魔人の行方-1
明け方にアレクシオスが宿屋に戻った。仮眠を取りながらも常時出撃体制を取っていたアストライアに、今までの経緯を伝える。ルーデルの最後を知ったアストライアは「そう……」とだけ言って目を逸らした。
アレクシオスが修理の完了した探知魔道具を取り出して言う。
「これで魔人の行方が分かる。一度帝都に戻り、体勢を立て直そう。そして魔人を倒す!その後で、闇ギルドも潰す!」
アレクシオスの目に闘志が漲っている。そんなアレクシオスを見つめながらアストライアが答える。
「そうね。私の調査も終わったし、これ以上この国にいる理由も無くなった。調査を終えた旨を城に報告するから、貴方は休んでいて」
そう言ってアストライアは部屋から出て行った。アレクシオスは目が冴えたままベッドに寝転がり、今後について考え続けた。
昼頃になって城からアストライアが戻って来た。眠れずにベッドで寝転んでいたアレクシオスを見て、アストライアがため息をつく。
「そういうところは子供のころから変わってないわね。何かに夢中になると、興奮して眠れなくなる。貴方の悪い癖よ。休むのも仕事の内なんだから」
アストライアの説教を、アレクシオスは天井を見つめながら無言で聞き流す。アストライアが少しだけ微笑んだ後で、城での経緯を説明し始めた。
「帰ると言ったら向こう側は大歓迎だったわ。大分嫌われていたみたいね。それで帰る時だけど、正式に関所から出て行ってくれと言われたわ。帰りに魔の森には寄れないけど、それでいいわよね?」
アストライアが念を押すようにアレクシオスに確認する。アレクシオスがベッドから身を起こして答える。
「ああ。だったらさっさと帰ろう。早く次の計画を立てたい!」
二人は宿を後にして関所への街道を行く馬車へと乗り込む。他の客と共に同席しているので、任務に関する話は出来ない。アレクシオスは無言で体を休め、アストライアは後ろから遠ざかる王都を眺めていた。
数日後に関所へ着いた二人は、国境を越える門へと急ぐ。身元の確認のために関所の門へ並んでいる人達を尻目に、アレクシオスが関所の兵士に自身の身分を明かす。兵士は確認作業のために通関施設へ向かって行った。去っていく兵士を見ながらアストライアが呟く。
「来るときに関所を通らなかったから、少し手間取るかもしれないわね。まあ、何とでもなるだろうけど」
彼らは皇帝直属の調査員なので、帝国および属国への出入りは超法規的に行える立場だ。
待っている間、アレクシオスが何かを覗き込むようにしながら考え込んでいる。その様子を見たアストライアが声をかける。
「アレクシオス。どうしたの?」
アレクシオスが無言で手のひらにあるものをアストライアに見せつけた。手のひらには探知魔道具が置かれ、方位磁石のような針が帝都の方角を指し示している。それを見たアストライアにの全身に鳥肌が立った。
アストライアが小声でアレクシオスに尋ねる。
「まさか、魔人が帝都にいる?」
アレクシオスもその可能性を考えている。旧魔王城で最後に見た、魔人の星落魔法による隕石の豪雨が頭を掠めた。アレクシオスが小声で答える。
「分からない。ただ帝国領土の方角にいるのは確かなようだ。関所を抜けたら、僕の魔法で一気に帝都に向かう」
手続きを終え、関所の門を抜けたアレクシオスが人気のない場所に向かう。周りを森に囲まれたその場所で、アレクシオスが神鳥の召喚魔法使い始めた。長い詠唱と共に光の粒が集まり始め、重なり融合し始める。融合したそれは大きな鳥の姿を形作り、揺らめく輪郭がはっきりとし始めた。
アレクシオスの詠唱の完了と共に、その場に真珠色に輝く、大きく優美な鷲のような鳥が現れた。アレクシオスがその鳥の背に乗り込み、その後ろにアストライアが抱きつくように乗る。
「二人も乗って大丈夫なの?」
アストライアがアレクシオスの耳元で心配そうに言う。アレクシオスは探知魔道具を片手に、神鳥を羽ばたかせながら答える。
「帝都くらいまでの距離なら大丈夫なはずだ。少し急ぐから、しっかり掴まって!」
神鳥が両足で加速をつけながら、弾みをつけて矢のように空に飛び上がった。上空で風を掴むと大きく羽ばたき、風を切りながら空を駆け抜ける。その一直線の軌跡には光の粒子が残り、時間と共に拡散しながら消えていく。
その神々しい天翔ける光の鳥とその軌跡を、地上を行きかう人々が好奇心と畏敬の念を持ちながら見上げていた。




