残された者たち
アクストリウスの絶命と共に、エアリスと彼の騎乗していたマンティコアの召喚が解けていく。だがまだ命令の解けていない、飛び込んできたマンティコアとキマイラがアレクシオスの後方から襲い掛かる。
アレクシオスが剣を手放して体勢を立て直したのと同時に、横から飛んできた鞭がマンティコアとキマイラを打ち据えた。千光の切っ先が二体を打ち砕いていく。動きの止まった二体にアレクシオスが解呪を放った。解呪された二体も脊柱に戻って行く。戻った脊柱は地面に落ちる前に、鞭によって粉々に砕かれた。
アレクシオスが深々とため息をついてから、鞭の放たれた方に顔を向けて言う。
「終わりましたね。マリア様!」
浄化魔法で酸霧を完全に払ったマリアが、その言葉を聞いて少し残念そうに答える。
「止めを貴方に持っていかれたのが凄く残念!」
そう言うと、スタスタと倒れているアクストリウスに向かって行った。
アクストリウスはオリハルコンの剣に胸を貫かれて仰向けに倒れていた。その姿を見てマリアが暫くの間無言になっていた。
マリアの胸に、ここへ来るまでの記憶が浮かび上がっていく。
最初は舞踏会での対峙。そこで幼馴染であったクルスを打ち取られた。
次は帝国と王国との戦い。師であるレオルドンとアクストリウスの対決。
そして魔王軍討伐後の再戦。そこでレオルドンがアクストリウスの目と半身と相打つようにその命を落とした。
そして今回の新生魔王軍での対決。
マリアが天を仰ぐ。その涙がこぼれぬ様に。そしてローブを翻して出口を向いた。
「これで新生魔王軍の拠点はあと一つ。さっさと終わらせるわよ!」
その声の震えが悟られぬように、声を張り上げて言った。
それを聞いたアレクシオスが静かに笑う。そしてアクストリウスに突き刺さった剣を抜いて、血を払って鞘に納めた。
マリアが砦から出て行く。
アレクシオスは倒れたアクストリウスに向かい、頭を下げながら小声で言う。
「お見事でした!」
そしてマリアに追いつくために小走りをしながら、アレクシオスもその場を後にした。
「アクストリウスがやられた!」
旧魔王城で留守を預かっていた俺に、アクストリウスの訃報を知らせる伝書鳩の手紙が届いた。
それを聞いたカレイドが驚愕の表情を浮かべる。
「まさか!主がやられたのですか!?」
70年無敗だった高名な黒魔法使いの敗北。その報は思った以上に衝撃的だった。
カレイドの隣にいたベルフェも泡を食ったような顔をしている。カレイドが俺に悲壮な顔を向けて言う。
「それで、どうしますか?このまま戦い続けますか?」
それを聞いて俺ははっとした。
(もうアクストリウスはいない。戦う理由は無いのか?)
俺の中のドナルドが言う。
「どうする?諦めて降参する?」
俺の中のモリガンが言う。
「私を殺したり、舞踏会で事件を起こしたアンタが降参したからって無事で済むの?」
俺の中のミストが言う。
「降参して逃げたとして、逃げる先とかあるのかな?」
俺の中のオルドが言う。
「帝国と闇ギルド、その上魔族にまで喧嘩売ったからな。頭おかしいんじゃねーか?」
俺の中のファンズが言う。
「何をやっても帝国は付きまとってくる。ムカつくな、アイツら」
俺の中のアクストリウスが言う。
「こんなことに巻き込んでしまって、申し訳ありません!」
悩んでいる俺の横から、ルシルフが俺を見上げながら呆れたように訴える。
「ここで諦めるんですか?これぐらいで諦めるなら、最初からやらないで下さいよ」
俺はルシルフを見下ろす。ルシルフが俺を見上げながら続ける。
「亡くなったアクストリウス様の分まで頑張らねば!我々の覚悟は出来ています。最後までお付き合いしますよ!」
それを聞いて俺の心は決まった。
「よし!最後まで戦おう!」
カレイドとベルフェが廊下を並びながら歩いている。
「本当に最後まで戦うんですか?」
ベルフェの震えるような声に、カレイドが答える。
「あの人はそう言っているな!」
カレイドは眉間にシワを浮かべながら大股に歩いて行く。
カレイドたちが城の作戦指令室に入っていった。そこで現在の状況を確認していく。
「この城は包囲されています。アクストリウス様を討った敵軍がこちらに向かっているようです。恐らく合流したら全軍で攻め込んでくると思われます!」
ベルフェが確認した情報をまとめて、悲痛な声で叫ぶように言った。
「そうか……」
それを聞いたカレイドの額に、玉のような幾筋もの汗が軌跡を描いて流れ落ちていった。




