決戦
帝国軍が新生魔王軍を押しつぶしていく。数でも質でも劣る新生魔王軍も抵抗はするが、まるで歯が立たない。ちりぢりに散って逃げて行く新生魔王軍を、帝国に協力している現魔族軍が刈り取っていく。
戦の趨勢は既に明らかだった。
マリアとアレクシオスが歩いて城の奥に進んでいく。城主であった魔族の貴族は既に身柄を抑えられていた。残るのは新生魔王軍を率いる首謀者の男だ。
マリア達は城の大広間に辿り着いた。吹き抜けの天井に、左右に分かれた弧を描く階段。その上に男はいた。
マリアがその男を見上げながら声を上げて叫ぶ。
「やっと見つけたわ。アクストリウス!私の師と友、そして多くの仲間たちの敵!今日こそ、その身で晴らさせてもらう!」
アレクシオスがアクストリウスと呼ばれた男を見上げる。
(あれが高名な黒魔法使い、アクストリウス!)
長い金髪に金刺繍の施されたスーツを身に纏い、その目には包帯が巻かれている。そして赤髪の女性に抱きしめられながら、大きな獣に跨っていた。その大きな獣はマンティコア。人のような顔に獅子の胴体、サソリのような毒の尾を持つ魔獣。
アレクシオスが小声でマリアに呟く。
「どうやら魔獣は召喚体のようです。あの女性もそうでしょう」
マリアも小声で呟く。
「あの女も黒魔法使いだったはず。確かランク8。多重召喚を使うなら、もう数体の召喚体が隠れ潜んでいる可能性があるわ」
長年にわたる激戦で、アクストリウスの手札は概ね割れている。二人はそれらを元に作戦を立てている。
アクストリウスが二人の白魔法使いを見下ろす。
「やれやれ、また君か。確かマリア……だったっけな?本当にしつこいね。その辺も師匠のレオルドン譲りかな?」
アクストリウスが挑発するようにマリアに軽口をたたく。マリアは腸が煮えくり返る程に激怒しているが、それは表には一切出さない。
アクストリウスがアレクシオスに目を向けていう。
「そちらは新顔だね。多分、アレクシオス君かな?有名人だからね。人相書だけは知っているよ」
アレクシオスは少しだけ笑いながら答える。
「貴方ほど有名ではありませんよ。今から貴方を倒せば、有名になるかもしれませんがね」
マリアが武装魔法で鞭を作り出した。アレクシオスもまた武装魔法で大剣を作り出す。
アクストリウスが二人に向けて手をかざした。
戦闘の火ぶたは、アクストリウス放った爆裂魔法が切った。
マリアとアレクシオスが防壁魔法で防御をしながら左右に跳躍して爆裂魔法を回避していく。
マンティコアに跨ったアクストリウスが先回りするように跳躍したマリアに向かって行く。そのアクストリウスに向けて、アレクシオスが光弾を連続で放っていく。
光弾が当たる寸前に、アクストリウスがマンティコアに蹴りを入れて跳躍する。マリアがそれを追撃するように鞭をしならせる。
アクストリウスのマンティコアが大広間の壁を走り、鞭の切っ先を回避していく。外れた鞭が壁にあるガラスや燭台を砕いていく。
アレクシオスが光弾を放つためにその手をアクストリウスに向ける。アクストリウスはアレクシオスに向けて鞭で砕けたガラスを加速魔法で撃つ。アレクシオスは光弾を止めて防壁魔法を展開して撃たれたガラスを防いだ。その間にもアクストリウスをマリアの鞭が襲う。
「グッ!」
鞭を数発喰らったアクストリウスは流石に苦痛の声を漏らした。
(ランク7の白魔法使いを二人相手にするのは流石に骨だな……)
黒魔法使いは迫撃においては白魔法使いに分が悪い。黒魔法使いでは防御と回復に勝る白魔法使いを倒し切れないからだ。
アクストリウスは白魔法使いの防御と回復を貫いて一撃で仕留めるために青剣を編み出し、その通説を打ち破った。
対する白魔法使いたちも青剣を攻略するために試行錯誤した。その回答の1つがレオルドンによって考案された武装魔法の鞭。必殺の青剣の届かない距離から一方的に攻撃することでアクストリウスの無力化を試みた。
アクストリウスもまたそれへの対処を考案することになる。
アクストリウスがマリアに向けてその手をかざした。それを見たアレクシオスがマリアに叫ぶ。
「来ます!」
アクストリウスがマリアに向けて放った魔法は、
酸霧
コスト:
寿命(5年くらい)
効果:
強酸の霧を発生させる。
マリアを覆うように深紅色の霧が発生し、放った鞭がその深紅色の強酸の霧の中で朽ちていく。マリアは鞭を捨てて球状の防壁魔法を展開した。
マリアが防壁魔法の中で武装魔法を使い二振りの剣を作り出した。
(師であるレオルドンは、この酸霧を突っ切って来たアクストリウスと刺し違えるようにしてその命を落とした。だがアクストリウスは一命をとりとめた。今度こそ刺し違えてでも、私が仕留めてやる!)
マリアが霧の揺らぎも見逃さないように凝視し、迎撃の体勢を取る。だがアクストリウスは突っ込んでいかない。アクストリウスの目線はマリアでなく、アレクシオスに向いていた。
突如として大広間の窓から二体の獣が飛び込んできた。一体はマンティコア。もう一体はキマイラ。その二体の巨獣が左右に分かれて、アレクシオスの後方から襲い掛かる。
両手に青剣を作り出したアクストリウスが乗っているマンティコアに蹴りを入れ、二体の獣と同時にアレクシオスに突っ込んでいく。
アレクシオスが一瞬で思考する。
跳躍して躱す?駄目だ。躱しても追撃の対処が出来ない。
マンティコアとキマイラを解呪する?駄目だ両手が塞がってしまう。青剣が防げない。
覚悟を決めたアレクシオスが両手で大剣を持ち、強化魔法を使って大きく跳躍すると、そのまま矢のようにアクストリウスに突っ込んでいった。
突っ込んできたアレクシオスの大剣に、アクストリウスが左手の青剣で大剣を薙ぎ払う。青剣に触れた亜金属の大剣が溶け落ちていく。アクストリウスがアレクシオスの胴体に袈裟懸けするように右手の青剣を振り下ろした。
(これで決まる!)
確信した必殺の一撃。だがそれはなぜか届かなかった。
アクストリウスを抱きかかえているエアリスが、アクストリウスの胸に視線を移す。そこには切り落としたはずの大剣から生えている、もう一本の剣が突き刺さっていた。
大剣に生えている剣。それはかつての英雄アレクスが使ったとされる、オリハルコンで出来た伝説の剣。アレクシオスはその剣に、自身の武装魔法で作り出した大剣を鞘の如く纏わせていたのだ。
アレクシオスがアクストリウスの跨っているマンティコアを踏み台にして、更に踏み込んで剣を深々と突き刺す。
その剣はアクストリウスを、彼を抱きかかえていたエアリスごと串刺しにした。




