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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第三章 才女の誘いは波乱の予感

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第四話

 変身して戦う前に試したいことがある。スマホのカメラを起動し、ビデオ撮影を開始した。あのSNSにアップロードされたプリンセスタの動画は、不幸にも着実に閲覧(インプレッション)数を伸ばし、現在は三〇万を超えた。まずは誰がどうやって撮影したのかを突き止めたい。そのために色々と考えていた。キャメルンにしてもらうつもりだったが留守番なので、自分でするかしない。

 路地裏で変身をすると、店先に引き返した。

 ここから車道を挟んで反対側の通りにワニ人間がいた。彼はキライーヤの動きを見つめていた。

 車道をこちらに進んでくるキライーヤの前に立ち塞がる。ワニ人間がやじを飛ばすみたいに声を上げた。

「プリンセスタ! 今日も勝負だぜえ」

 私は彼のほうをにらんだ。

「キライーヤの出現、バイト中が一番困るんだけど‼ 戻ったときに言い訳するの大変なんだからね」

「知るかよお。嫌なら戦わずに黙って見てればいいだろ」

 悪役のくせに正論を。ワニ人間はこちらを指差す。

「キライーヤ。あいつをやっつけるんだぜえ‼」

 相手が両手を挙げる。私は身構えた。

 腕を振り下ろすと同時に、キライーヤの口からぽんぽんとスケルトングリーンの丸い塊が何個も放たれた。

 それを受け止める。痛くはない。だが、両腕に丸い塊が一個ずつくっ付いた。スーパーで売られている大玉スイカほどのサイズがある。これでは戦いづらい。外そうとして塊同士を近づけると、磁石のように引かれ合って一つにまとまった。

 外せない。手錠をかけられたみたいに腕が塊によって拘束されている。こいつはゴムのように弾力があって全然ちぎれなかった。色々と動かしているところに、相手の張り手が飛んできた。

 車道を転がってガードレールにぶつかる。起き上がると、まわりに丸い塊が何個かころころと落ちている。うっかり触るとくっ付きそうだ。

 再びキライーヤが塊を吐き出す。ジャンプしてかわした。いったん塊の放出が途切れた。かと思ったら、こちらへと上向きに飛んできた。まずい。私の左足首のあたりに塊が付着した。さらに後続が。とっさに両腕が前に伸びて塊を受け止めようとし、腕のものと合体してお腹らへんを覆うぐらいにますます大きくなった。塊の重みで前のめりに。受け身も取れずに地面に激突した。

 両腕と左脚が重い。立ってはいられるが、まともに動くのは無理だ。キライーヤが塊を放つ。かわすこともできずに狙い撃ちだった。

 もはや自分に何個くっ付いているかもわからない。それら全部が一つにまとまって、身体が丸い塊に包み込まれた。見えるものすべてが緑がかっている。プリンセスタだからか窒息はしていない。

 キライーヤに攻撃される。こちらは何もできずにされるがまま。ころころと転がって、路上のタクシーにぶつかった。見方によっては塊に守られているにも等しいわけで。自分にダメージはこれっぽちもなかった。

 こいつはどういう物体なんだろう。ソフトタイプの接着剤が固まったような、ゲルとか呼ばれたりスライムやグミにも似たりした何か。

 スライムだったら、塩を混ぜれば固くなるし、レモン汁をかければ溶ける。というのはマンガで知った。アスファルトを転がり車に当たっても壊れないこれを、単なるスライムと同じに扱えるかは疑問だが。

 塊は寄り集まってどんどん大きさを増していく。視界がグリーンなので正確ではないが、もう一帯は塊で覆い尽くされたと思われる。

 キライーヤが塊を連発する。緑の物体は相手の目の前でホイップクリームを絞るみたいに積み重なっていく。大型の観光バスほどになったところで彼の身体を弾き飛ばした。キライーヤ自身は塊をはねつけるのか。

 勢いで、相手は路面に広がった塊の上をカーリングの球のように滑り、街路樹をなぎ倒してビルへと突っ込んだ。

 ほこりはこぼれ落ちた塊に引っ付き、あまり舞わなかった。相手は尻餅をついたように倒れていた。もしかして、勝手に自分でダメージを受けたのか。

 今、ステラ・ブリリアント・シャワーを浴びせれば勝てる気もする。が、塊の中では技を放つポーズも取れない。

 この街にあふれ返る緑の物体をどうすれば。四つ集まれば消える――はずもないし、そんな展開だったら駄作もいいところだ。あとは、液体窒素を運ぶタンクローリーがいたら、塊をかちこちに凍らせて粉々に――ってのは有名な映画の終盤だが。タンクローリーはどこにもいない。

 ちなみに、塩とレモン汁も当たり前だがなかった。

 一瞬、自分の右肩が少し動いたように感じた。押さえつけられている感覚が楽になったのだ。ところが、意識をすると動かせない。足元もだった。歩こうとすると、周囲の物体は壁のように固くなり動作をはばんだ。

 力を抜いてそろりと足を運び、ようやく五歩程度進んだ。一箇所、緑がかなり薄くほぼ透明に近くなっている。さらに進んでみた。舗装がひび割れ、そこから水が噴き出しているようだった。キライーヤがビルに突っ込んだ衝撃で、埋設されていた水道管が破損したらしい。

 地下って前回の戦いでもじゃないかと感じた。が、とにかく水と混ざった塊の粘度が下がって、性質変化しているのだ。

 キライーヤは両手をついて立ち上がった。そしてこちらへと塊を放出。しかし、この攻撃はもうほとんど効かなかった。水で薄まった全体とすぐに一体化して拘束する力が弱まるのだ。

 相手に攻撃をしなければ。そのためには、動作に一定以上の力を込められない。戦いの最中にリラックスとは、武術系のバトル物に登場する心得みたいだ。

 キライーヤがこちらに張り手をしてくる。ゆるやかに両腕を組んでガードした。自分が力を入れたのと相手の攻撃の衝撃とで、塊は固化する。おかげでダメージは受けていない。

 接近するだけでも一苦労だった。物体が固まると足をとられ、前のめりになる。キライーヤの攻撃も効果はないが、進行妨害にちがいなかった。相手もちょっとずつだが移動しているし。

 なんとか相手の正面にたどり着いた。力を入れると動けなくなるから、なでるように手を差し出す。キライーヤの身体に触れるのも、チョウが止まるようにゆっくりと。どこかの流派かな。

 こぶしを握りしめて瞬間、キライーヤにぶつけた。即座に自分の全身が塊で拘束される。けれども、相手に当たった感触はあった。

 キライーヤは前屈みに吹っ飛び、標識のポールをへし折った上にガードレールを押し破った。相手が緑の物体をはねつけるせいなのかもしれない。

 彼は立たない。今度こそ決める。そろりと右腕を上げた。あやとりみたいな繊細な指づかいでピース。口を動かせばすぐまた硬直してしまうから、声は出せない。なので、心の中で念じた。

「チカキラりんっ」

 両腕を伸ばして構える。塊の固化を避けるため慎重に。当然ながら、普段よりも時間がかかった。他の人の目にはスロー再生のように映っただろう。

 最初の変身だったか、星々の輝く夜空を見上げたことを思い出した。あのとき、私の中に鮮明なイメージが流れ込んできた。自分がステラ・ブリリアント・シャワーのポーズを取って放つところだ。映像や文章で知るのではなく、もっと明らかに、喜怒哀楽のような全身に訴えかけてくるものだった。星の力というやつなのか。

 私の心に、無数の星のきらめく虹色の宇宙の景色が広がる。星がプリンセスタの自分に伝えかけている。

 ダイヤに組んだ指先の向こうに、黒いキライーヤの姿があった。言葉はいらない。グリッターやラメのように光る粒が、指で囲まれたダイヤ形の空間に集まっていく。星の力の実体だ。

「ステラ・ブリリアント・シャワー‼」

 心の中で唱えた。キライーヤの姿形はベビーピンクにかき消された。

 出てきたのは小学生ぐらいの女の子だった。ネイビーのTシャツにグレーの迷彩(カモフラ)柄ミニスカート、シューズは白いスニーカーで、胸元にハートチャームのネックレス――オルチャン風かな。服の気合いの入れ方からして、友達との遊びかデートだろうと推測。

「せっかく買ったんですけど‼ これ食べるの無理? 無理か?」

 同じく小学生っぽい、似たようなファッションの女の子が近づいてくる。彼女の友達らしい。

「また今度買えばいいじゃん。アタシの半分あげるからさーほらもう諦めて早く行こうよ」

 彼女達の去った後、袋を開けかけた食玩のグミが落ちているのに気づいた。K-POPの男性グループとコラボした商品で、封入のステッカーは抜かれていた。薄緑のグミの一部は、雑に破られた袋からこぼれ出て地面に接している。ライム味だそうだ。

 食べないなら食べないでちゃんと片付けてほしい。と小言はさておき、ちょっと懐かしい気分がした。小学生の頃、よく私も『プラチナドリーミングス』とのコラボ商品を買ったり買ってもらったりしていたな。シリアル、ふりかけ、レトルトカレー、カップラーメン、そして忘れてはならないのがちくわ。これらおまけのカードは、今でもちゃんとバインダーにとってある。

 街も私の格好も元に戻った。グミを見下ろしている自分に、背後から人影が近づいてきていた。

「あの――」

 驚くのと同時に恐怖が込み上げてきた。もしかすると、ストーカーにつけられていたんじゃ。おずおずと振り返れば、そこには、ストーカーでなくて大学で話題になったイケメンがいた。

 ダークネイビーのスーツを着用し、高身長のため下向きの視線でこちらを見つめていた。間近ならばいっそうのこと、芸能人だと説明されたらたしかに疑うことなく信じてしまいそうだ。

 何もしゃべることができなかった。すると、彼はジャケットの下襟(ラペル)のところに右手を突っ込み、裏ポケットから取り出した。アクション映画みたいに華麗な動作だった。

「私、コウイッタ者ですが」

「え?」

 思わず聞き返した。読み上げソフトのように抑揚もなく単調な棒読みだった。

「失礼、コウイッタ者です」

 台本か何かを読んでいるのか。声のインパクトに注目しがちだったが、彼は高級そうな黒いブライドルレザーのケース上に名刺を載せて両手で差し出してきた。

 名刺には「濃飛(のうび)県議会議員 百合岡(ゆりおか)れいこ 秘書 守田蓮(もりたれん)」と記してあった。議員秘書――かなりのハイスペック男子だ。少女マンガに登場しそうなレベルの。執事の妄想もまったくのでたらめではなかったのかもしれない。

 どうするのが正しいか知らなかったが、お仕事ドラマで観たのを思い出しながら受け取った。賞状とか卒業証書とかをもらうのに似ていた気がする。

「それで、私に何か用ですか」

「先生がぜひアナタにおアイしたいと」

 この先生というのは県会議員のことだよな。どうして私なんかに。秘書の男性は続けた。

「今SNSでワダイになっていますよね。先生はヒジョウにカンシンを持っておいでです」

 私は愕然とした。プリンセスタであることがバレている。適当な言い訳も思いつかずに、じっと黙り込んでしまった。

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