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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第二章 ハロー! マイディアフレンド

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第五話

 明宝さんの受けていた三時限目の授業は休講だった。教室へとやって来たら、ホワイトボードにでかでかと、教授の身内に不幸があり本日休講と書かれていたらしい。

 それで、天気もよかったため、四時限目が始まるまでここ屋外で過ごすことにした。ベンチに座りスマホを触っていたら、つい居眠りしてしまったという。

 ガラスの壁がどれだけ割れたのかわからない一号棟は、きれいに復元されていた。ベンチも一基も欠けることなく、等しい間隔で並んでいる。知らないうちに、ワニ人間もいなくなっていた。

 当たり前だが、明宝さんはキライーヤだったときの出来事を覚えていない。寝ていたと思っているのだ。気になるのは、心の声としてつぶやきに表れた彼女の悩みだった。友達が自身に隠し事をしている――たぶん、私のことだよな。

 明宝さんにたずねることはできなかった。自意識過剰じゃないかとか、説明したところでどう納得してもらうんだとか。あとは、秘密を持っている自分が相手と対等な立場でない気もした。交渉でこちらが最初から不利なのに似た感じだ。

 夕食の後、自分の部屋でノートパソコンを開き、大学の授業で出されたレポートを書いていた。キャメルンはベッドの上、タブレットでアニメの配信を観ている。ちなみに『プラチナドリーミングス』ではない。もしそうだったら、レポートはまだ一文も出来ていなかったはずだ。

 レポートを仕上げて、ファイルの保存をした。ふとキャメルンに質問してみる。

「プリンセスタのことを人に話したら、恐ろしいことが起こるんだよね」

「昔からステラヤードで言い伝えられているキャル。プリンセスタの秘密を破ったら大変なことになるキャルって」

「言い伝えって……かみなり様におへそを取られるとか、食べてすぐに寝たら牛になるとか、そういうじゃないの」

 正体を隠し通せる自信はなかった。恐ろしいことの真相が教科書を忘れたり雨に濡れたりする程度なら、明宝さんに話してしまったほうがいいのではないか。そのせいで彼女は悩んでいるのだ。ことわざのたぐいだって、無視して何かがあるのでもないし。

 キャメルンは配信のアニメを一時停止した。

「キャル。この話は怖すぎるからあまりしゃべりたくなかったキャルが。ずっと昔、ステラヤードにもプリンセスタがいたキャル。彼女は自分の妹を喜ばせたくて、つい正体を話してしまったそうキャル。すると、直後に本人も妹も、これまでの記憶すべてをすっかり忘れたキャル。どちらも自分達が姉妹であることさえも何も思い出せないまま、一生を終えたと伝えられるキャル……」

 想像していたよりもずっとヤバかった。『プラチナドリーミングス』のアニメ本編を何も知らない状態でもう一度楽しみたいとか、そんなレベルじゃない。今この自分も消えて、何も知らない別の人格で生きていくかもしれないのだ。キャメルンの言葉が事実なら、自分だけでなく明宝さんも巻き添えなわけで。

 それからずっと考えていた。お風呂に入り寝る前になっても、どうしたらいいかの答えは出ないでいた。スマホで調べてはいるが、期待したものは見つからない。思わず溜め息をついた。

 キャメルンはまだ配信の視聴を続けていた。

「日香里、ひさぎのことキャルか?」

「そう。隠すのも話すのも無理。完全に詰んでいるよ。難しすぎる」

「日香里はひさぎと友達キャル?」

 意外なことをたずねられ、キャメルンのほうを見た。

「だと、私は思っているけど」

「どうしたら友達と呼べるキャル? 二人が出会い顔見知りになって、そうして、いつから友達になれるキャル?」

「何の話? よくわからないけど。でも、明宝さんには授業とかバイトの相談もしてるし、二人でいて楽しいしね。そういうのって友達じゃないかな」

「なら、心配いらないキャルね」

 その意味は。含みのある発言――急に、変身ヒロインをサポートするマスコットっぽい役回りを演じだしたな。たずねようとしたが、もうキャメルンはタブレットの画面をじっと見つめていた。こちらの話は聞いてもらえなさそうだ。

 ひらめいたのは、翌日の三時限目の授業中だった。授業の後、すぐに明宝さんへメッセージを送った。彼女は四時限目も授業の予定だった。自分は三時限目までだったので、図書館で課題をして時間まで過ごした。

 明宝さんとは図書館の前で待ち合わせていた。ここで立っては話せないから、大学内を歩きながらよさそうなところを探した。中庭(ガレリア)や棟内各所に設けられた学生ラウンジでも悪くなかったが、まわりの人達の視線もある。どうせ誰も気にしていないだろうけど。もしかして泣き出したり口論になったり友人関係が終わったり、そんな経験を人前で味わいたくはなかった。

 途中で目に留まった教室のドアを開けた。空き教室だった。促して、明宝さんにも中へと入ってもらう。目立たないようにそっとドアを閉めた。

 この時間帯は、照明をつけなくても室内が明るい。明宝さんは緊張交じりで不思議そうに私のほうを見ている。

 深々と私は頭を下げた。

「ごめんなさい」

 唐突な謝罪に明宝さんは戸惑っていた。

「え、何? どういうこと?」

 謝って済ましたいとか、自分の善人ぶりに満足したいとかでは決してない。本心から彼女に謝りたかったのだ。

「バイトのときは迷惑かけてごめんなさい。その後に、私が変にごまかして隠したせいで、色々と不安にさせたこともごめんなさい。本当に悪いと思ってる」

 正直な気持ちだった。明宝さんは驚いた様子でたずねた。

「なんでそれを……?」

「そのこともだし、バイトのときに抜け出したことも。とある事情があって、どうしても私には教えることができません。でも、危ないことや怪しいことじゃないから、そこは心配しないでほしい」

 明宝さんは言い返してきた。

「いや、何それ? いきなり言われても意味わかんないし。納得できるわけないでしょ」

 彼女の指摘は当然だった。私にもよく理解できる。

「そうだよね――だから、心に思っていることを正直に話す」

 右肩にかけたトートバッグが中から激しく揺れる。キャメルンだ。構わずに話を続けた。

「どうしたら相手を納得させられるか。わかってもらえるか。ここ数日はずっとそればかりを考えていた。でも、大事なのはそこじゃない。気にしなきゃいけなかったのは、相手でなく自分。必要なのは、納得させるとか理解してもらうとかじゃなくて、自分が友達を信じることだったんだね」

 明宝さんをまっすぐに見つめる。

「私は()()()を信じる。こんな自分勝手でおかしなことを言っても、変わらず友達でいてくれる――もしそれが勘違いで、このまま関係が終わったとしても、後悔はない。出会えてうれしかったから。二人で一緒にいて本当に楽しかったから。ずっと友達でいたいって心の底から願っているから」

 目の奥がじんとした。身体が少し熱っぽく感じられる。

 しばらくの間があって、明宝さんはしゃべった。

「告白にしても、重すぎでしょ」

 彼女はこちらに近づいてきた。ラベンダーのベースカラーにオーロラパウダーを重ねたネイルが華やかだった。

「ショッピングとか外食とか、アタシは基本誰かと一緒に行くんだけど。みんなといるのが好きなのもだけどさ、ひとりだとすぐ迷っちゃうんだよね。知らなかったっしょ」

 知らなかったし、突然持ち出された話題に私は困惑した。明宝さんは自分と向かい合う。

「地図とかめっちゃむずいよね。すぐに上か下どっちだよ、ってなるし。モールも入口にフロアマップあるじゃん? あの細かい四角の羅列を読めるとか天才だろ。大学も最初はヤバかった。もう授業のある教室は覚えたけどさ、行かないとこは今でも迷いそう」

 彼女と私との視線が重なった。

「驚いた? アタシにも日香里の知らないことはあるってこと。友達だからって全部を知る必要なんてない。日香里も言ったじゃん。二人で一緒にいて楽しければ友達。じゃあ私達、とっくに友達を超えて大親友でしょ」

 うれしかった。もう少し私はこの気持ちに浸っていたかったけれど、明宝さんはさっさとドアのほうに振り返った。

「だったらオッケー。もう気にすんなっ」

 なんだか彼女の照れ隠しにも見えてかわいかった。そして、私は決心した。

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