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封印解除-2

「50年経ったのか……長かったのか、短かったのか分からんな」

 魔王ルシフェルは立て掛けた片膝に右腕を掛けながら、光霧の照らす部屋を眺めてぼんやりと呟いた。呟きながら後ろに回した左腕の指先で、試すように加速魔法を弾くように放つが、何も起こらない。

(恐らく黒魔法の契約更新が切れているな。今は黒魔法が使えない……)

 ルシフェルは現時点で自分が弱者であることを知る。だがそんなことはおくびにも出さない。ルシフェルが目の前の青年に、不敵な眼差しを向けて尋ねる。

「それで、何だ。アレクスなんとかだっけな?なんで、俺の封印を解いた」

 ルシフェルは尋ねながらも、頭の中で可能性を考慮し続ける。だが、流石に検討がつかない。

 アレクシオスが片膝を突きながら、目の前のルシフェルを見つめている。左手は常に床に置いた剣へ向けられており、油断は微塵もしていない。アレクシオスが問いに答える。

「貴方に協力して頂きたいことがあるからです」

 それだけを答えると、アレクシオスがルシフェルを見つめた。

 ルシフェルもアレクシオスを見つめる。

 

 二人は暫くの間、無言だった。

 

 ルシフェルが先に口を切る。

「俺の国は今、どうなっている?」

 俺の国とは、魔族の国であるヴォルガルドを指している。50年前に「魔王」として彼が君臨していた国だ。ルシフェルが考えるに、それ以外の接点が見つからない。

 アレクシオスが真顔になって、魔王であった男の問いに答える。

「我々の友好国は今、巨人族に侵入されています」

 ルシフェルが忌々しいことを聞いたような顔になった。丘のような巨体を誇り、絶大な腕力で他種族を圧倒する巨人族。北から度々侵入をこころみる巨人族は、魔族にとって帝国以上の宿敵であった。

 そしてかつて自らが支配していた国が、今では帝国にとっての「友好国」であることを知る。

 プライドを逆なでされたルシフェルが眉をひそめ、目頭を歪めながら、口に笑みを浮かべて言う。

「それで俺になんとかしろと?冗談だろ?」

 アレクシオスが真顔で続ける。

「冗談ではありません。今回の巨人族の侵入は、ただの襲撃ではありません。完全な移住を目的とした侵入です。このままではヴォルガルドの北の国境が塗り替えられるでしょう。最悪は、国そのものが無くなる可能性すらあります」

 アレクシオスのただならぬ回答を聞き、ルシフェルが頭の中をフル回転させる。彼には一つ心当たりがあった。ルシフェルが呟くように言う。

「まさか、ドラゴンが南下してきているのか?」

 巨人族の住む北の更に北、最北には巨人族すら脅かすドラゴン達が巣くっている。アレクシオスが疑問に答える。

「そのまさかのようです。なぜドラゴンが南下してきているのか、それはまだ分かりません」

 ルシフェルが表情を変えぬアレクシオスの顔を見つめる。ルシフェルにも現在の状況は分かりつつあるが、それが魔王である自分を解放しなければならないことなのか、と言う疑問が拭えない。

 ルシフェルが表情を変えぬアレクシオスを覗き込むようにしながら尋ねる。

「本当に、ドラゴンが南下してきてる理由は分からないのか?」

 アレクシオスはなおも表情を変えず、答える。

「確証がありません」

 ルシフェルが面倒そうな顔をして言う。

「確証は無くていい。お前が思っていることを言え!」

 アレクシオスが少しだけ呼吸を整えて、答える。

「ある黒魔法使いにドラゴン達が追われている、もしくは支配されていると考えています」

 ルシフェルの眉がピクリと動いた。彼はランク6の黒魔法使いだ。その彼をもってしても、ドラゴンを追い払ったり支配したりすることは困難、というか無理だと理解している。

 かつて最強の黒魔法使いとして名をはせた「魔王」ですら無理であることを、やってのけた黒魔法使いがいるかもしれない。それがルシフェルのプライドを揺さぶった。

 ルシフェルがニヤリとした笑みを浮かべながら、真剣な面持ちのアレクシオスに尋ねる。

「どんなヤツなんだ、そいつは?お前は知っているのだろう?」

 アレクシオスは表情を変えない。だが喰いついたな、と内心で独り言ちる。アレクシオスが整った唇を開き、その者の名前を口にする。

「ランク4の黒魔法使いです。我々の間では、魔神と呼ばれています」

 

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