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王都-2

 城に入った三人は、城の公門書を管理している書庫に案内された。肩ほどの長さの黒髪を持つ少女が、部屋の入口の辺りから三人を見張るように見つめている。彼らをこの部屋まで案内した少女だ。

 アストライアが部屋をざっと見渡した。

(ぱっと見た感じだと何かを隠したような痕跡はない。突然の訪問だったから隠す時間が無かったのか、見られたら不味い物はここには置いていないのか……)

 アストライアが案内役の少女に顔を向けて言う。

「白魔法を使って部屋を調べます。構いませんよね?」

 有無を言わせないようなアストライアの言葉だったが、案内役の少女はなんてこと無さそうな顔で答える。

「どうぞ」

 その言葉を聞いて、アストライアが部屋の中心部に移動した。手をかざして魔力探知を使うと、その魔力の波動が生み出す振動から部屋の状況を丹念に調べていく。波動を受けた案内役の少女は少しだけ不思議そうな顔をしたが、それだけだった。

(この魔力反応はルーデルか。いつも引っかかるから邪魔ね。部屋の魔力の反応は……無しか)

 アストライアはついでに部屋の外にも探知の波を広げていく。波紋は廊下を越えて城の大広間や厨房にまで達して、折り返すようにこだまする。

 アレクシオスが背中に冷や汗をかいている。一般人が仮に探知魔法の波動に違和感を持っても、それが探知魔法であるかどうかまでは分からない。逆に言えばこれによって反応した者は何らかの魔法使いである可能性が高い。不躾な広範囲の探知魔法は、アストライアのあからさまな挑発でもあった。

(目立った反応は、無しかな……)

 アストライアが手を下げて探知魔法を止める。探知魔法は遠くなるほど精度が落ちていくので、外の詳細までは分からない。だが城の中で探知魔法を使って歩くわけにもいかない。

 アストライアが案内役の少女に顔を向けて言う。

「終わりました。では文書を確認させて頂きますね」

 少女は少しだけ顔を傾けて、了解の意を伝えた。


「魔人の娼館の顧客リストがある。結構な面々が利用していたのね」

 アストライアが保管されていた顧客リストを眺めながら呟く。顧客リストには商人が多く、貴族らしき名前もあった。そしてその中に白魔法使いらしき名前を見つけ、アストライアが眉をひそめた。

 伊達メガネをかけたアレクシオスが資料を持ってアストライアに近づいて行く。

「アストライア様、娼館を運営していた者の資料を見つけました」

 アレクシオスに様づけで呼ばれたアストライアは、ムズ痒い気持ちを抑えながら何くわぬ顔で資料を受け取る。

「ダズ、帝都の闇ギルドでも娼館がらみの仕事をしていた男ね」

 アストライアはその資料を確認する。この男に関しては帝都でも調査していたが、王国に来てからの動向を正確には掴めていなかった。

 アストライアが資料をパラパラとめくりながら呟く。

「実質的な娼館経営者はこの男ね。魔人はどちらかと言うと雇われ魔法使いみたいな関係だったみたい。経営は順調に軌道に乗り、王宮へのコネクション構築に成功した。有力貴族が舞踏会に招待して、その場に魔人を送り込んだ?」

 アストライアの頭に疑問符が浮かんだ。アストライアが自分の手帳を取り出して、帝都でまとめた情報を確認する。

「魔人は舞踏会で爆破テロを起こした後で、王宮魔法使いのアクストリウスの元に身を寄せた。その後、娼館は閉鎖されてダズは行方をくらました」

 そして再び資料に目を向ける。

「帝国と王国との戦いの最中に、ダズはアクストリウスの命を狙って返り討ちにあっている。このダズという男は一体、何をしたかったの?」

 アストライアにはさっぱり分からない。アレクシオスも考えながら呟く。

「そもそもダズは帝都の闇ギルドから魔人へ放たれた刺客だったはず。その彼が魔人と協力して娼館を経営すること自体、何かがおかしい気がします」

 アレクシオスが鞄から壊れた探知魔道具を取り出した。こちらはダズから冒険者ギルドに送られた物の方だ。アレクシオスが探知魔道具を見つめながら呟く。

「ダズはこの探知魔道具を持って魔人を追跡した。だが魔人は魔の森にいた。その間、ダズは何をしていたのか?」

 アストライアが手帳に何かを書き込みながら答える。

「正規ルートで帝国から王国に入っているから、魔の森を抜けたわけではない。森を抜けた魔人を王国で待ち構えるつもりだった」

 アレクシオスが続けて言う。

「だが魔人は来なかった。20年も!」

 椅子に座って別の資料を眺めていたルーデルがボソリと呟く。

「嫌になったんでしょうね……」

 アストライアが資料を閉じてアレクシオスに渡しながら呟く。

「20年放置された腹いせに闇ギルドを裏切ったのね。そしてキレやすい魔人が舞踏会で事件を起こして、娼館事業を失う。その腹いせに冒険者ギルドへ探知魔道具を送り込んで復讐した。アクストリウスへの襲撃もその一環かしら?」

 アストライアが大げさに手を広げながら、呆れたような顔をした。


 アレクシオスは探知魔道具を鞄にしまうと、アストライアから渡された資料があった書架に戻る。書架に資料を仕舞う際に、資料に挟まれたメモをさりげなく手に取った。アストライアが探知魔法で調べた、この城の簡単な兵の配置図だ。

 アレクシオスはさりげなく案内役の少女を見張る。少女はアストライアに目を向けていて、アレクシオスの行動には気がついていないようだ。

 アストライアが部屋の奥の書架に近づくと、くるりと振り返って部屋の入口近くにいる少女へ向かって言う。

「ねえ、この辺りの資料について聞きたいんだけど」

 少女は面倒そうな顔をして、アストライアの方に向かって歩いて行く。

 アレクシオスは少女が入り口から離れる隙を見て、忍び足で部屋から抜け出した。

 

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