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千光

「魔族との話はついた。我々は彼らと協力して反乱軍の鎮圧に当たります」

 マリアが陣幕で帝国の将軍とアレクシオス、メンデルス達に向けて話し始めた。

「連中の拠点は既に割れているわ。旧魔王城跡地と現貴族の城。そこを潰せば終わり。簡単なものね」

 サラッと言うマリアに将軍が突っ込む。

「とはいえ新生魔王軍には魔物も黒魔法使いもいるようです。油断は禁物かと」

 それを聞いたマリアが余裕そうに答える。

「確かに油断は禁物。でも連中の規模はかつての魔王軍に比べたら羽虫のような物。魔王軍に勝った私たちが遅れを取る理由が無いわね」

 事実そうだろう。かつての魔王軍は魔族の国を統治して、その国力に比例するような規模の軍勢を持って帝国と対峙していた。その魔族の国の反乱軍でしかない彼らの力は、旧魔王軍に比べればとても小さなものだ。

 アレクシオスがマリア達に質問をする。

「それでは、どうやって攻めましょうか?」

 アレクシオスの疑問に将軍が答える。

「現状では旧魔王城跡地に多くの軍勢が集まっているようです。魔王城跡地を包囲しつつ、先に貴族の城を落としてから、戦力を集中させて旧魔王城に向かうのが良いのではないでしょうか?」

 それを聞いたメンデルスが考え込む素振りを見せながら答える。

「アクストリウスと封印されていた黒魔法使い。それぞれがどちらかにいるようです。我々はどういう配置につきましょうか?」

 それを聞いたマリアが獲物を狙うような目つきをしながら、ペロリとその舌で唇を舐めた。その老いた体から漲る殺気に、周りの者の背筋に冷や汗が流れる。

「私とアレクシオスでさっさと貴族の城を落としましょう。メンデルスとアストライアを含む残りの白魔法使いは魔王城跡地を包囲。後で合流した私たちと攻め込んで殲滅する。これで行きましょう」

 メンデルスとアストライアと呼ばれた金髪で豊満な女白魔法使いが承諾したように首を縦に振る。


 会議が終了し、各人が準備のために散っていった。陣幕に残った将軍が先ほどの会話の内容を反芻する。


 我々が遅れを取る理由が無い、か。

 確かに50年前に比べて我々帝国軍は更に強大になった。軍の質も量も増強された。白魔法使いだってランク6こそいないものの、ランク7の数は見違えるほどに多くなった。この局地戦にも関わらず、ランク7の白魔法使いであるマリア、アレクシオス、アストライアの三名を投入できるほどに。

 仮に50年前の魔王軍が相手であろうと、今の帝国軍が遅れを取ることなど考えられない。

 確かに、負ける理由はないだろうな……


 こうして帝国の鎮圧作戦が始まった。

 


 貴族の城に向かった帝国軍が、城の新生魔王軍と衝突した。

 城から撃って出た魔族の兵士が帝国軍に向かって行く。その帝国軍の中から一人の白魔法使いのローブを羽織った老女が歩みを進め出した。その足取りはその年齢からは考えられないほどにしっかりとしている。

 老女は不敵な顔をしながら武装魔法で長い鞭を作り出した。

 その長い亜金属の鞭が日の光に照らされて煌めく。そして次の瞬間、その目で追えない鞭の切っ先が新生魔王軍を襲い始めた。

 老女は素早く巧みにその鞭を操り、強化魔法で強化した全身の力を鞭に乗せて、その切っ先に移していく。切っ先の触れた打点の先に全力積が移り、刹那的な破壊力をもたらす。それは兵士の持っている槍がへし折り、鎧を叩き潰し、兜を弾き飛ばしていく。打ち据えられた者の肉が割け、骨が砕け、痛みに悶絶して地面に転がっていく。

 打ち据えた鞭は即手元に戻し、次々に次弾を放ち標的を打ちのめしていく。動作があまりにも素早過ぎて、見ている者は老女の周りに旋風が起きているようにしか見えない。

 打たれている方は、何も分からない。ただただ、何もわからずに何かに打ち据えられて絶命していく。時折日の光に煌めく亜金属の切っ先が、見ている者の目に残像のように残っていく。

 その場には、煌めく残像と飛び散る血しぶきが撒き散っていた。

 

 新生魔王軍の前衛がたまらず崩れた。

「総員、突撃せよ!」

 帝国軍の将軍がその隙間に軍を割り入れていく。


 老女が息も切らさずに鞭を戻した。アレクシオスが老女に賞賛を送る。

「流石はマリア様。千光の名は未だ健在ですね!」

 その賞賛に、フンと言いながらも満更でもなさそうな表情をしている。

 

 帝国の老兵、マリア。ランク7。その二つ名は、

「千光」


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