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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第五章 日香里と二人目のプリンセスタ 

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第五話 二人目はどこに? その二

 その日の夜、ベッドの上に寝転がりながらタブレットでゲーム配信を観ていた。

 このゲームは自分も二ヶ月前に購入して、そこそこ遊んだ。かなり大雑把にいえばミニゲーム集なので、ネタバレの心配はない。料理の盛りつけやお客さんへのヘアレンジなど個性の出るものが多くて、他人のプレイも観たくなったのだ。

 余談だが、過去にこのゲームのシリーズは何本も出ていて、そのうち一本は私が保育園のときにクリスマスプレゼントで買ってもらっていた。当時はそのキャラクター達のアニメも放送されていた。元々『プラチナドリーミングス』と同じ曜日で、一つ前の枠でやっていた。後に両方ともセットで曜日と時間帯が移動、そこで前後が逆転して『プラチナドリーミングス』が先となった。さらに私が小学二年生のとき、再び『プラチナドリーミングス』が後の編成に変わった。それだけが理由でないけれど、毎週欠かさずちゃんと観ていたな。おかげでか、ゲームにはキャラクター達が一〇〇種類以上出てくるのだが、なんとなく見た目と名前はわかる。

 配信の画面が止まった。グルグルと呼ばれる丸いマークが表示される。テーブルの上に座り込んでスマホをながめていたキャメルンのほうに、ちらりと目をやった。

「ちょっとキャメルン。Wi-Fi重いんだけど……」

「キャル? ほんとキャル。画質が粗くなったキャル」

 キャメルンは私のスマホを借りて配信サービスのアプリでアニメを観ていた。Wi-Fiは私達家族が全員で利用している。親も使っているのだろう。あとはHDDレコーダーやロボット掃除機のような家電も。そんな中で自分とキャメルンとが同時に接続すると、速度が大幅に低下する。スマホにはモバイル通信があるからいいが、タブレットのほうにはない。

「昼にも観られるでしょ。いったん動画止めてよ」

「今いいとこキャル。あと二〇分待ってキャル」

 アニメ一話分じゃないか。こうなったキャメルンは頑固だ。ゲーム配信は諦めて、アーカイブで観ることにするか。

 タブレットに充電ケーブルを差し込む。またベッドに寝転がって、彼に話しかけた。

「ねえ。そのときが来たら、新しいプリンセスタが変身する予兆って絶対にわかるんだよね」

「見れば確実キャル」

「私でも?」

「プリンセスタなら絶対キャル」

 自分がプリンセスタに変身できるのは必要なとき――キライーヤと戦うときだ。普通に考えれば、二人目のプリンセスタが変身するのも同じタイミングになるか。

 キライーヤの出現を待つしかない。次もその次も、彼女に出会えるまで何回も繰り返してたしかめるしかないだろうか。ゲームのガチャだって、何度も引いたほうが入手の確率は高くなる。

 にしても、ひさぎが二人目だとかの考えはまだ自分の中に残っていた。ところが、女の子向けの作品では、親友が仲間の戦士に変身するパターンはほとんどない。ネットでは、物語上の都合だと考察されていた。主人公を支える親友という独特のポジションが重要だったり、新しい戦士との関係を深めていく話のほうがシンプルで創作しやすかったりするそうだ。

 昔の――本放送は私が赤ちゃんのときで配信サービスで視聴したアニメだが、ストーリーの中盤で新しい仲間が加わるとのことで話題になった。それまでは序盤に限定されていたのだ。アニメ本編でそれらしい候補を演出しておいて、実際は別人が変身するという構成だった。この候補が、ヒロイン達にとっては尊敬できる先輩なのだ。ひさぎも、同い年だけれど、私にとっては憧れの要素を備えている。おしゃれだし、明るく親しみやすい性格でいい子だし。

 だとすると、ひさぎが新しいプリンセスタになるのは難しそうだが。しかし、アニメはアニメで、現実とは違う。

 木曜は大学の後にバイトが入っていた。ひさぎも同じシフトだ。

 二〇時を過ぎた頃、店の外から大きな音が響いてきた。聞き覚えがある。オーナーとひさぎにはお手洗いに行くと伝え、ロッカーの前でスマホを取り出すと通話アプリを起動した。発信先は自分のアカウント、家に置いてあるタブレットだ。

 キャメルンが出た。

「日香里キャルか? キライーヤが出たキャル」

「新しいプリンセスタが変身する予兆ってどんなの?」

「日香里も同じだったキャルが、身体に星の力が宿ると、胸のあたりが輝くキャル」

 思い出した。自分がはじめて変身したときも、光る何かを呑み込んだようだった。それと一緒のことが新しいプリンセスタにも起こるという。

 通話を終えると、キッチンに引き返した。外で巨大な怪物が現れたと騒動になりはじめている。私は隅々までひさぎを観察したが、予兆は見つけられなかった。

 突然、照明が消えた。食洗機やオーブンの電源も入らないので、停電のようだった。店内がざわつく。

 ひさぎを改めてながめる。暗がりの中で彼女の人影が黒くぼんやりと見えるだけだ。やはり違ったか。

 私はオーナーとひさぎとに声をかけた。

「外で何があったみたいなので、ちょっと様子を見てきます」

 バイト中に店を抜けて戦うときは、いつもこの方法だった。オーナーとひさぎにたずねられるが、無視して店を出る。

 路地裏で変身する。こいつも何回か経験して慣れた。

 キライーヤは、二つ先の交差点をこちらに曲がってきていた。相手に見られたような気がした。

 その瞬間、目の前に彼が。連続でパンチを浴びせられた。よろめきながら後ろに下がる。だが、再びパンチを受ける。

 すごいスピードだ。両腕をクロスしたらガードはできた。けれども、ずっとこのままでは何も進展しない。

 後ろにジャンプしてキライーヤと距離を取る。向こうのパンチは止まらない。追いつかれている。

 だったら――さっと振り返ると全力で疾走した。片側が二車線ずつの広い道路だ。この騒ぎで車はいなかった。

 交差点を五つ通り過ぎる。ほんの数秒だった。陸上の世界記録を超えた気がする。プリンセスタを人類に含めていいのかは謎だが。

 ワニ人間が歩道に設置された茶色い箱の上に腰掛けていた。以前に調べて知っている。金属製のこの箱は地中化された電柱と電線だった。

「プリンセスタじゃねえか。いいぜえ。俺達の速さについてこられるかあ?」

 速いのはキライーヤだけどね。しかし、今回だけはワニ人間を褒めてもいいかもしれない。変身の予兆を確認するために何度もキライーヤの出現に立ち会わなければと考えていたところ、前回から一週間も経たずに敵を生み出してくれた。SNSだったら「いいね!」を押している。ひさぎに関する結果は残念だったが。それがわかったのもワニ人間のおかげだし。

 正面にキライーヤの姿が。もう追いつかれた。あの巨体でか。そう思った一瞬、右の脇腹にパンチを受けた。

 反撃しようとするが、もういない。どこに行った。

 周囲を見まわす。歩道側に寄せて駐車してある何台もの車のドアがへこみ、サイドガラスが粉々に割れる。歩道に置かれた自転車が吹っ飛ぶ。車の歩道への乗り上げを防止するガードパイプ、信号や標識のポールが倒れる。茶色い箱からは煙と火花が出てがたんと転がった。キライーヤが高速で動きまわっているようだ。こういうアクションゲームあるよな。

 相手を視認できない。背中にパンチを受ける。一撃の威力は高くないが、既に何発ももらっている。

 まずはキライーヤの攻撃をどうにかしなければ。自分の左肩に打撃を受ける。少し考えたいが、向こうのスピードが許してくれない。

 こうなれば。まっすぐに高くジャンプする。真下をちらりと見ると、ビルの屋上が四角い皿のように並んでいるのが視界に入ってくる。ちょっと前までバイトで皿洗いをしていたからか。屋上には看板だったりエアコンの室外機だったりが設置してあった。このあたりは、私の地元と比較してもだいぶ都会で、最低でも五、六階建ての商業ビルが道路に沿ってずらりと造られている。その中の一つ、屋上に降りた。

 この高さだったらキライーヤもついてこられない。と、感じた直後、地上のほうからドンドンとものすごい音が響いてきた。自分の足元もちょっと揺れている気がする。

 嫌な予感がした。だが、信じられないとの気持ちもある。たしかめなければしかたない。音が聞こえるほう、屋上の隅から見下ろした。

 四つん()いになったキライーヤがクモのようにビルの壁を登ってきている。ところどころの窓ガラスが氷みたいに割れて、破片が地上にこぼれ落ちている。

 相手が近づいてくる。思わず後ずさりした。キライーヤがビルを登りきって私の正面に。パンチを浴びせられる。見切れなかった。

 エアコンの室外機が転げ落ちる。高速で動く相手が接触したようだ。プリンセスタの身体であれば、ここから落下しても致命傷にはならないだろうが――それにしても、どうしようか。

 そんな風に考えた矢先、また相手に殴り飛ばされてしまった。

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