属国
ある日、魔族の国にある大寺院への襲撃が発生した。この大寺院は古くからあるものだったのだが、帝国に敗北してからは改装されて、帝国の神をまつるための寺院へと変貌していた。
帝国の魔族支配の象徴とも言える大寺院への襲撃。襲撃者はその寺院へメッセージを残していた。
「魔王軍が帰って来た!」
新生魔王軍の反抗が始まった。
魔族の国の各地で寺院への襲撃が発生している。
「新生魔王軍だと!?おのれ!50年前の亡霊どもが、今さら何をしてくれるんだ!」
現在の魔族の王、ヴォルガは王座で部下からの報告を聞きながら頭を抱えていた。彼は帝国の後押しによって魔族の王の座についた男だ。新生魔王軍のこの行動は、彼にとってあまりにも都合が悪い。
魔族の国に住む帝国の市民からの抗議と、他の魔族からの突き上げを同時に喰らっており、一刻も早い対処が望まれている。
ヴォルガが近くにいた将軍に声をかける。
「それで、新生魔王軍への対処はどうなっているんだ?」
それを聞いた将軍が言いづらそうに答える。
「我が軍も襲撃に対して対応に当たっているのですが、現状では太刀打ち出来ていません。相手はかつての魔王軍のような魔物と魔族との混成部隊です。50年前に解体された我が軍では……」
そう言って言葉を濁す将軍から、ヴォルガが忌々しそうに目を逸らす。
(現状の軍隊では対処が出来ない。だが対処しなければ不味い。これでは……)
悩んでいるヴォルガに、別の部下からの報告が入った。
「帝国からの使者が訪れました。ヴォルガ様との面会を要望しています」
ヴォルガはため息をついてその要望に了解する。そしてその王座を後にした。
豪華な面会室で、ヴォルガが帝国の二人の使者と机を挟んで向かい合っている。
使者である老女が話し始めた。
「私は白魔法使いのマリア。こちらは同じく白魔法使いのアレクシオス。この度は大変な事態に見舞われたようで、御愁傷様です」
ヴォルガは二人を知っている。両者とも高名な白魔法使いだからだ。
「わざわざご足労頂き、誠に感謝しております。反乱軍には我が軍で鎮圧に向かっております。近日中に成果が出せるでしょう」
ヴォルガが牽制するように先んじて言葉を置く。それを聞いたマリアがニヤリと笑って、ヴォルガの方を見て言う。
「本当にあなた方だけで出来るのですか?我々の調査によると、あなた方の軍ではまるで歯が立っていない。これではどちらが正規兵なのか分かりませんね」
ヴォルガは何とか表情を変えずに、ニヤリとしているマリアの顔を見つめた。
隣のアレクシオスが鞄から書類を取り出して、机の上に並べ始める。そこには反乱軍の襲撃場所と、それに対する軍隊の対応状況。そしてその戦闘経緯が克明に記されていた。
(私に知らされている物よりも詳細な情報が記されている……)
どういった経路で帝国に伝えられているのかは、ヴォルガであっても分からない。相当数の帝国の密偵がこの国に入り込んでいる。
自身の国が属国であるという事を、目の前の書類で突きつけられているかのようだった。
何も言えないヴォルガに、マリアが続けていく。
「既に我が国の市民にも被害が出ています。帝国としてもこれ以上は看過出来ません。ですがあなた方では対処が出来ないようです。仕方がありませんので、我々帝国軍が協力するしかないでしょう。皇帝はそう判断されました。とはいえ、この国はあなた方の国。決定権は貴方にあります。ご決断いただけないでしょうか?」
ヴォルガは机の上の書類に目を向けた。屈辱の表情を隠しきれる自信が無かったからだ。
(決定権だと!?そんなものが一体、どこにあるというのだ!?)
ヴォルガは表情を隠したその顔をマリアに向け、何とか言葉を捻り出す。
「そうですね。あなた方のお力をお借りするしかないようです。ご協力に感謝いたします!」
ヴォルガは王座への通路を戻りながら、先ほどの面会の内容を思い出す。
(連中は新生魔王軍の軍の内訳も、その拠点の情報も持っていた。恐らくかなり前からその情報を集めていたのだろう)
その情報の収集には自分の国の機関も関わっていたのかもしれない。だがその情報は王であるヴォルガには上がっていなかった。
(新生魔王軍の討伐を口実に帝国軍を駐留させる。そのために今まで連中を泳がせていたのだ。何が新生魔王軍だ!体よく利用されやがって……)
ヴォルガが苦々しく思いながらも、思うだけしか出来ない。そう思っているヴォルガもまた、利用されるしかないという事を分かっている。
ヴォルガは自分の王座に戻った。
その仮初の王座へと……




