封印解除-1
一人の青年がランタンを持って地下へ向かう階段を静かに降りていく。腰に剣を差し、白いローブを纏った長身の青年。濃い黒髪をしているが、その髪の付け根には銀色が混じっている。
彼の名前はアレクシオス。皇帝から直々に魔神討伐を命じられた、帝国の筆頭白魔法使いである。
アレクシオスが階段を降りた先には、厳重にいくつもの鍵が掛けられた、大きな鉄の扉が立ちふさがっていた。アレクシオスが懐から鍵の束を取り出し、その鍵を一つ一つ開錠していく。全ての鍵を開けた後で、扉についているボタンを決められた手順で押した。
カタリという音と共に扉についていた金属板が反転し、手の形をした窪みが現われた。アレクシオスがその窪みに手を合わせて、解呪の魔法をその手から放つ。
鈍い音を立てながら、重い扉がゆっくりと開き始めた。この先は禁呪物が保管されている帝国の宝物庫。限られた者しか立ち入ることが許されない、禁忌の空間。
アレクシオスが扉を抜けて、その先へと歩みを進める。
地下にある最奥の部屋に、アレクシオスが到達した。
彼の前には腰ほどの高さの高台があり、その上にはペンダントが置かれている。青く輝く宝石がはめ込まれた、銀色のペンダント。
アレクシオスがペンダントを手に取った。その宝石はランタンの灯りを反射して、青白く輝く。
アレクシオスはペンダントを地面に置き、離れた場所にランタンを置いた。そして手のひらをかざし、光霧魔法を展開する。辺り一帯に光の粒子が緩やかに広がり、部屋全体を照らし出し始める。
アレクシオスが腰の剣を抜いた。祖父である英雄アレクスの形見である、鈍く銀色に輝く聖剣エクスクルス。アレクシオスが立ち上がり、両手で持った剣先を、ペンダントの青く輝く宝石へと当てる。
アレクシオスの首筋に汗が流れている。彼はこの宝石に何者が封印されているのかを知っている。その者の恐ろしさも。
アレクシオスが一度剣を引き、大きく深呼吸をした。
(本当に、やるのか?)
アレクシオスが自問自答する。彼はそうする必要があると冷静に判断した上で、この場所に来ている。それでもその判断が正しいのか、今でも不安が拭えない。
アレクシオスが再びペンダントを見つめる。意を決したアレクシオスが、再び剣先をペンダントの宝石に当てる。
アレクシオスが口を開かずに、鼻だけで深く深呼吸した。閉ざされた唇が絞られるように縮まっていく。
アレクシオスが剣に両手で力を込める。青い宝石に亀裂が走り、小さな音を立てて砕けた。
宝石からモクモクと白い煙が出始めた。煙は光霧の粒子と混じり、より白い煙幕となり辺りを包む。アレクシオスは剣を両手で持ちながら、何も見逃すまいと感覚強化魔法で全集中しながら煙の先を見つめる。煙の中から、うめき声を上げる人影が現れた。
「ウーガァ、ハアァッ!」
現れたのは尖った耳を持つ、青い肌をした男。魔族だ。
魔族の男は苦しそうにあえぎながら、必死で呼吸を試みる。アレクシオスが男の様子を見て気がついた。
(肺をやられているのか?)
男の左肩から右腰にかけて、深く太刀を入れられたかのような生々しい切り傷が残っている。そこから呼吸に合わせて空気の漏れるような音が鳴っていた。
アレクシオスが剣を置き、膝をついて男の傷口に手を当てた。手のひらから聴診を放ち、男の傷口を調べ始める。
(切り傷が肋骨を両断して、肺にまで達している)
アレクシオスが手のひらから回復魔法を送り込み始める。肺の傷口を閉じ、切断された肋骨を接合する。
男の息が整い始めた。まだ苦しそうだが、意識ははっきりとし始めたようだ。男の深紅の瞳がアレクシオスを見据える。男が口を開いた。
「お前は……誰だ?封印が、解けた、のか?」
アレクシオスが微笑みながら男を見つめ、問いに答える。
「ええ、私が封印を解きました。私の名前はアレクシオス。この代の帝国の筆頭白魔法使いです」
アレクシオスの言葉を聞いて、男が睨みつけるような目つきになった。アレクシオスは微笑を浮かべながら、続ける。
「50年前に貴方を封印した、アレクスとミリアは私の祖父と祖母です。初めましてルシフェル殿。それとも、魔王と、お呼びした方がよろしいでしょうか?」
アレクシオスは微笑を浮かべながら、内心で独り言ちる。
(これでもう、後には引けない……)




