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王都-1

 三人が王都ベラルーナへ続く街道を歩いている。歩きながら手帳を眺めているアレクシオスが呟く。

 「劇場には何の痕跡は残っていなかった。改装されて大分経つからしょうがないか」

 アレクシオスが残念そうに手帳をしまった。以前のように当時を知る老人を探しもしたのだが、秘密裏に運営されていた高級娼館だったこともあって、今回は見つからなかったようだ。

 アストライアが口を挟む。

「高級娼館だったから、地元の人には縁がなかったんじゃない?むしろこれから向かう王都の方に、何かしらの資料があるかもしれない」

 アレクシオスも同意するように頷いた後で、思い出すような顔をしてルーデルを振り返る。

「ルーデル。君は王国のどこへ向かえと言われているんだ?」

 ルーデルは闇ギルドの拠点リーダーであるガロの手下としてこの王国に来ている。その用事は帝国の白魔法使いである二人には明らかにされていない。ルーデルが答える。

「場所は王都の王宮です。王族に会う予定ですが、どうすれば会えるのかは手配されていません。ガロ様がおっしゃるには、お二人に任せておけば問題ないとのことです」

 それを聞いたアストライアが露骨に嫌そうな顔をして言う。

「アイツ、私たちに丸投げするつもりだったのか!」

 手のひらを天に向けてワナワナと震えているアストライアを尻目に、アレクシオスが顎に手を当てながら考える。

(流石に一般人を装って王族にコンタクトを取るのは難しいな。だがもう少し身分は隠したい……)

 アレクシオスが怒りに満ちているアストライアに顔を向けて言う。

「アストライア、君に任せたいことがあるんだけど、いいかな?」

 アストライアは恨めし気な顔でアレクシオスを見た。彼女はこの後の展開を大体予想していたからだ。


 王都の城に一人の女性が訪れた。豊かな金髪を持つ長身で豊満な美女。対応に出た見張りの兵士は思わず見とれてしまったが、彼女の身分を知るとすぐに真顔に戻った。兵士は対応する者を呼ぶために、城の奥に走っていく。

 暫くすると城の奥から一人の男が出て来た。この国の大臣だ。大臣は女性に向かって慇懃に挨拶をする。

「まさかアストライア様の訪問があるとは思いませんでした。どういった御用でしょうか?」

 アストライアが頭を軽く下げて礼をし、大臣を見下ろしながら答える。

「突然の訪問をお許しください。魔人調査の件で訪問させて頂きました。王宮で管理されている公文書を調査させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 大臣が困ったような顔をしながら言う。

「流石に事前にご連絡を頂けないことには、対応に困りますな。それとも帝国は王国に来るのにそんなもの必要ないと?」

 アストライアの目が一瞬だけ光るように鋭い目つきになる。それを見て大臣は一瞬気後れした。アストライアが答える。

「魔人は高レベルの黒魔法使いであることから、整形フルセットで何者にも変身できます。緊急性と秘匿性の高さをご理解下さい。もっとも我々が黒魔法の恐ろしさを説かずとも、あなた方は重々承知だと思いますが」

 かつての王国では黒魔法が合法だった。帝国の属国となったことで公的には禁止されているが、今でも隠れて黒魔法に手を出す者は多い。アストライアはそこを突いている。

 大臣の目が少しだけキョロキョロした。それを見てアストライアは顔に出さず、内心で独り言ちる。

(闇ギルドが王族と関係しているのであれば、今でも王国の中枢部で黒魔法が使われている可能性は高い。この男も手を出しているのではないか?)

 アストライアは内心で怒りが煮えたぎっているが、表には出さない。属国とはいえ、秘匿行動中に帝国として喧嘩を売るわけにはいかない。

 大臣はため息をついて折れることにした。名分を持つ宗主国の使いを無下に扱う訳にもいかない。

「分かりました。では城内にご案内します。私について来て下さい」


「と、いうわけで王城へ入る手筈は整えたわよ。私に感謝してよね!」

 宿屋で取った部屋にいるアストライアが、椅子に座って疲れたような顔をしながらアレクシオスに言った。アレクシオスは素直に礼を言う。

「助かったよ、アストライア。感謝している。ありがとう!」

 頭を下げるアレクシオスを見て、アストライアは目を床に逸らしながら軽くつま先で床を蹴った。

 アレクシオスが伊達メガネをかけながら言う。

「それじゃあ僕とルーデルは、アストライアの調査補佐と言う名目で城に侵入する」

 アストライアがアレクシオスを見つめて言う。

「私は非公式とは言え立場を明らかにしているから、城内ではそれほど動けない。実際に魔人について調査したいこともあるし、王族へのコンタクトは自分でなんとかしてちょうだい」

 アレクシオスが伊達メガネをクイっと上げると、微笑を浮かべながら答える。

「大丈夫。そこは何とかしてみるよ!」

 

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