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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第五章 日香里と二人目のプリンセスタ 

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第三話 雨の中の戦い

 予想していた通り、タブレットを取り上げられるとキャメルンは怒った。

「キャル! 話がいいところだったキャルに‼ どうせ二人になれば楽できるとか考えているキャル‼ あんいキャル。あさはかキャル‼」

 私の本心を見透かされている。妖精にとってもプリンセスタの扱い方は大事なのかもしれない。

 数々の不満と文句を駄々っ子のようにぶつけてくる。だが、こちらにはまだ交渉の材料、シュークリームがあった。私が示すと、キャメルンはわざと興味のないふりをして横目で見た。

「そこまで知りたいなら、教えてあげないこともないキャル。プリンセスタをサポートするのはキャメルンの役目キャルね……お菓子に釣られたのではないキャル。そんなに、あさはかではないキャル」

 調子がいいな。口元をカスタードまみれにした彼は、機嫌を直したのか、けっきょく色々としゃべってくれた。言っておくが、タブレットを取り上げたことは無意味でない。画面をカスタードまみれにされたら厄介だったし。

 キャメルンの話によると、プリンセスタにふさわしい人物は何かのきっかけで絶大な星の力が身体に宿るという。そして変身できるようになるのだ。

 何かのきっかけって何だ。キャメルンにたずねたら、プリンセスタによって異なるとの回答だった。私の場合、『プラチナドリーミングス』の映画の帰りに近所の公園でワニ人間に襲われているキャメルンを見かけて――もっと直接には、豪華版の劇場パンフレットをワニ人間に投げ捨ててられてか。あのせいでパンフレットにはシミが残った。自分の記憶からも絶対に消えることはない。

 そういったきっかけがわかれば、プリンセスタも発見しやすいが。まさか映画のパンフレットを他人に汚されるとかではないだろう。奇跡の一致で自分と同じだったとしたら、その子とは仲良くなれそうな気がするけど。きっと、キライーヤとの戦いどころじゃないな。語る時間が圧倒的に足りなくて、一秒だって惜しいにちがいないのだ。

 とりあえず、今のところはひたすらに探すしかない。

 今週はキャメルンを大学に連れてきていた。変身の予兆を見過ごさないようにするためだ。

 最近、配信を観たいとの理由で彼はずっと留守番だった。なので、日曜の夜に頼んだときも拒否されてしまった。バッグの中でスマホとイヤホンとを使って動画視聴してもいいと私から提案し、しぶしぶ受け入れてもらった。おかげで月曜はスマホの充電が昼前に空となり大変な思いをした。だから翌日以降は、モバイルバッテリーも一緒に持ち運んでいる。

 ちなみに、スピーカーの音量はゼロに設定してあるので、不意にイヤホンが抜けても安心だ。

 週の半分が過ぎても、まったく成果はなかった。

 授業中に私がうとうとしている間、こっそりキャメルンはバッグを抜け出して大学構内をふらついていた。授業が終わったらいなくてかなり焦った。少しでも早くプリンセスタを見つけるためと言い訳していたが。私からよく言い聞かせることになった。

 大学の後にアルバイトが入っているときも、彼にはバッグの中でスマホを触ってもらっていた。その日はモバイルバッテリーも完全に空っぽだ。大容量タイプなのに。

 もしかすると、変身のきっかけはキライーヤの出現と関係しているのでは。私の場合もそうだった。だったら、ワニ人間か。普段はこちらの用事などお構いなしのくせに、待ち望んでいると全然やって来ない。どちらもタイミングが悪いのにはちがいなかった。

 金曜の午前、授業中にも関わらず教室内が騒がしくなった。構内放送で非常事態が発生したとの連絡があったのだ。

 隣の席に置いたバッグのほうに目をやる。小声でたずねた。

「キライーヤ?」

 キャメルンが答える。

「キャル」

 イエス(そうだ)ということだ。適切なのかはわからないが――〝ようやく〟という感想だった。変身ヒロインが敵の出現を待ち望むなんておかしな話だ。

 このときの授業は学科固有の科目、少人数形式で生徒は一二人だけだった。しかも、本日は一名が欠席している。退室すれば確実に目立ってしまう。けれども、行かなければならない。

 立ち上がってトートバッグを右肩にかける。イスの背もたれに引っかけておいた傘も手に取った。今は梅雨の最中で、朝から雨が降っていた。

 慌てた様子で教授が質問した。

「見屋さん⁈ どうしました?」

「お手洗いです」

 そう返事をすると、教室を急いで出た。キャメルンがバッグから頭をちょこんと見せた。

 構内に人はほとんどいなかった。安全が確保されるまでは各自教室で待機、と先程の放送で指示があったからかもしれない。

 教授への言葉は噓でなかった。トイレに寄ると、個室で変身した。学内でプリンセスタになるならここが一番の気がする。

 屋外に出ようとして、一瞬戸惑った。傘を差して行くべきか。相変わらず雨は降り続いている。濡れるのも嫌だし、かといって、どうせ傘を開いたままでは戦えないだろうし。

 キャメルンがしゃべった。

「プリンセスタのドレスは濡れないキャルよ。生地が星の力を含んでいるキャルね」

 彼の言葉を疑うのではない。しかし、迷う気持ちは消えなくて、けっきょく現場へと傘を差して行くことにした。

 キライーヤが現れたのは研究棟の真ん前のところだった。自分も詳しくないが、教授の部屋や大学院生の教室、あとは実験室などの入っている建物のようだ。訪れたのは今日がはじめてだった。

 研究棟を除いて、まわりには本当に何もなかった。駅前の小さなコインパーキングぐらいか、アスファルトで舗装されたスペースに、キライーヤはいた。

 ワニ人間が研究棟の軒下に立っている。

「なんだあ。今日は優雅に傘なんて差しているのか?」

 教室から窓の外にいる彼のことも見えるはずで、誰か不審に思って通報でもしそうだが。ちょうど空き教室なのかもしれなかった。

 私は自分の気持ちをぶつけるように話した。

「遅いわよ。こっちはずっと待っていたんだから。もっと早くしてもらわないと困るんですけど」

「遅い? 後から来たのはお前のほうだろうが」

 言ってはみたが、やっぱりワニ人間には理解してもらえないか。

 周囲を見まわす。人の姿はなかった。キャメルンにたずねる。

「プリンセスタに変身できそうな人は? 近くにいる?」

「見当たらないキャル。今じゃないのかもキャルね」

 タイミングが今回でないなら。もう自分にはどうしようもなかった。次回にご期待ください、とかの気休めは言えるが。

 ワニ人間が叫んだ。

「何をぼさっとしているんだぜえ。戦う気がないなら引っ込んでな」

 雨よけにバッグを掛けられる場所はない。キャメルンに持っていてもらうか。

 それから傘だ。手にしたままでは戦えない。片手が塞がるし、傘本体だって壊れてしまうはず。安価なコンビニのビニール傘だったら諦められるが、これは『プラチナドリーミングス』のグッズの一つ――ヒロイン達が通う学園の指定傘を再現したものだ。晴雨兼用で上品なデザインが気に入っている。価格は当時高校生だった私がお年玉をつぎ込むぐらいだったが、実際それ以上の価値があると思う。大学に入学してすぐ、ひさぎと話す契機にもなったし。

 戦闘の後にすっかり戻るとしても、抵抗があった。大切な傘なのだ。

 しかたない。プリンセスタのドレスが雨をはねのけるのは実感できていた。降り続く雨で出来た水たまりをずいぶんと歩いたが、白のロングブーツは(つま)先からかかとまでからりと乾いている。ピンクのリボンと、それより少し薄いパステル調をした折り返し部分のスカラップにも雨水は染みていない。レインブーツには見えないのだが。

 傘を畳んでキャメルンに手渡す。バッグと合わせて重そうだが我慢してもらわなければ。軒下のどこか空いているところに行くよう頼んだ。

 たしかに、プリンセスタのドレスは雨を寄せつけなかった。水をさらっと弾いて濡れることがない。常に乾燥している。

 しかし、髪や顔、腕、かかと上のように肌が出ている箇所はひんやりと湿っぽく感じた。深い霧の中にいるような感覚だ。びしょ濡れでないのは、プリンセスタの身体に宿るという星の力のおかげか。これならメイクも大して崩れないだろう。

 今ここで、自分の身体でキャメルンの言葉が証明されたわけだ。

 キライーヤのほうに目をやる。彼は研究棟の前を歩いていた。

 突然、相手を見失った。あの影のように黒い巨体が丸々消えたのだ。何が起こった。

 困惑しているところ、いきなり吹っ飛ばされた。水たまりの中に倒れ込む。びしゃりとしぶきが跳ねるが、ドレスも身体も濡れてはいない。不思議な感じがする。

 ワニ人間が笑い声を上げた。

「姿が見えなくなるっていうのはいいぜえ。これならプリンセスタを倒せるかもしれねえな」

 自身でキライーヤの戦法をバラすとは。すごくワニ人間らしいな。

 といっても、それを知ったところで対応できるものでもない。こちらの攻撃を当てられないし、向こうの攻撃は避けられないのだ。

 そのとき、ぱっとキライーヤの姿が現れた。私の右斜め方向、一五歩ほど先の位置だった。

 姿が消えたのはあれっきり――なはずはないか。予想した通り、すぐに相手はまた見えなくなってしまった。

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