだキライーヤに一度も攻撃をしていない。見た限り相手はビームや光の弾のような遠距離での方法は持ち合わせていないから、普通にこちらが仕掛ければ効くはず。当たり前ながら、攻撃をしないと勝つことはできないのだ。ダメージを与えられないからね。
キライーヤのほうに駆け出す。ミドルキックを浴びせよう。相手の身体から光が放たれる。
そのまま彼に激突した。実質、体当たりだ。効いている。キライーヤは衝撃で数歩後退した。
不思議に思う。なんで体当たりなんて。攻撃が通ったからよかったが、防がれたり反撃を受けたりもあったはずだ。気づいたら、自分の身体が相手にぶつかっていた。よく思い出せない。
体当たりを繰り返して勝てるか。願望なのかもしれなかったが、またキライーヤへと突進する。何度目になるだろう。あの光が見えた。
自分は相手の前に立っている。キライーヤの張り手が左側から飛んできた。間近すぎてかわせなかった。
おかしい。敵の前でただ突っ立つなんて。自分から攻撃を受けに行っているようなものじゃないか。考えてもわからないのだ。
突発的な行動だとか。けれども、今回の張り手だけでない。キックやパンチをもらったときも同じだった。何を思って自滅にも等しい真似をするのだ。
しかも、身体のあちこちが霜焼けのようにじんじんと痛む。足の指先しか経験はなかったし、今は季節外れだが。
ダメージを一方的に受けている。それなりに戦いも続いている気がするが、なぜか自分には体当たり以外に攻撃をした記憶がない。
こんなことってあるのか。私は公園の手前、植え込みのほうに目をやった。
「キャメルン!」
最近の戦闘ではすっかりお世話になっている。もちろん、今ここでお礼を述べるために声をかけたのではない。
「私、キライーヤに攻撃するから‼」
キャメルンでなく、ワニ人間が代わって叫んだ。
「いきなり宣言してどういうつもりだあ?」
跳躍して相手に接近。狙いは右脚、パンチを当てるのだ。瞬間、黄色くキライーヤが光る。
私は直立する。そこに相手が蹴り上げてきた。自分のあごに受けてしまい、ふらふらと後ろに下がった。
やっぱりだ。私はキャメルンにたずねた。
「今の私、キライーヤに攻撃した?」
「してないキャル‼」
攻撃すると言ったことは覚えている。しかし、どんな風に、そもそも攻撃を試そうと思ったのか、まるで記憶がない。
朝、見ていたはずの夢を忘れているような感覚に似ている。それか、寝ぼけていて意識にない行動か。
実際に自分が攻撃していないそうだから、キライーヤにかわされたり無効にされたわけではない。
思い当たるのはあの光だ。あれを浴びると攻撃の意欲がなくなるとか。意欲と一緒にそうしようとしたことも頭から抜け落ちてしまうとか。
光といえば――左手をスカート正面にやり、変身コンパクトを手に取る。以前はこれに助けられたこともあった。コンパクトを開いて、キライーヤに向けて構えた。
少しずつ相手との距離を縮めていく。彼まで七、八歩ほどのところで光が発せられた。さあ、どうなる。
立ち止まってふと考えた。どうして変身コンパクトを掲げているんだ。たしか、光が怪しいと思ってコンパクトを使うことにした――自覚はないが、既にそうしていたらしい。
もしかして、光を浴びたときに心に思っていたことをすっかり忘れてしまうのではないか。
ちなみに、キライーヤに変化はなかった。もし彼が自身で効果を受けていたとしても、戦いには影響しない。なぜなら、もし私がコンパクトのミラーを見せながら攻撃しようとしても、直前に光を浴びて不発で終わり、互いに立ち尽くすだけだからだ。
逆に、相手の攻撃を防ごうとするのには使えるか。試してみる。キライーヤが右手でパンチを繰り出してくる。コンパクト片手にではガードができない。そのままダメージを受けた。光の効果が発揮されるまでもなかったのだ。
なんて厄介なんだ。もう目を閉じて戦うか。できるはずはない。
それすらも、次に放たれた光によってさっぱり覚えていなかった。




