選択-1
「あの……本当に良かったんですか?」
ベルフェがカレイドに後ろめたそうに言う。カレイドはイラついたような顔をしながらベルフェの方を見て答える。
「だったらお前は死ぬまで戦う気なのか?あんな黒魔法使いと魔物と一緒に?俺は御免だね」
吐き捨てるように言ったカレイドに、ベルフェが悲しそうな顔をして言う。
「だからと言って、あんな罠にかけるようなことをしなくても……」
それを聞いたカレイドが心外と言わんばかりにベルフェに叫ぶ。
「脱出路の情報が漏れたのは俺のせいじゃない!俺だって最近になって知ったことだ。同じタイミングで向こうに漏れていたんだ。俺のせいじゃない!それにあの人が侵入者を返り討ちに出来れば何とかなる可能性はあった!でも出来なかった!だったら仕方がないだろう!」
叫び疲れたカレイドが全面降伏の手続きをするため、作戦指令室へ大股に歩いて行く。それに続いているベルフェが、ふと気になったことをカレイドに聞く。
「そういえばルシルフって誰なのかご存じですか?あの人がその名前の誰かに頼み事をしていたんですが、そんな人ってこの城にいましたっけ?」
カレイドは振り返らずに、詰まらなさそうに答える。
「知らん。あの人はいつも一人でブツブツ喋っていたから、その一人かなんかだろう?そんなこと、どうでもいいだろうが!」
取り付く島もないカレイドに、ベルフェはもう何も言わずについて行った。
大広間に爆裂魔法でついた火が回り始めた。マリアが目の前の男を見下ろす。
(この男をどうするべきか?ここでは殺しきれない。かと言って放置するには危険すぎる!)
単体ではマリアの相手にまるでならない黒魔法使い。だが死なないランク8の黒魔法使いとなると話は変わってくる。
(封印魔法が使えればな……もしかしてミリア様はこのことをご存じだったのだろうか?)
大広間に煙が立ち込めて来た。時間が無いと判断したマリアは決断を口にする。
「仕方がないわ。適当に殺しながら、外まで連れて行って考えよう!」
俺はうつ伏せになりながら、絶望の眼差しでマリアを見上げていた。
(俺が死なないことがバレた。それも多分、白魔法使い全員にバレた。最悪だ、最悪だ、最悪だ、最悪だ……)
俺は今までに起きたことを思い出す。
生きながら保存食にされ、狩の練習台に使われ、実験体にされ、封印された……地獄!
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!
俺は絶望の記憶ではち切れそうな頭を抱える。マリアがそんな俺に向かって歩みを進めようとした、次の瞬間だった。
ブチィン
天井で金属の何かが弾き飛ぶような大きな音がした。上を見ると、天井のシャンデリアが落下し始めていた。爆裂魔法の衝撃で鎖が切れかけていたようだ。
俺はそのシャンデリアを見つめる。見つめ続けた。
そして、おかしなことに気がついた。
いつまで経っても、落ちてこない。
俺はマリアの方を見つめる。マリアは足を踏み出したまま、動かない。
俺は周りを見つめる。あちらこちらで炎が立ち上がっているが、どの炎も揺らいでない。
何も動いていない。
まるで、時間が止まったかのように……
何も動いていない世界の中で、何かが歩いてくる気配がする。それは俺とシャンデリアの間まで歩いてくると、俺にその顔を向けた。
「ルシルフ!?なんで……ここに?」
フードを目深にかぶっている魔族の少女ルシルフ。俺がこの城に来た時、最初に会った少女だ。
その少女は目深にかぶったそのフードを背中に跳ね上げた。
魔族を思わせる青い肌。フードに隠された髪は深い紺色だった。
青い顔の中央にある双眸が開いた。瞳の色は黄土色。だが、瞳は二つだけでない。その額に、頬に、上顎に、無数の大小の亀裂が入り、瞳が開き始めた。
無数の黄色い瞳が目の前で倒れ込んでいる俺を見下ろす。
ルシルフが初めて俺に会った時のように、丁寧なお辞儀をする。そして笑顔で話し始めた。
「この度はご健闘、誠にお疲れさまでした。ここまで戦い抜かれた貴方様に、ビッグチャンスをお持ちしました!」
そして笑顔で続ける。
「改めて、自己紹介させて頂きます。ルシルフは私の仮の名前です。私は悪魔。契約可能なランクは……」
そう言って、その六本指の右手を俺にかざして宣言する。
「ランク6です!」




