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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第四章 ふたつの涙

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第五話

 あの日の夜、百合岡さんからLINEが届いていた。イベントで余計な気を遣わせて申し訳ない、との内容だ。

 自分が失言したのに、ここまで過剰なぐらいに配慮されると、開き直る余地もなくかえって罪悪感が強まる。

 以降、百合岡さんのことは雑誌で報じられていない。何号にもわたって記事にするほどのネタでもなかったようだ。しかし、選挙で対立候補だった県議がSNS上で本件に言及、それなりに議論を巻き起こしている。この人物は民衆党の公認を受けて出馬、百合岡さんを上回る最多得票で当選した。今度の定例県議会でも追及するつもりだという。

 次のイベントへ参加するかは検討中で未定だと伝えられた。当然だった。

 これでよかったのだろうか。自分から望んでしたことではない。頼まれて、どちらかといえば心ならずだった。けれども、Sci-Fi Spiegelを支店を訪れ、オーダーメイドの衣裳を作ってもらったのは楽しかったな。仕上がった衣裳も自分の想像以上で、はじめて着るときは興奮した。その支払いがきっかけで、今この結果が引き起こされているわけだが。

 土曜、この日のバイトは夕方までだった。

 この後は家でアニメでも観ながらゆっくり過ごしますか。自宅の最寄り駅は、改札や通路が地上よりも高くにある橋上駅だった。なので、改札を出て階段を下りる。

 駅前広場に屋台のテントが見えた。イベント自体は当たり前ながら続いている。協賛金や政治利用は事務所の問題であって、運営の不手際ではなかった。あれ以来、百合岡さんからの連絡はなくて、けっきょく地元インフルエンサーの参加は打ち止めになったようだったが。

 明日も開催されるようで屋台はそのままだが、一部は既に店じまいをしている。特設ステージの出し物も本日分はすべて終わったようだ。いつもよりもいっそう人は少ない。

 ふと私の視界に一人の少女が入った。少女といっても私とほぼ同じぐらいの年だが、なにより気になったのはダークメタリックブルーの服だった。ウエストラインがきれいに出るビスチェ、それからトップスとの同色に白を混ぜたプリーツスカート――遠目に見てもわかる。自分がイベントのためにデザインしてもらった衣裳じゃないか。

 たしかめたくなって、引き寄せられるように彼女のもとへと歩いた。衣裳はやっぱり私の着ていたものだった。ドミノマスクはしていない。

 彼女をながめる。髪は肩にかからないぐらいのロブで、目は横幅の広いアーモンド型で大きめ、色白で小さな顔をしていた。

「こんにちは。国長市発のインフルエンサー、西春(にしはる)ユイですっ! 名前を覚えて帰ってくれるとうれしいです」

 彼女は愛想よくしゃべった。私よりもはるかに愛嬌があってアイドルっぽい。この子は誰なのだろうか。私が質問した。

「あの失礼だったらすみません。さっきインフルエンサーって」

「私の出演した動画が一〇万バズしたんです。ご存知かはわかりませんが」

 彼女はスマホを取り出してこちらに示してきた。再生された動画はよく知っていた。なんなら自分が誰よりも視聴したのではないかと思う。燃える工業団地を背景に、プリンセスタが巨大なキライーヤを見上げている。

 彼女が説明した。

「ここに出ているのが、私なんです」

 違う、私だ。プリンセスタは、ほかならぬ自分なのだから。どういうことなのか。

 そうだと名乗ったところで証明する手立てはない。なので、遠回しにたずねて確認する。

「あの……これって本当にあなたなんですか?」

「そうですよ! コスプレとか背景の特殊効果とか、クオリティすごくないですか?」

 映画並みのクオリティだ。フィクションであれば、だが。しかし、この動画は現実なのだ。

「すごいです。色々教えてほしいんですけど、編集はどうやってしているんですか?」

「……プレミーProという編集ソフトがメインです。ハリウッドの映画監督でも利用している人がいるほどの有名なものなんですよ。炎や煙のエフェクトはポストヴィジュアルというソフトで、テンプレートを動画に合わせて調整しています。ソフトはスマホ版もありますが、動作だったり保存容量だったりが厳しいのでパソコン版を使っていますね」

 彼女の解説が正しいかはわからない。が、真実を知らなければ、うっかり信じ込んでいた気がする。

 いったい何者なんだ。さらに質問を重ねる。

「撮影はどうしてこの場所を?」

「建物や設備が多くて破壊の痕跡がわかりやすいかなと。ただの広場だと相手が暴れても味気ないじゃないですか」

「だったら、その衣裳は? アニメとかゲームのキャラ……じゃないですよね」

「実はオーダーメイドなんですよ。有名なファッションブランドにお願いしたもので、かなり完成度高いですよね! 似合ってます?」

 彼女は右手のピースを額の高さまで掲げた。いたずらっぽく笑うのを見ると、本物のアイドルに感じる。

 どれもこれも噓だらけだ。なのに、彼女との会話の上では何の矛盾も見つけられない。全然ボロを出さないのだ。色々と調べて相当に設定を作り込んでいるな。

 自分がその動画に写っている人物だ。こちらから打ち明けていいのか。相手は信じるだろうか。日時は怪しいが、あのときの様子は誰よりも一番詳しく語ることができる。もしかすると、キャメルンやワニ人間のほうがしっかり記憶していたのかもしれないけど。

 後ろで順番待ちをしている人はいない。なので、じっと考えていてもとがめられなかったが。それも含めて幸運だった。ちょうど、百合岡さんと守田さんがやって来たのだ。

 二人は私の顔を見て挨拶した。私達が知り合いだと感じ取ったようで、少女がたずねた。

「あの、お知り合いなんですか」

 百合岡さん達がどう答えるのか気になって黙っていた。すると、思った通りに百合岡さんが全部しゃべってくれた。

 気まずくなるかもと心配していたが、イベント前と変わらない普通の感じだった。百合岡さんは特に悪びれることもなく平然と接してきた。仕事で慣れているからか。それで、私もあまり気兼ねせずにいられた。

 百合岡さんの話を聞いて、少女は私のほうをじろじろ見つめた。

「そうだったんですね。前はドミノマスクで目元が隠れていたのでわかりませんでした」

 イベントの出演者が私から彼女へと入れ替わった経緯、どこまで相手は知っているのだろう。事前に準備して受け答えをするぐらいだし、ネットで調べられる記事やSNSでの議論にはとっくに目を通しているはず。あとは自分の失言だが、こいつは報じられていないから百合岡さん達が伝えているかによる。

 百合岡さん達の前では話題に出しづらい。どうしようか悩んでいると、守田さんがしゃべった。

「西春さん。ソロソロイベントの終了ジコクが。見屋サンもヨロしいでしょうカ」

 嫌とは言えない。幸運はそう何度も訪れなかった。少女の声は、最初出会ったばかりのときの高めでかわいらしいものに戻った。

「本日はありがとうございますぅ」

 こちらを見る彼女の目付きが印象的だった。単にきれいだったとか美しかったとかではない。敵意だと語感が強すぎるし、きっと別物――適切な言葉が見つからない。たとえるなら、表向きは仲良しの女の子同士で写真を撮るときに誰が一番かわいく写るか意識し合ったり、他人への陰口を耳にしたときに自分と対象になっている子をこっそり比較してみたりする気持ちに近かった、と思う。

 夜、タブレットでアニメを観ながらもずっと考えていた。

 スマホで検索してみると、あの少女、西春ユイはこの地方出身のアイドルだと判明した。公式ホームページとSNSを見たが、活動実績は地下(ライブ)アイドル同様、小規模なイベントやライブ出演だった。所属は名古屋にある事務所で、他の残り四人のタレントを私は一人も知らなかった。

 これでよかったのだろうか。彼女の衣裳は間違いなく私の着たものだったが、サイズはあちらにぴったりだった。お直しをしたらしい。

 費用を負担したのは自分でないし、衣裳をどのように取り扱おうとあちらの自由だ。あくまで私はイベントのために貸してもらったにすぎない。

 『プラチナドリーミングス』のアニメ本編でも、グループ内で統一したりライブのイメージに合わせたりする目的で、キャラクター達が普段とは異なるブランドのドレスを着用する場面があった。バレンタインのライブならば女の子っぽいキュートなもの、結婚式のゲストライブだとお祝いの席に応じた明るい色調のものといったような。しかしながら、エレガントドレスに限っては、ブランドごとにアイドル一名が身にまとうだけだった。このドレスであればこのキャラクターと、自分の中でも関連を持って覚えている。エレガントドレスはデザイナーが才能のすべてを注ぎ込んで制作した最上級のドレス、その資格があると認められたアイドルしか着ることを許されない。そこには外見だけではなく、立ち振る舞いやこれまでのアイドルとしての活動も考慮される。本編の台詞で表現すると、ドレスに選ばれ受け入れられるということだ。

 この感覚をもとにしたら、イベント衣裳に私は選ばれなかった。つまり、自分はふさわしくなかったのだ。

 もやもやする。

 正直、あの衣裳は好きだった。Sci-Fi Spiegelはお気に入りのブランドだし。

 失敗はよく自覚している。イベント当夜、こうすればどんな結果になったのかと様々に想像した。しかし、頭の中でたどり着く結末は無数でも、現実はただ一つで変わらない。

 西春ユイ、彼女は衣裳にとって相応の存在なのだろうか。単純に衣裳の魅力に引っ張られるのでなく、自らの才能と相乗して輝けるか。演技っぽかったが、親しみやすい態度だった。受け答えもはきはきしていた。

 彼女のこちらを見る目を思い出した。自分と相手とを比べてみて、どんな判断を下したのか。気になる。向こうは、知名度こそ低くても実際にアイドルをやっている。私なんかよりもずっと――。

 改めて考えると、百合岡さん、あの人もひどかった。だいたい、彼女が協賛金を企業に出させたことが元々の原因じゃないか。何の対策もせず、事態を予期することもできず、せめて自分にわからないようにやってくれよ。無神経だろ。配慮も理解も不足したままで、素人の私がいきなり記者とやり取りさせられ、一度失敗したら終わりって。使い捨てか。訓練なしで新兵を戦場に送って大損害、司令官にも責任があるのでは――FPSでもTPSでも、初心者が標的にされ犠牲になる場面が思い浮かんだ。つまり、百合岡さんの手落ちでもある。

 腹が立つ。それに悔しく悲しい。色々な感情で心の中がぐちゃぐちゃになる。

 不意にキャメルンが声をかけてきた。勝手に私のノートパソコンでSNSを観ていたはずだが。

「日香里⁉ 泣いているキャル?」

 タブレットの画面上に、何十滴かがこぼれ落ちていた。指先で目元の涙をぬぐう。鼻声で返事をした。

「何でもない」

 アニメの再生は既に終了していた。ぎゅっとまぶたを閉じると、溜まった涙が一筋、右頬を流れていった。

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