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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第三章 才女の誘いは波乱の予感

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第二話

 キライーヤは踏みつけたり押し倒したり、あらゆるものを壊し続けていた。

 すばやく近づいて、くるぶしのあたりに連続でパンチ。でも、相手は特に気にしていない。

 無敵か。だとしたら、自分はどうすればいい。何もできないのでは。

 建物が崩壊した跡の地面に、コンクリートの天井が埋もれているのを見つけた。一部に穴が開いている。穴の周囲にはねじ曲がって切れた鉄筋がむき出しだった。

 地下の倉庫か設備かのようだ。鉄筋を両手で外側に押し広げると、自分が通れるぐらいになる。とりあえず、相手に潰されないように中へと飛び降りた。

 室内の照明は消えていたが、天井の壊れた何箇所かより光が差し込んで薄暗い程度だ。部屋全体が振動し、ほこりが落ちてくる。キライーヤの歩行に伴う地響きだった。

 このままではキライーヤを止められない。街がめちゃくちゃにされる。ちょうど怪獣映画みたいに。

 いい方法とかはないものか。しばらく考えていると、天井の穴からキャメルンがふわりと飛んで入ってきた。

「ここにいたキャルか‼ キライーヤはプリンセスタを探していたキャル」

「探したところで見つけられないと思うけど」

 物の散らばった部屋で小さな虫を一匹探すようなものだ。簡単なことじゃない。

「キャル。だけど……」

 キャメルンが何かを話そうとしたときだった。天井の穴の一つから、誰かがこちらをのぞき込んだ。

 ワニ人間か。そう自分は考えたのだが――キャメルンが叫んだ。

「キライーヤキャル‼」

 おかしくないか。相手は鉄塔と並び立つほどの巨体だ。先程右頬に跳び蹴りをしたときも、気球を狙っているみたいだった。顔だけで天井全体を覆い隠すはず。

 しかし、キャメルンは言い張った。

「絶対にキライーヤキャル! 悪い星の力をびしびし感じるキャル‼」

「でも、サイズが全然違うけど」

「さっき見たキャル。あのキライーヤは大きくなったり小さくなったりできるキャル」

 天井の穴を見上げる。あの影はなくなっていた。

「そんなことある? どっかの宇宙ヒーローじゃないんだよ」

「自分で見るキャルよ。間違いなくキライーヤが縮んでいたキャル」

 振動は知らないうちに収まっていた。跳躍して穴から地上へ。がれきだらけの荒れ果てた中を、従来と同じ控えめなサイズのキライーヤが、きょろきょろと見まわしている。

 ワニ人間の上がった赤オレンジの屋根は、建物ごと壊れて地面に乱れ散らばっていた。それでか、彼は焼けて黒ずんだ横倒しの鉄塔の近くに立っていた。私と目が合う。

「プリンセスタ! 見つけたぜえ。正義の戦士がこそこそと隠れまわってよお」

 こちらを指差しながら、ワニ人間はキライーヤに命じた。

「マックスサイズに変化だ。プリンセスタを踏み潰せ‼」

 キライーヤの黒い身体がどんどんと大きく膨らんでいく。キャメルンの言った通りだ。すぐに遠慮のない特大サイズへと変わった。

 相手が足を上げ、私の周囲は暗くなる。動作がゆっくりだから、かわすのは難しくない。風が巻き起こり、身構えた自分に小石ほどのがれきがぼろぼろと当たった。

 目標はキライーヤでなくワニ人間。しかし、直接に攻撃するのではない。そんなのは変身ヒロインらしくもない卑怯なやり方だ。ワニ人間を攻めたところで、キライーヤをやっつけられる確証はないのだし。

 もしプリンセスタが正しくヒロインでいられるのなら。自分の思いつきも実現しやすい。

「あーよかった。助かった。小さくなるほうだったら、相手が見えないから大変だった」

 横目でワニ人間を見た。彼はどう出る。少し驚いたみたいだったが、ワニ人間はキライーヤに叫んだ。

「キライーヤ! ミニマムサイズにチェンジだ‼ 今度はあっちが探す番だぜえ」

 みるみるキライーヤの身体が縮んでいく。風船がしぼむというよりかは、画像編集ソフトでオブジェクトを縮小するのに近かった。

 すぐに、がれきの中にまぎれてキライーヤがわからなくなる。そう私の目には。

 地下に続く穴のほうを向いた。

「キャメルン! 教えて。キライーヤはどこ?」

 天井の穴からキャメルンがすっと浮かび出てきた。その様子は映像作品の安っぽい特殊効果のようで、現実離れした印象を受ける。ひしゃげて破れたドラム缶も混ざるがれきの山――キャメルンはそこを見つめた。

 キライーヤはぬいぐるみキーホルダーぐらいのサイズになっていた。細菌レベルにまで小さかったら困ったけれど、むだな心配だったか。

 逃げようとする彼の胴体を右手でつかむ。動きのスピードは変わらなくても歩幅が狭まっていたから、すんなりとやれた。本当にぬいぐるみ程度の重さしか感じなかった。

 相手を地面に放り投げる。かわいそうな気持ちは起きなかった。影を寄せ集めたようなぼんやりと黒い身体だからか。そして、思いっきりキライーヤを踏んづけた。

 ワニ人間が騒いだ。

「おい! ずるいぜえ‼ それでも正義の戦士かよ」

 踏みつけだって立派な攻撃の一種。パンチやキックと同じだ。

 ワニ人間を騙したのは卑怯といえるかもしれないが。おろかなほど素直で単純な性格。それを利用させてもらおうと考えたわけだが、見事に成功した。解釈一致だ。

 キライーヤの身体が戻りはじめた。だが、工場を壊し鉄塔を倒すような巨大なサイズでなく、これまで私が戦ってきた他の個体と同じところで止まった。彼は打ち倒された獣みたいに横たわっていた。

「ゴネン……ヤッテヨウヤク……ナノニ……タイカクハ……ドウニモナラナイ……」

 心の声か。ちゃんとキライーヤにも効いている。先程の最小サイズと自分との差は――って、私の体重はどうでもいい。後から調べて知ったことだが、一般的なぬいぐるみキーホルダーは約三〇グラムだという。自分とは一六〇〇倍ほどの開きがある。人間が戦車の下敷きになったイメージだ。

 繰り返すが、ただ大きなだけでも強いのだ。

 右手で横にピースをする。

「チカキラりんっ」

 指先で作ったダイヤの形をキライーヤへ。

「ステラ・ブリリアント・シャワー‼」

 ベビーピンクの光に、キライーヤの黒い身体が吞まれて見えなくなった。

 私達は、舗装も車もフェンスも何もかもが元通りの駐車場にいた。水色の作業服を着た二、三〇代のか細い男性が立っている。

「これからは力仕事じゃなくて頭脳で勝負するぞー」

 彼は工場の建物のほうに歩いていった。ワニ人間がぶつぶつとつぶやく。

「プリンセスタに騙されるなんてよお。難しい世の中だぜえ」

 ワニ人間の去った後、自分も変身から戻った。

 メイクはどうなっている。思い出して、コンパクトを開きミラーで確認してみた。プリンセスタに変身――する前のメイクだった。やっぱりキープミストでも保てなかったか。

 キャメルンが飛んで寄ってきた。タブレットも手にしている。私はたずねた。

「どう? 動画は撮れてる?」

 画面をタッチしながら、キャメルンが答える。

「キャル……どれも全部ないキャル。変身中のも戦いのも消えているキャル」

 街の破壊から人々の記憶まで、あらゆる物事がリセットされるのだ。動画のデータがなくなってもおかしくない。残念な結果だけれど、なんとなく予想はできていた。

 連休が明けてまもなく、大学でSNSを見ていて驚いた。信じられなくて、画面を五度見した。

 プリンセスタの動画がアップロードされている。内容は十数秒、遠くからの撮影でスマホに映った私の姿は指先ほどしかない。先日、工業団地でキライーヤと戦ったときのものだ。ジャンプした私が着地し、炎の中で相手を見上げるところだった。

 フェイクでなくて本物だろう。いくらAIが高性能でも、何の参考もなくプリンセスタのドレスや実際にした動作を生成できるはずがない。もちろん、私本人は誰にもしゃべっていなかった。

 どうして。どうやって撮影できたんだ。

 閲覧(インプレッション)は一〇万に迫ろうとしている。コメントを読むと、映画並みの特殊効果を使った完成度の高いコスプレ撮影だと思われているみたいだった。

 ふと後ろから声をかけられた。

「あーこの動画。私のタイムラインにも流れてきた。出来ヤバいよね」

 ひさぎだった。いつの間にか拡散されて、結構有名になっていたようだ。

 プリンセスタの正体が知られると、関わっている人の記憶すべてが失われるという。以前にキャメルンが話していたことだ。

 家に帰ってから、すぐさまキャメルンに動画を見せて問い詰めた。ところが、キャメルンにも心当たりはなかった。

「わからないキャル。不思議キャル。キャメルンも知りたいキャルね」

「でも、プリンセスタのことを知っているのは自分とキャメルン――まさか、あのワニ人間⁉」

「キャル。たぶん違うキャルよ。悪い星の力は暗く悲しい気持ちで強くなるキャル。この動画は逆キャル。見た人に楽しいとかすごいとかのキラキラをあげているキャル」

「そうすると、私でもないからキャメルンってことになるけど」

 キャメルンはあきれたように返事をした。

「日香里も自分で見て知っているはずキャルよ。撮影した動画はタブレットに一つもなかったキャル」

 あの後にタブレットを使ったとき、私も端末のビデオライブラリに目を通していた。プリンセスタに関連する動画は一つもなかったし、削除済みファイルの中も空っぽだった気がする。さすがに、クラウドサービスを利用してバックアップを取るとかはキャメルンも知らない。

 自分のスマホでは、動画が繰り返し再生されている。何百回と見つめても、さっぱりわからないままだった。

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