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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第三章 才女の誘いは波乱の予感

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第八話

 日中の雲一つない青空に、星なんてどこにもないはず。

 そういうことか。私は気づいた。

 左腰に手を伸ばし、変身コンパクトをつかんだ。駅舎の方向に向く。

「キャメルン。預ける。受け取って‼」

 エントランスの端の角、出隅のところからすっと出てきたキャメルンへとコンパクトを投げた。プリンセスタの身体であれば、肩の力も体幹も、コントロールも充分だった。

 キャメルンがしっかりとキャッチ。ワニ人間がしゃべる。

「なんだ? やけになったのかあ?」

 私はキャメルンに指示した。

「キャメルン。コンパクトを開いて。星の力は?」

「変わらないキャル。プリンセスタのまわりキャル」

「コンパクトのほう! そこにも星の力があるでしょ」

 変身アイテムであるコンパクト、そこにも星の力が宿っていることはプリンセスタとしての直感でわかっていた。キャメルンが答える。

「あるキャル。プリンセスタと同じで、ほんの少しキャルがまわりから集まっているキャル」

 星の力は何でもできる魔法――吸収されないようにはできないけど。

 一瞬、まぶたを閉じた。心の中で思い描く。コンパクトに宿った光り輝くオーラのような星の力がこちらへと。

 目を開いた。

「いくよっ‼」

 張り手をよけ、キライーヤの腕をくぐり抜けて胴体にパンチ。いつもの感じだ。相手は衝撃で後ずさりした。

 ジャンプしてから跳び蹴り。これも命中し、キライーヤは倒れ込んだ。

「ノウリョク……カゼイ……チョウシュウノウエ……ブンパイ……ジブンモ……カンペキニ……」

 攻撃が効いている。すかさずに横ピース。本日二度目のステラ・ブリリアント・シャワーは、ベビーピンクの一筋の光となってキライーヤを射抜いた。

 ワニ人間が驚き叫ぶ。

「なんでだ⁉ プリンセスタの力は吸い取られるはずじゃねえのか」

 自分に有利な局面だし、余裕もあるから話してもいいかな。私は性格が悪いのだろうか。

「税金として持って行かれるのは、キライーヤの敵、つまり〝私の〟星の力だから」

 パンチと跳び蹴りをするとき、コンパクトから星の力を引き出し自分へと寄せ集めるイメージが頭の中にあった。この力は借り物だ。どんな税金だろうと、それを支払う人がいなければ成立しない。今回の納税者はプリンセスタで、課税対象はその所有する星の力だった。当たり前だが、借り物の所有者は私でない。だから相手にむざむざと渡す必要もないのだ。

「物事それ自体が税金を払うわけじゃないからね」

 たとえば、収入や土地には税金が課されるかもしれないが、お金や土地がそれを払うのではない。払うのは、その所得者であり所有者なのだ。

 ワニ人間が説明をさえぎった。

「ごちゃごちゃと難しいことを。負けちまったらもう用はねえぜ」

 さっと彼は消えた。ワニ人間の言う通りかもしれなかった。もっとシンプルに税金でなく単純な吸収だったら、納税者の制約もなく、私を打ち負かせたかもしれないのに。

 キャメルンがコンパクトを両手で抱えて、こちらにやって来る。

「よく思いついたキャルね。ここにたくわえられた星の力を利用するキャルなんて」

「星の力が自分に集まってきているって教えてくれたでしょ。あれ、空の星から降ってきたものだよね」

 白昼、星はまぶしい太陽のおかげで見えないけれど、ちゃんと空に出ているのだ。それで、プリンセスタの自分以外にも星の力が広く存在するのではとひらめいた。

「キャル……『プラドリ』で聞いたことのある言葉キャル」

「九七話ね」

 『プラチナドリーミングス』の中でも印象深い話で、一番好きだと語る人も多い。ファンならば全員が知っているほどの名言だ。

 キャメルンから差し出された変身コンパクトを受け取った。こいつは本当に役立つアイテムだ。もし今の現実がアニメだったのなら、エンディング前のCMで、これをモチーフにしたおもちゃを宣伝しているところだろう。きっと売れるにちがいない。

 青年は、はっと夢から覚めたように身じろぎした。

「社会の仕組みは複雑だな。もっともっと勉強しないと。いつかは先生みたいな政治家になるんだ」

 倒壊した屋台もキッチンカーも、広場のすべてが戦う前の状態に戻る。私の姿もだった。

 バス乗降場のほうから、百合岡さんと秘書の守田さんがやって来た。百合岡さんが青年に声をかけた。

「広場のほうは順調? なんでかあっちに呼ばれていたけど。イベントスペースは――」

 彼女はこちらに気づいた。

「見屋さん。来てくださったんですね!」

「いえ。私は偶然に通りかかっただけで」

 こうなる予感はしていたのだ。私の言葉など聞いていないように、百合岡さんはしゃべった。

「ぜひイベントに参加してください。観ていくだけでも構いませんから」

 彼女は振り向き、少し後ろに立っていた守田さんにたずねた。

「この後のイベント予定は?」

「ゼンコク大会にもシュツジョウした地元高校の教諭のカタが、マジックショーをヒロウします」

「なら、多少の時間調整はできるわね」

 うやうやしく守田さんが「問題ございません」と答えた。そのとき、青年が右手に握っていたらしいタブレット端末を示した。

「あの、マジックショーも撮影するんでしょうか」

 百合岡さんの口調が強くなる。

「私は最初になんて言った? SNSでの広報用に全体を広く撮影してってお願いしたはずだけど」

「はい。出店スペースは一通りまわって撮影しました。ですけど、ショーも撮るんでしょうか」

 苛立ちを隠さずに百合岡さんは答えた。

「当然でしょ。イベントの一環なんだから。むしろ、なんで撮らないと思ったわけ?」

「朝聞いた、先生の出展者への〝挨拶〟の様子を、ショーの途中でどう撮るのかな、と思って……」

「ショーをやっている最中に撮影できるわけないでしょう。前とか後とか、考えればわかることでしょ。もっと臨機応変に対応しなさい」

 動画の撮影をしているのか。もしかすると、自分の疑問をたしかめられるかもしれない。一瞬そう考えたが、百合岡さんの怒る声ですぐ気まずさのほうがまさった。

「すみません。イベントの動画、撮っているんですか?」

 はっと存在を思い出したように、百合岡さんが私の顔を見た。

「お見苦しいところをごめんなさい。イベントの様子、撮っていますよ」

 彼女の声のトーンが高くなる。自分の母親が電話でしゃべるときみたいだった。再び彼女は青年に質問した。語調は落ち着いていたが、相手を牽制するような冷たさがあった。

「ちゃんと撮れているでしょうね」

 青年はタブレットを操作した。

「大丈夫です。しっかり撮れています!」

 だとすれば、キライーヤと戦闘している場面も残っているんじゃないか。百合岡さんが私に微笑みかけた。

「興味を持ってくれてうれしいです。イベントに協力しているかいがありますね」

 イベントでなく動画の中身に興味があるのだが。疑問を解消するためにはこうするしかない。

 ちょうど、黒のシルクハットに同じ色のマントを羽織った男性が近づいてきた。普段なら見るからに不審だが、今に限っていえば納得できる格好だった。

「どうも。この後のマジックショーに出ます」

 三〇代ぐらいで細身の人だ。百合岡さん達も挨拶を返す。私も無視できずに軽く頭を下げた。

 守田さんが運営スタッフとやり取りをして、マジックの人は特設のステージへと移動していった。

 百合岡さんの勧めで、動画の前にそのショーを観ていくことに決まった。自分はイベントに興味があることになっているのだ。

 特設ステージといっても、高さはなく、それ用に空間が確保されているだけだった。ショー自体は、シルクハットから万国旗やハト、ハンカチから花束が出現するもので普通だった。

 ショーの後にはマジックの人へのインタビューがあった。百合岡さんが聞き手で、撮影は青年、守田さんが画角や質問内容のフォローだった。その間はタブレットを使っているので、私も彼らより少し離れた後ろで終わるのを待った。

 それからようやく、私達は特設ステージの隅で動画を確認することになった。四人でディスプレイをながめる。

 百合岡さんがしゃべった。

「見屋さんは何に興味があります? SNSでトレンドになった食べ物も、商工会議所の方にも協力してもらっていくつか出展していますよ。今回はタンフルとトルネードポテトですね。前は一〇円パンやはしまきもありました」

 どれも少々前の流行だな。地方のこの街らしいといえばそうだが。

 自分の観たかったのはキライーヤが出現してからの動画だ。マジックの人に対するインタビューの一つ前、天然石を取り扱うショップのアクセサリー作り体験スペースの動画を指定した。

 再生を始めた直後、百合岡さんが声を上げた。

「ちょっと、何この再生時間⁉ 本当にちゃんと撮影できてるの」

 動画の尺は四〇分近くもある。先程のマジックの人に対するインタビューは五分ほどで済んだ。比べると、明らかに長い。不思議そうに青年が答える。

「このストーンショップの人にインタビューをしたのは覚えているんですが、それからマジックショーの前までがどうだったのかよく思い出せないんです」

 百合岡さんは溜め息をついた。

「しっかりしてよ。私と守田君がバス乗り場のほうに行ったときでしょ」

 彼女の言葉が途切れた。そして、少し考えた末に自問自答のようにつぶやいた。

「――なんであそこに行ったのかしら。おかしいわね」

 守田さんも悩んでいた。

「申し訳ありませんが、私もオモい出せません。ジョウコウジョウから先生と戻ってきたキオクはあるのですガ……ドウガを観ればわかるカモしれません」

 はたしてどこまでが録画されているのか。不安もある。変身は誰にも見られないようにしたから、プリンセスタの正体はバレないと思うが。

 動画に収められたインタビューが終わった。低い声が聞こえる。私にとっては聞き覚えがあった。全身黒の身なりで口元がピノキオの鼻のように真正面に伸びた異様な存在、ワニ人間の姿を端末のカメラはとらえていた。

 彼の手の上に、真っ黒の玉が見える。人間をキライーヤに変えるやつだ。エフェクトにありそうなどす黒いオーラが画面に映っている。

 青年の叫び声が響いた。瞬間、景色が大きく揺れる。そして暗闇と化した。

 手からタブレットが落ちたのだった。かすかな足音や悲鳴が耳に入ってくる。人々が逃げ惑っているところだ。

 百合岡さんは愕然としていた。

「何なの、これ」

 守田さん自身も困惑しながら答えた。

「ナニか騒ぎが起こっているヨウですが。何があったかはワかりません。チカくに私もいたはずですが、なぜだか覚えてオリません」

 この場で真実を知っているのは、私とバッグの中に押し込められているキャメルンぐらいだろう。当の青年でさえ、百合岡さん達と同じく奇妙そうにディスプレイをのぞき込んでいた。

 以降、動画にはまったく何も映っていなかった。キライーヤとプリンセスタとの戦いの音がときおりスピーカーから流れる。

 事象を知らない人からすれば、気味の悪い映像だった。途中で倍速再生に、さらに数秒ずつ飛ばして観た。撮影は、端末がスリープモードに入ったことで終わったようだった。

 自分の仮説は正しかった。星の力が使われる前に始められた録画は、そこにキライーヤやプリンセスタの姿形をとどめて後に残すのだ。動画が実在することで証明された。私の想像もしなかった形でだけれども。

 タブレットには、撮影した動画が一覧で表示されている。待ちきれなくなったのか、青年がアプリを閉じた。

「動画、もう終わっていますよ」

 キライーヤやプリンセスタを知らない人が、ホラーと紹介されてもおかしくない動画を観て何を思ったのか。しばらくして百合岡さんが話した。

「止めるのを忘れ、三五分以上もむだな撮影をするなんて。しかも、何していたかも覚えていないなんてね。いくらなんでもぼんやりすぎでしょ」

 青年のせいということで納得しようとしているみたいだった。そうなのかもと彼自身も同意している。守田さんは黙っていた。

 霊的な作用だとか時空の断裂から漏れ出た救いの声だとか、そんな風に騒がれるよりはいいか。私の正体も秘密のままだし。

 青年がタブレットを片付ける。けっきょく他のインタビュー動画は観なかった。あの意味不明な一本で、みんなうんざりしたのかもしれない。

 これでようやく自分も――家に帰るつもりだったが、百合岡さん達に屋台を見ていこうと強く誘われた。昼食がまだ済んでいないと言ったからだろう。

 特設ステージから近い、たこ焼きの屋台にまず連れて行かれた。そして次はフランクフルト。デザートは何がいいかと百合岡さんにたずねられ、冷やしパイナップルを選んだ。キッチンカーのクレープもお勧めされたが、たこ焼きとフランクフルトで既にお腹は膨れかけていた。

 案内の通りに店をまわり、百合岡さんの職業を実感した。どこの店の人達へも親しげに話しかけて雑談を交わしている。相手の年齢性別は様々だ。インタビューでもう顔見知りだったとか接客や広報活動の一環だとかの理由はあっても。自分とは別の人間だという気がした。どこか『プラチナドリーミングス』のアイドルにも似た気配が。

 最初にたこ焼きの屋台の前までやって来たとき、百合岡さんは述べた。

「ごめんなさいね。紹介しておいて悪いのですけど、私は何かをおごることのできない立場なんです。政治家が有権者の方のために代金を払うと寄付と見なされてしまうのですが、これが法律上だめなんですよ」

 しかし自分が財布を出す前に、屋台の店主が無料(タダ)でいいからと声をかけてくれた。たぶん、百合岡さんの言葉を耳にしていたのだろう。続く二つの店でも無料のサービスをしてもらった。

 どこの店主へも守田さんが申し訳なさそうに事情を話し、余分に複数個を購入した。イベントが終了して事務所に戻ってからの夕食にするそうだ。

 ここまでされて、いよいよ私は断りづらくなった。実質、食い逃げみたいになるし。

 冷やしパイナップルの店の前で、百合岡さんと守田さんからの誘いを受けた。今回、青年は特設ステージの片付けに駆り出されていて、邪魔をすることもない。

 ついに私は引き受けた。でないとずっと帰れない気がしたし、屋台の食べ物も無料にしてもらったし。

 百合岡さん達に何度もお礼を言われた。彼女達は本日の終了までを見届けるつもりだという。ついでに食べ物以外の屋台も案内しようかと提案されたが断った。

 ようやく、私は駅前広場を離れた。百合岡さん達が見送るかのようにこちらをずっとながめていた。

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