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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第四章 ふたつの涙

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第二話

 衣裳が完成したとの連絡が自分のところへ来たのは月曜だった。

 明日にでもこちら側――イベントを運営している地元団体に引き渡されるそうだ。百合岡さんによると、協賛企業の一つが代金の支払いを快諾してくれたという。

 団体が衣裳を受け取り次第、百合岡さんの事務所へと送付してもらう予定だった。なぜ、そのように回りくどいことをするのか。百合岡さんは、協賛の会社へのできるだけ早い訪問を希望していた。衣裳の披露を兼ねてお礼を直接に伝えたいのだ。衣裳モデルの自分と協賛の会社、互いに関わりのない二者とやり取りをするのに、地元団体を介するといっそう複雑で時間もかかる。なので、百合岡さんの事務所が直々に対応するつもりなのだとか。

 木曜の夜、百合岡さん達と一緒に訪問することになった。大学の授業後、アルバイトの入っていないのがこの日なのだった。夕方も過ぎてすっかり暗くなった時間帯、迷惑じゃないかと思った。が、百合岡さんの言うには、むしろ仕事が落ち着いた頃で好都合だとのこと。

 事務所に届いた衣裳は、ほこりよけの透明なビニールカバーをかけられ、応接スペースの奥の部屋に設置されたドアハンガーに吊されていた。ブーツは真下に置いてある。さらにその右横にブランドロゴの入った銀のショッパーも。ドアハンガーは、引っかける場所がないことに気づいた守田さんが準備をしてくれたらしい。

 丁寧にカバーを外し、下着の上にビスチェをまとう。大まかな全体のデザインは初期の案から変更がなかった。ボックスプリーツスカートは自分の提案を反映して、裾が右から左にかけて徐々に長くなっている。ブーツに足を入れ、ジッパーを上げていく。ヒールの高さは五.五センチ、実際の歩きやすさとスタイルアップを両立した。ショッパーから丈夫な作りの紙箱を取り出す。蓋を開くと、中敷きに固定されたアクセサリーが――ショップで見たネックレスは最終的に見送った。ストーンの色が衣裳の胸元とかぶり、せっかくの魅力が半減してしまう。もっと他に最適なものがあった。同じインパーソネーションシリーズのイヤリングだ。チタンカラーの短い金属チューブを連結したようなフープ型で、ラウンドカットされた小粒ながらも、やはりアレキサンドライトがついていた。

 変身コンパクトを出す。この部屋はどうも物置のように扱われていて、隅に横長のデスクがあるのを見つけた。上蓋を開いてデスクに置く。ミラーで位置をたしかめながら、左右それぞれにイヤリングをつけていく。さすがに守田さんも鏡までは準備していなかった。事務所のお手洗いにあるからか。キャメルンがうるさくていつもコンパクトを持ち歩いていたが、それが役に立つとは。

 百合岡さんが着替えた私を見て絶賛した。守田さんは冷静に「よくオ似合いデス」とだけ述べた。もし彼から同様に絶賛されたら変な感じだからこれでいい。

 事務所のミニバンで目的の会社に向かった。コンビニや飲食店、自動車の整備工場がところどころ建ち並ぶ国道沿いにあった。コンクリート造りでスクエア型をした現代風な建物で、地面に設置したライトが入口のあたりを照らしている。

 まっすぐに百合岡さんは進んで、自動ドアの押しボタンに触った。ドアの横に取りつけられた茶色い石のプレートから「株式会社ケー・ティー設計」との社名を知れた。

 屋内は、一瞬まぶしく感じられるほどに明るかった。受付のカウンターには誰もいなかったが、奥のオフィスに二、三人の姿が見え、キーボードを打つ音が聞こえてきていた。

 男性が立ち上がりこちらに近づいてくる。チャコールグレーのスーツにワインレッドのネクタイ、体格のいい四十過ぎぐらいのおじさんだった。

 百合岡さんが愛想よく話しかけた。

「夜遅くにどうもごめんなさい。どうしてもお礼を一言お伝えしたくて」

「いやいや。わざわざ来ていただいてすみませんね」

 彼はちらりと私のほうに目をやった。

「こちらがイベントに出てくれる、例のインフルエンサーの子?」

 バイトで接客するときの感覚で、名乗って頭を下げた。彼がしゃべった。

「一〇万再生だって。すごいねえ。今度うちの宣伝動画にも出てほしいよ」

「考えておきます」

 これも、バイトでお客さんに話しかけられたときによく使っている返しだった。

 それから百合岡さんとおじさんとでしばらく会話していた。別に誰と仲良くしたってもいいが、ずいぶんと親しげだった。

 四、五分ほど経って、彼は応接室でお茶でも飲んで少し休んでいくように勧めた。しかし、時間も遅いのでと百合岡さんはきっぱり辞退した。そのほうが私にとってもありがたかった。

 私達は再び事務所に帰った。会社に滞在したのは合計しても十数分、移動時間のほうが長いぐらいだった。だが、短くても議員の仕事をする上でたしかに挨拶は大切な気がした。

 夜、帰宅して夕食を済ませ、自分の部屋でだらだらと動画を観たりマンガを読んだりしていた。時刻は二二時を過ぎ、そろそろお風呂にでも入ろうと思ったところだった。

 私のベッドの上で先に眠っていたキャメルンが飛び起きた。

「出たキャル! キライーヤキャル‼」

 驚いて私は右手に持ってたスマホを落としそうになった。キャメルンは窓辺にまっすぐ向かった。

「わりと近くキャル。早く変身キャルよ!」

「タイミング悪いなあ」

 まだお風呂に入る前だっただけましか。後からだと余計に面倒だしな。

 久々に部屋で変身をする。キャメルンに急がされつつ、窓から外に出た。玄関だと親に見つかるかもしれなかったのだ。プリンセスタのことなど話すことはできなかった。

「キライーヤはあの星々を結んだ大三角形とは反対寄りの方角キャル」

 キャメルンに連れて来られた現場の周辺は、店や家もまばらだった。車道沿いに一定の間隔で照明が設けられていたのを除けば、店舗の看板を照らすライトや民家の窓より漏れた光が夜の闇にぽつぽつとシミのように点在して見えた。

 どこか見覚えがあるな。キャメルンが叫んだ。

「キライーヤはあそこキャル‼」

 相手は車道をこちらと反対に歩いていた。片側一車線、郊外にごくありふれた道路だ。時間帯のせいか、車は一台も走っていない。

 住宅街に通じる細い道との交差点――そこの信号柱に屋根(ルーフ)を失った赤い軽自動車が突っ込んでいた。中には誰もいなかった。

 キライーヤは道路脇の街灯を順番に一本ずつ引き抜き、割り箸のようにへし折って壊していた。同時にガードレールもちぎっていく。なので、彼の進んだあとには破壊の痕跡と暗闇とがくっきりと残った。

 相手の前に立ち塞がる。向こうがじろりとにらんだ。が、一瞬だけだった。キライーヤは私を無視し、道路脇に逸れていった。そして、地中に広がる草の根へとするようにぐっとガードレールを抜き、両手で紙みたいに丸めて投げ捨てた。

 またキライーヤが歩きだした。街灯を抜いて壊すのは相変わらずだ。すぐ先に小屋がある。屋根も壁もトタンで作られた簡素なものだ。キライーヤは壁をはがし、むき出しになった柱と梁とを壊していく。崩れかかった屋根をつかみ、それもばらばらに。

 このままでは道沿いのものが全部破壊されてしまう。相手の背中にパンチを浴びせる。効いている。

 キライーヤはこちらに振り返った。その瞬間、すさまじいげんこつに見舞われた。構える余裕もなく、私は吹っ飛ばされて周囲にあった田んぼの泥の中に落下した。

 プリンセスタならばドレスも髪も汚れない。キライーヤは今度、車道を照らす街灯のポールをぐっと握り潰している。支えを失って倒れた街灯が、地面に叩きつけられた。

 相手は道路を横断し、斜め向かいにある建物に歩いていった。コンクリート製でスクエア型――夕方に訪れた会社じゃないか。入口を明るくしていたライトは消されていたけれど。プリンセスタになったおかげで、暗がりでも物が見やすい。

 今回は自分の攻撃が相手にまっすぐ通るみたいだ。早々にけりをつけよう。

 キライーヤに接近してサイドキック。相手がよろめく。ちゃんと効果がある。この戦いは案外簡単に、と感じた矢先だった。振り向きざまに殴りつけられた。速すぎて見切ることもできず、道路のはるか数メートル先に飛ばされた。

 立ち上がったとき、既にキライーヤは会社の建物に手をかけていた。コンクリートをこぶしで割って崩し、露出した鉄筋を折ったり抜いたりする。やけに丹念な破壊だった。

 こちらをまるで見ようとしない。存在を無視されているようだ。

 そのわりに、先程の自分への攻撃はずいぶん強烈だった。痛くはないが、ずっと歩き続けた後みたいにほんの少しだるい気がする。わずかながらダメージが身体に表れているらしい。

 この差はどこにあるんだろう。自分がやられたときは、キライーヤが何かを壊している最中だったな。相手の動きを邪魔したときだ。

 表情も言葉もなくて感情を持っているのかもわからないが、もしかすると怒っているのか。自分のやることを相手に妨害されたら腹立たしいよな。人間と同じように考えたらだけど。

 キライーヤの攻撃を覚悟して攻め続けるか。しかし、先に自分の体力が尽きれば負ける。

 会社を壊し終えたキライーヤは、ガードーレールを破り捨てつつ移動していく。追いかけるが、うかつに手出しできなかった。反撃されるかもしれなかったのだ。

 相手の進む前には黒い瓦屋根の民家がある。次の標的はあれだろう。

 どうすればいい。キライーヤが民家に迫っている。相手は私のことなど気にもしていないはずだが、無性に追い詰められているように感じた。

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