闇ギルドのガロ-1
帝都のカフェにある屋外の席で、アレクシオスとアストライアが並んで席に座っている。その目の前には一人の獣人が、優雅にティーカップを啜っている。目に眼帯をしている灰色の犬の獣人の男だ。身なりが整っており、金回りが良さそうに見える。
獣人の名前はガロ。この帝都の闇ギルドを統括するリーダーであるが、ランク6、7の白魔法使いの目の前で堂々とした立ち振る舞いをしている。
アストライアは顔に出そうな嫌悪感を何とか押しとどめて無言になっている。アレクシオスが話を切り出した。
「お初御目にかかります。私の名前は……」
ここまで言い出したあたりでガロがティーカップから口を離して、その口を割り込む。
「知っているよ、アレクシオスさん。貴方は有名人だからね。そんな有名人が、ただの商人でしかない私にどういった用向きですかな?」
表向きではガロは帝都の物流を預かる豪商として立ち振る舞っている。闇ギルドのリーダーであることは確かだが、それとは別に大きな表の顔を持ってもいる。このカフェテラスはそんな彼の持っている物件の1つだ。
ウェイトレスがトレイにケーキを乗せて運んできた。それをガロの目の前に置く。アレクシオスとアストライアの前には何も置かれていない。ティーカップすら置かれていない。ウェイトレスがアレクシオスに目配せをしたが、それをガロが口で遮る。
「大丈夫だ。彼らには必要ない。すぐにお帰りだからね」
そう言って目の前に見せつけるように、ケーキにフォークを突き刺してその口に豪快に運ぶ。ウェイトレスは何も言わずに去っていった。
アストライアが悔しそうにケーキを見つめている。アレクシオスは表情を変えずに再び話を切り出した。
「用件は既にこの場を用意して頂いたクロス様から伝えられているかと思いますが、もう一度お伝えいたしますね」
そう言って手元の鞄から壊れた探知魔道具を取り出してテーブルに置いた。ガロはケーキを食べながらその方位磁石のような魔道具を見つめている。
「この魔道具を修理できる伝手を探しています。珍しい品ではありますが、幅広い物流に関わっている貴方でしたら何かご存じなのではないかと思いまして、こうして相談に伺った次第です」
アレクシオスが出したのは50年前に冒険者ギルドへ送られてきた物の方だ。ガロはケーキを食べ終わり、ティーカップで口をすすいだ。そしてティーカップをテーブルに置いて言う。
「そんなものは知りませんな。申し訳ないが、お役には立ちそうにありませんね」
そう言って席を立とうとするガロの目の前に、アレクシオスがもう1つの壊れた探知魔道具をテーブルにそっと置いた。立とうとしたガロがそれに目を奪われる。
アレクシオスが表情を変えずに口を開く。
「実はもう1つあるんですよ。こちらであれば貴方もご存じではないかと思いまして」
ガロが上げかけた腰を椅子に落とした。
(カレイドの使っていた探知魔道具か……少々面倒だな)
ガロにしてみれば50年前の探知魔道具については知らぬ存ぜぬで通すつもりだった。はるか昔の話だし、実際にガロはこの件には関わっていなかったからだ。
だがカレイドの件に関しては事情が異なる。つい最近起きた事件の上、何といってもカレイドの依頼でペンダントを盗む手配をしたのはガロだったからだ。この事件はガロが思った以上に大きくなってしまい、魔人は国際的な問題となってしまった。仮にこの件を追求されてガロの名前が出ると、ガロであったとしても無傷では済まない可能性がある。
ガロが慎重に口を開く。
「なるほど。これらを修理したいのですか?どういった目的で?」
アレクシオスは目を細めながら微笑を浮かべて答える。
「目的は単純です。探知魔道具が指す者を見つけたい。貴方に迷惑を掛ける目的ではありません。スムーズに話が運べば、の話ですけどね」
ガロが席を立った。残された片目でアレクシオスを見下ろしながら答える。
「少々込み入ったお話になりそうですな。場所を変えましょうか」




