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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第四章 ふたつの涙

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第三話

 考えなければ。

 まず自分が一番に果たすべきことは何か。これはキライーヤを倒すこと。そのためには、相手にダメージを与えることが必要だ。けれども、自分も反撃を受ける。

 その理由は推測になるが、おそらく相手の目標を達成するのに邪魔だからだ。目標とは建物や施設を破壊し尽くすことだろう。

 だったら――私が思いついたのは。

 民家のひさしを壊しはじめたキライーヤの脚にパンチ。瞬間、両腕をクロスしてガードする。こちらを向いた相手からの反撃。殴られた衝撃で身体が左右に回転しながらも、数メートル先で受け身の姿勢を取れた。ガードをしてもこの威力。

 だが、怖じ気づいている場合じゃない。すぐさまキライーヤの方向へ高くジャンプ。相手の頭上から近づいていく。落ちるタイミングで相手の右腕をつかめた。

 はじめての戦いで経験していた。プリンセスタの力はキライーヤの巨体さえも投げ飛ばすことができる。着地と同時に、自分の両手、両腕にありったけの力を込めろ。

 ふっと自分の両手に感じていた重みが消えた。相手の身体が宙に浮かぶ。キライーヤはアスファルト舗装の上に背中から倒れた。

 こうして決着、は予想した通りにつかなかった。即座に身体を起こした相手が襲いかかってきて、構える余裕もなかった私は会社建物のがれきの中に突っ込んだ。

 反撃は想定していた。さらにキライーヤの身体に背後よりしがみつく。そしてバックドロップ。手応えはあった。

 相手は陸揚げされた活きのいい魚みたいに思いっきり背中を曲げて何回か跳ねた後に直立した。人間離れした背筋に瞬発力、バランス感覚だ。プリンセスタの自分が言うのもおかしな話だが。

 そして相手の膝蹴りが私へと直撃。さすがに効いた。徹夜した上で何キロか走った直後みたいにふらふらする。

 道路脇に積み上げられたトタン板、小屋の残骸からキャメルンがひょこっと顔を出した。がれきの陰に隠れていたようだ。

「プリンセスタ! 体力勝負はやめたほうがいいキャル。キライーヤのほうが強く力を感じるキャルよ。こちらが不利キャル‼」

 どちらが早く力尽きるか、互いの体力を賭けたチキンレースを仕掛けているつもりはない。それでも、相手の(すね)あたりを狙って再びローキック。キライーヤも少しふらつき、地面に右手を突いた。

 相手がこちらに顔を向ける。怒っている――のか。自分にはたしかめようもないが。キライーヤの雰囲気から、苛立ちや嫌悪みたいなものを感じる。

 全力で道路を駆ける。背後から殴りつけられ、前方に押し飛ばされて転んだ。

 立って諦めずにパンチを加える。すぐに後ろへと跳んで離れた。ところが、右手で払いのけられ、アスファルトに激突した。

 キャメルンが叫ぶ声が聞こえる。

「どうしたキャル⁉ 見ていられないキャル……」

 自分の身体、じりじりと鈍い痛みで重いのかふらつきで軽いのかもわからなかった。限界が近づいているのかもしれない。

 相手はこちらを放って道路をよろよろと歩きだす。同じく向こうもぎりぎりなのかも。

 最後の仕上げだ。今まで、勝機が見えなくて博打に出たのでも逃げてきたのでもない。ここは、軽自動車が屋根を大破する事故を起こした交差点だ。信号柱は大きく傾いているが、なんとか倒れずに残っていた。

 車の後部、リアゲートの下のバンパーを両手で持つ。ボンネットがぺしゃんこに潰れるほどの勢いで衝突していたが、引いて動かせた。

 前輪のどちらかがゆがんでいたようだが、力を入れて引いているうちに矯正されたのかちゃんと回るようになった。道路の中央に移動させる。

 キライーヤの破壊のパターンから、がれきは道路脇にまとまっていた。今度は軽自動車を押しはじめる。車のひしゃげた正面側、その五〇メートルほど先をのそのそとキライーヤが歩いている。

 プリンセスタとしての力を両腕に込めて走りはじめた。どんどん加速していく。相手との距離も縮まる。

 大事なのは角度だ。ほんの数秒後、車は左斜め方向からキライーヤにぶつかった。圧縮されたみたいに車の座席部分が衝撃で潰れる。瞬時にジャンプして跳び蹴りを当てた。

 相手の身体は道路を外れて田んぼの中へと飛んでいった。かなりのダメージだったに違いない。しかし、自分の狙いはまた別にあった。実際、キライーヤの心の声はまだ聞こえてきていない。

 人間でいえばまるで戸惑っているかのように、相手は周囲をきょろきょろ見まわしている。この近辺は何枚もの田んぼがずっと広がっていた。網目のようにめぐらされた細いあぜ道の他は、数百メートル先にようやく民家の灯りが見えるだけだ。先程いた道路もずいぶんと遠くになってしまった。

 ところで、自分はさっきから反撃を受けていない。思った通りだ。ここには破壊の対象がない。つまり目標を達成するための行動は、何も取れないのだ。元となる行動自体が存在しなければ、それに対する邪魔もありえない。

 後は簡単だった。キライーヤにパンチとキックとを連続で浴びせる。一方的だった。攻撃中は自分のほうが悪者じゃないかとさえ思えた。

 田んぼの泥にまみれ、キライーヤが小さくうめく。

「ヤッテモ……オワラナイ……マイニチマイニチ……ナニヲシテイルンダ……ジブンハ……カタヅケテモシゴト……フエテイクバカリ……」

 心の声。すかさず横ピースをする。

「チカキラりんっ」

 両手の指先をダイヤの形に。星の力が集まっていく。

「ステラ・ブリリアント・シャワー‼」

 ベビーピンクの光を受けて、キライーヤは消滅した。

 現れ出たのは、ブラウンのボウタイブラウスにブラックのテーパードパンツを着用した二〇代の女性だった。もしかしたら私に近い年齢だったのかもしれない。が、ぱさついて跳ねた髪、目の(くま)、よれて崩れた鼻まわりのファンデーション、くっきり刻まれたほうれい線――疲れ果てた印象のせいで、少なくとも自分より五、六歳は年上に見えた。

「こんな残業だらけのブラック企業、辞めて私は自由だわ」

 お姉さんの社会人生活に幸あれ。彼女は交差点のほうに歩いていった。そして、信号のところに停車していた赤い軽自動車に乗り込む。キライーヤが倒されて、全部すっかり元通りだ。

 青信号で軽自動車は走り去った。どうやら彼女の車だったらしい。さっきまで屋根が壊れていた、あれは乗車中にキライーヤと化し巨体で押し破ったのかもしれないと思った。

 私は気づいた。交差点とキャメルンが隠れていた小屋の中程、道路照明のポールにもたれかかるようにワニ人間が座り込んでいた。よく見ると、吞気に眠っているじゃないか。

 こちらの視線を感じたのか、彼は目を覚まして大きなあくびをした。

「プリンセスタ? いけね、つい寝てしまったぜえ」

 両腕を伸ばして、ワニ人間は立ち上がった。

「なんだあ、キライーヤの力を感じないな。あーあ、また負けちまったのか」

 思わず私はしゃべった。

「あんたね。戦いの最中に寝るとかマイペースすぎでしょ」

 こっちは必死だったんだぞ。そんな私の気持ちなどお構いなしに、彼は平然と言葉を返した。

「この時間だぜえ。普段はもう寝てるんだ。眠てえなあ」

 夜遅くといっても日付の変わる前だ。特に夜更かしをするつもりでなくても、まだ起きている時間帯だった。悪役のくせにずいぶんと規則正しい生活を。

 ワニ人間は去った。私もプリンセスタのドレスから私服に戻る。トタンで出来た小屋の陰からキャメルンが出てきた。私達は一緒にまっすぐ家に帰った。

 金曜、大学の昼休みだった。左隣に座っていたひさぎがスマホを見せてきた。

「これ、日香里が話していた人じゃない?」

 画面にはニュースが表示されていた。見出しの文字が視界に入る。


 濃飛県 地域イベントに怪しすぎる大〝(カネ)〟脈 主催もア然 協賛企業に大金出させた県議のマル秘正体は

 

 県議とは、言うまでもなく百合岡さんのことだった。ひさぎは私がイベントに参加することを知っていた。大学やバイトの休憩時間にこちらから話したのだ。

 ざっと内容を読む。地元企業の六社がイベントのために出した協賛金は合計して八六〇万円にも達するという。その金額には運営の団体も戸惑っていた。協賛金はイベント物品の購入代金やレンタル料の支払い、宣伝費、一部の人への出演料に使われたが、そもそもこれらが必要となった企画のほぼすべて、県議か企業の提案によるものだった。例としては、マイホーム相談会や小学生向けの電子工作教室など。費用を負担してくれるならば、と運営団体も断れなかったそうだ。

 要するに、市民のためだったはずのイベントが、莫大な協賛金を通じて企業による営利、または県議による政治利用の場に変えられている。

 二〇代の若手県議には、指南役とも呼べる大物政治家が付いているらしい。国務大臣を務めたこともある女性国会議員で、百合岡さんが民衆党から自立党に鞍替えするのを促した人物でもある。国会議員の出身は四国だったが、濃飛県の選挙区から立候補もしている。この国会議員といえば選挙区内の食品会社の経営者とも親密で、便宜を図った疑惑も過去に取り沙汰された。企業を骨抜きにする県議の辣腕(らつわん)は、国会議員の直伝か、それとも意向を受けてだろうか。

 記事の最後には、ニュース雑誌の名が載せられていた。

 公民の授業で習った程度で政治には詳しくない。自分の頭に少し思い浮かんだのは、悪役令嬢物に登場する噂だった。伯爵と支持者が国王の失脚を画策したり、妃が息子に王位を継承するために暗躍したりみたいな。ここは現代だが。

 ひさぎがたずねてきた。

「イベント、大丈夫そ?」

 私の衣裳のことは、新しすぎるからか記事には書かれていなかった。しかし、百合岡さんと守田さんの会話ははっきり覚えている。衣裳の代金はイベント協賛の会社――あの私達が訪問した設計会社が支払った。よく思い当たるのだ。

「ひょっとするとヤバいかも」

 百合岡さんのSNSアカウントは何の更新もない。念のため、LINEで質問してみる。既読は付かなかった。

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