魔人-2
ディアナが氷のような目つきで魔人を見つめて言う。
「で、裏切り者の貴方が、どんなつもりでここへ来たの?」
魔人が頭を掻きながら答える。
「いや、用事は色々とあったんだけどね。まさか召喚体とは思わなかった。もしかして召喚しているのは君なのかな?」
魔人の言葉を聞いたディアナが、イライラしている口調を隠さずに言う。
「こちらの質問に答えず、質問を返さないでくれる?」
ディアナの剣幕に驚いた魔人が首をすくめて答える。
「えーと、まず一つは冥府の女王がランク1じゃないかと思ってここへ来ました。俺はランク1の黒魔法である創造主召喚に用があったから……」
創造主召喚
コスト:
なし
効果:
創造主を召喚する
彼の不死の呪いを解くためには、この魔法で召喚した創造主と交渉しなければならない。この魔法の存在こそが、彼が黒魔法使いのランクを上げ続ける目的だった。
その彼が300年前にランク4となったという冥府の女王の話を聞いた時、女王なら既にランク1に到達しているのではないかと考えた。その女王に会うための方法を色々と考えた結果、帝都の闇ギルドの存在を思い出して帝都にやって来たのだ。そして闇ギルドの末端構成員であったルーデルを捕まえて、彼に成り代わってここへやって来た。
魔人の回答を聞いて、ディアナが不機嫌そうに答える。
「答えはランク1ではない、ね。で、他の理由は?」
魔人は微妙に言いにくそうに続ける。
「もう一つは、女王の悪魔を借りられないかと思って来ました」
ディアナは既に不機嫌を通り越して、完全に呆れた顔をしている。
「貴方、物凄く、図々しいわね!」
黒髪の少女であるディアナに対し、魔人が両手をついて頭を下げながら土下座をしている。少女は辛辣な目で魔人を見下ろす。そんな二人を、微動だにしなくなったセレナの召喚体が感情の無い目で見つめていた。
「貴方、自分が闇ギルドの裏切り者だって分かって言ってるの?その裏切り者が、闇ギルドの本拠地の、その最奥の秘密に触れた上で、よくもまあぬけぬけと好き勝手言ってくれるわね!」
そんなディアナに抗議するように、魔人が顔を上げずに呟く。
「いや、だって君が話せって言ったんじゃないか……」
それを聞いたディアナの黒髪が怒りで逆立った。歯ぎしりをして殺気だった目で魔人を見下ろす。怒気を首筋に感じた魔人は小さくなりながら呟くように謝る。
「スミマセン。図々しくてスミマセン。本当にスミマセン」
そんな魔人にディアナが怒りの罵倒が降り注ぐ。魔人はただひたすらに謝る。
小一時間ほどディアナは罵倒を続け、魔人はただひたすら謝り続けた。
罵倒し疲れたディアナはセレナをどけて、その豪華な椅子に腰を下ろした。足を組みながら、床に正座をしている魔人を見下ろす。
「しかしアンタ、よく白魔法使いにバレずここまで来られたわね。あの女白魔法使いは探知魔法の使い手で高名なアストライアよ」
それを聞いて魔人はアストライアの顔を思い出した。彼は本物のルーデルから情報を聞き出すときに、アストライアに何をされたのかも聞いている。そしてルーデルに成りすましながら、彼らと一緒に旅をしていた時のことを思い出す。
魔人は少し嬉しそうに、悲しそうに、どこか懐かしそうに、呟く。
「多分、二人ともいい人だったからだと思う。アストライアも、アレクシオスも、いい人だった。アストライアはちょっと当たりがきつかったけど……」
魔人はそんな彼らを騙していたことに罪悪感を感じていた。しょげるように首を傾ける魔人を見ながら、ディアナは魔人の呟いた内容を反芻して気がつく。
「ちょっと待って。アレクシオス!?アレクシオスが来ていたの?まさか探知魔道具の受け取りに来た、あのイケメン黒髪眼鏡男子がアレクシオス!?」
ディアナが驚いて椅子から立ち上がった。魔人はそんな彼女を見上げながら言う。
「え、そうだよ。ミリアがおばあちゃんって言っていた。アイツ、有名なんだってね」
魔人はどこか嬉しそうに答える。ディアナは信じられない物を見るような目で魔人を見下ろしながら言う。
「アレクシオスは帝国の筆頭白魔法使いよ!?それをこの本拠地まで案内して来たの?嘘でしょ!?」
ディアナがその黒髪を両手で掻きむしりながら天を仰いだ。彼女は怒り狂っている。
(何も知らずにアレクシオスを連れて来たコイツにも腹が立つし、それを知らずにアレクシオスを本拠地までノコノコと案内した自分にも腹が立つ!)
ディアナがボサボサになった髪の毛の間から魔人を見下ろす。そんなディアナに正座をしたままの魔人が言いづらそうに言う。
「あの、足がしびれて来たから、そろそろ足を崩しても良いかな?」
ディアナがブチ切れた。
「この、ポンコツがぁぁぁぁぁ!」
ディアナの怒りの咆哮が廃墟にこだまし続けた。




