第五話 二対一
完全にはガードできない遠距離の攻撃――プリンセスタにとっては圧倒的に不利な相手だ。
空高くにジャンプ。キライーヤの頭上から接近してみる。光の弾が連射され、自分の背後で次々と爆発していく。
最後に放たれた一個が私のほうへ。空中ではよけられない。直撃だ。目の前で爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた。
背中から地面に落下する。その先でも相手の攻撃が飛んできて、音とともに連続で発生した光に視界がさえぎられた。
メイナの声が聞こえた。
「プリンセスタの戦闘パターン分析によれば、遠戦が苦手との結果だったが……試算以上の効果だ」
ワニ人間と会話しているのだろうか。彼の声も耳に届いてきたが、すぐキライーヤの攻撃による爆発にかき消されてしまった。
爆発はまぶしくて無理だったが、プリンセスタの動体視力では光の弾の動きを視認できる。
背中をぐいっと大きく曲げて、跳ねるように立ち上がった。
まず、なんとかして相手に近づかなければ。
改めてまわりを見る。カート置き場にはワニ人間とメイナが。駐車場利用上の注意が書かれた看板の後ろには、キャメルンが隠れていた。
カート置き場のほうへと走った。光の弾が続々と放たれ、追いかけるように飛んでくる。
ワニ人間とメイナとの姿が瞬時に消えた。ワープするかのようだ。二人は駐車場の出入り口付近にまたすぐ現れた。
私の後ろでカート置き場が爆発に巻き込まれていく。ワニ人間が叫ぶ。
「俺達を巻き添えにしようなんて卑怯だぜえ‼ だが、その手には乗らねえなあ」
別にワニ人間達を巻き添えにしようと思ったのではない。彼らを倒したところで、キライーヤに負けてしまうことだってあるわけだし。
身体の向きをくるりと変え、看板のところへと近づく。相手の攻撃は止まらない。そのすぐ手前、大声で呼んだ。
「キャメルン! 来て‼」
キャメルンが看板の後ろから飛び出す。両手を伸ばしてキャッチ。ぎゅっと抱きかかえて走り続ける。
当たり前だが、キャメルンを巻き添えにするつもりはない。走ってキライーヤの攻撃をかわしつつ、彼に話した。
「お願い。手伝ってほしい」
「キャル⁈」
キャメルンに内容を伝える。さすがに妖精の彼に戦ってもらうのは厳しいと思う。頼んだのは他のことだ。
跳躍してカート置き場へと向かう。先程と今回との攻撃でカート置き場も無惨に破壊されていた。ワニ人間の座っていた金属製のパイプはぐにゃりと曲がり、買い物用のカートも何台かが横転していた。
光の弾が連射されて爆発が立て続けに起こる。キャメルンに協力してもらうのはここからだ。
「無理はしないでね」
「任せるキャル。いっちょやってやるキャル」
キャメルンがまっすぐ地面と水平にすっと飛ぶ。光の弾が飛んでいって爆発。どうか上手にやれますように。
「これでも受けるキャル‼」
爆発の音に混ざってキャメルンの声が聞こえた。雄叫びみたいなものかな。
キライーヤの正面、数メートル先に何十発もの光の弾が集中。爆発が生じる。
ワニ人間がしゃべった。
「やったか⁈」
お約束ともいえるその台詞を、自分はジャンプしてからの空中で耳にした。爆発の後には黒焦げのカートがあった。カゴを載せる部分は上下ともひしゃげている。上のほうは耐えきれなかったのかぼとりと落ちた。
私の真下にキライーヤが見える。思わず自分は叫んだ。
「とりゃあああ‼」
これも雄叫びみたいな。カートに意識を向けていた相手がようやく気づいた。だが、もう遅い。
渾身の跳び蹴りをキライーヤの右胸あたりに浴びせた。相手はよろめいて仰向けに倒れ込んだ。
着地すると、さらに彼の右脚をつかんで持ち上げ、遠くに投げ飛ばす。キライーヤはアスファルトに激突した。
今回の相手が放つ光の弾はひじょうに厄介だったが、命中の精度は大して高くない。速度も見切れないほどではなかった。相当に連発されたが、そのうちで自分に当たったのは三回だけ。最初は不意打ち、二回目はガードできるかの確認、最後は空中でだった。どうやらこの欠点をキライーヤは数でカバーしているような気がしたのだ。
命中しにくいということは、要するに、相手は攻撃対象の位置をとらえるのが苦手なのだった。
そこで、キャメルンに買い物用カートを思いっきり押してもらい、おとり役となってもらった。キライーヤがおとり役のほうを攻撃している隙に、私はジャンプして跳び蹴りを仕掛ける。
実際に説明してみると、ごくごく単純なフェイントにすぎない。けれども、大成功だった。キャメルンの果たした役割も大きい。もしSNSだったら、「いいね!」だけでなくフォローしてもいいぐらいの活躍だ。
キライーヤのほうから心の声が聞こえてくる。
「ドウシテ……マタ……レンラクガ……コナイ……マッテルノニ……」
ようやくメイナがしゃべった。
「攻撃に悪い星の力を使いすぎたようだ。軽率に撃たせるべきではなかったか」
キライーヤは起き上がってこない。私はそこに近づき、左手で横ピースをする。
「チカキラりんっ」
両手の指先でダイヤの形を作った。
「ステラ・ブリリアント・シャワー‼」
ベビーピンクの光が放たれる。それにキライーヤは吞まれて消えた。
その場には、グレーのスリーブレスカットソーにレモンイエローのプリーツスカートを合わせた三〇代半ばの女性が残された。シューズはコーヒーブラウンをしたコーンヒールのストラップサンダルだ。種類はわからないが、ライトグリーンの石が付いたスタッドピアスを着用していた。
「連絡を待つだけじゃなくて、こっちからするわ。やっぱり恋は攻めなきゃね!」
わりと気合いの入った格好からすると、彼氏に約束をすっぽかされたか合コンの後だろうか。まさかシンデレラのような舞踏会じゃないだろう。
彼女は駐車場の出入り口に歩いていった。
ワニ人間が慌てた様子でメイナに話す。
「どうするんだ。俺のせいじゃねえぜえ」
メイナは冷静に返事をした。
「データは集められた。成果としてはまずまずだ。目的の達成率は四〇パーセント。いったん撤収だ」
二人は立ち去った。
カート置き場が戻り、買い物用カートもそちらに整列した。自分の格好も元通りだ。
キャメルンが飛んでやって来る。
「キャメルンの頑張りは、どうだったキャルか?」
「よかったよ。最高。帰りに何かおいしいものでも買っていこうか?」
早く帰ったほうがいいかもしれなかったが――コンビニに寄ってスイーツをおごってあげてもいいと思った。キャメルンがはしゃぐ。
「やったキャル。新作の桃タルトが食べたいキャル!」
ふと思い出したようにキャメルンがたずねた。
「そういえば、凛子って人から返信はあったキャル?」
繰り返しになるが、凛子とは御法山さんの名前だ。スマホを取り出す。返信はなかった。既読すら付いていない。
「もしかして、もう寝てるキャル?」
時刻は二三時半を過ぎるところだ。寝ていてもおかしくはないが。
しかし、自分が高校生の頃は零時過ぎまで起きていた。ゲームやらスマホやら、テスト前には勉強でも。まじめそうな子だし、ゲームやスマホはとにかく、夜遅くまで予習しているイメージはある。
「本当に寝ちゃったのかな」
保育園の年少だった頃に観ていたアニメがある。『プラチナドリーミングス』が始まる前のことだ。マンガが原作で、こちらは自分が卒園するあたりまで続いた。異性からも同性からも好かれる高校生の女の子が主人公で、彼女が自身の恋に奮闘したり友人の恋を手伝ったりする。その主人公に近づけるという触れ込みでファッションやメイク、食事の作法などを解説した本を、当時買ってもらった。そこに主人公の一日のスケジュールが載せられているが――就寝時間が二二時となっている。昔は疑問に思わなかったが、高校生で二二時に寝る人はごく少数でないだろうか。しかも、学校の終わる時間も一五時半だった。中学生の頃の自分でも、こんなに早くは帰れなかったぞ。
読者の対象を考えたら、当然のことだけど。
既読スルーじゃないだけまだいいか。そうは思うが、なんとか御法山さんにプリンセスタに変身してほしい。
キャメルンに急かされ、私達は近くのコンビニへと向かった。
【参考文献】
本話の執筆にあたっては以下の文献を参考にしました。
・にしむらともこ&ちゃお編集部
『ちゃおコミックススペシャル 極上‼めちゃモテ委員長 未海ちゃんになるための10の方法』小学館,2009年




