選択-2
人間に序列があるように、悪魔にも序列がある。契約可能なランクがそれだ。
人間が序列に従うように、悪魔も序列に従う。
アクストリウスに憑いていたランク7の悪魔も、オルドから受け取ったランク8の悪魔も、畏怖して目を逸らしていた。
ルシルフの、ランク6の悪魔の、「私の獲物に手を出すな!」という圧の前に目を逸らすしかなかった。
俺はルシルフを見上げる。ルシルフは数多の眼を細めながら、嬉しそうな顔をして説明をし始めた。
驚かれるのも無理はありません。我々悪魔が直接セールスに来ることはレアケースです。しかし、昨今はそうも言ってはいられません。帝国がこの地域の統一に近づき、黒魔法使いがこれでもかというくらい粛清、弾圧されています。これは契約者を必要とする我々悪魔にとっても困りごとです。
おまけに私のランクは6。この辺りになると、そもそも契約出来る者自体が少なくなります。何といっても、最後に契約したのが魔王様その人だったんですから!
50年!私は新規契約者がいませんでした!魔王様その人も亡くなってしまい、更新契約すらありません。
ガッデーム!!!!
そこで私は考えました。そもそも顧客が来るのを待つ、と言う今までの悪魔の古い商風習が間違っている。時代は変わったのだ!私たち自らが足を運び、契約者を見つけるべきなのでは!
その信念に基づき、私は探したのです。そして、とうとう見つけたのです!
そう感情を込めてまくし立てたルシルフが俺を指差して、締めの言葉を叫んだ。
「この上ない黒魔法の才能をお持ちである、貴方様を!さあ、契約しましょう!ランク6!輝かしい未来が、貴方様を待っています!」
未だかつて見たことが無いハイテンションな悪魔を見て、俺は無言になった。
そんな俺を見て、ルシルフが真顔に戻しながら話し始める。
「あれ?上位の悪魔をお探しでしたよね?ランク6では不服でしたか?」
俺は少し焦りながら答える。
「いや、そうなんだけど、何というか……突然だからびっくりして……」
実際驚いている。ルシルフが悪魔で、しかもランク6で、更に今から契約という超スピードで話がすっ飛んできたのだ。これで驚くなと言われても困る。
俺はあった時からのルシルフを思い出しながら話し始める。
Q:「城の他の人たちはルシルフが悪魔だって知っていたの?」
A:「知りませんよ。そもそも彼らには私の姿を見せておりません。私、瞳は多いですが、貴方様以外はアウトオブ眼中でしたので!」
Q:「え?アクストリウスにも見えていなかったの?」
A:「はい、あの方は既に先がありませんでした。死に場所を探すためにこの戦いを引き起こしたのです。すぐに死ぬ人と新規契約するよりも、先の見込みのある人を優先するのは当然です!」
Q:「アクストリウスが死ぬ気だった?」
A:「そうですよ。目にもの見せてやるとは仰っていましたが、帝国を倒すとは一度も言っておりません。実際、無理だと思っていたでしょう!」
Q:「アクストリウスには勝つ気が無かった?」
A:「勝つ気があるかないかで言えば、あったでしょう。でも実際に勝てる見込みがあるとは思っていなかったはずです。50年前の魔王様の戦いを見ていた私から見ても勝てるとは思えませんでした。優秀なあの方であれば、なおさらでしょう。貴方の部下であるカレイドだって勝てるとは思っていません。なので絶賛降伏進行中です!」
Q:「カレイドも諦めているの?」
A:「そもそもあの方は、戦後に生まれた若者です。かつての英雄である魔王様とその盟友であったアクストリウス様に、自分の今の不満を勝手に投影した、大変有能だけど少し夢見がちな若者です。英雄譚で聞いた魔王軍と黒魔法の実態を自分の目で見て、自分の常識とのギャップに気がついたのです。それにあの方はアクストリウス様に仕えていたのであって、貴方様に仕えていたわけではないですからね!」
既に絶望していた俺の表情は、更なる絶望の表情に変わっていく。そんな顔を見て、ルシルフが不思議そうに言う。
「流石にそれくらい分かっておられたと思ったのですが、まさか知らなかったとは思いませんでした。無知は蛮勇と言いますか。とはいえ、それでも戦おうという姿勢はお見事だとは思いますよ!」
ルシルフが大して役に立たないフォローをしてくれた。




