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50年前の痕跡-2

 三人がかつて娼館のあったという屋敷の近くまで来た。だが屋敷はすでに改装されて、演劇場になっていた。人々が吸い込まれていく演劇場を見て、アストライアが呟く。

「召喚体を使って娼婦が演じられていた場所が、今では演劇場になっている。皮肉もいいところね」

 アレクシオスが看板で演目を確認する。

「今日の演目は、帝国の魔女、だそうだ。良かったら見ていかないか?」

 帝国の魔女とは、70年前に魔人によって殺害されたエメリアを指す。表では慈善活動をする貴族エメリア、裏では闇ギルドの黒魔法使いモリガンという二つの名前と二面性をもつ絶世の美女。その凄惨な最後も相まって、彼女は演目のテーマとして人気になった。

 アストライアが顔を背けて地面をつま先で蹴りながら答える。

「まあ調査のためだから仕方無いわね……」

 アレクシオスがルーデルにも尋ねる。

「君はどうだい?」

 それを聞いたルーデルが驚いたように答える。

「え!?私もいいんですか?少し観たかったので嬉しいです」

 アレクシオスは微笑むと、チケットを買うために演劇場へ向かって行った。

 嬉しそうな顔をしたルーデルがふと顔を上げると、そこには鬼のような形相でルーデルを見下ろすアストライアがいた。ルーデルはすぐさま目を逸らした。


「なぜ、貴方が私を裏切るの?」

 エメリア役の女優が悲しみに満ちた表情で、目の前の男優の胸に縋りつく。男優はエメリアを残酷そうな、悲しそうな顔をしながら見下ろして言う。

「貴方は覚えていますか?貴方が生贄のために集めた孤児の生き残り。それが私なのです!」

 男優はエメリアを左手で抱き寄せ、背中へ回した右手の短刀を突き立てる。次の瞬間、短刀でその背中を刺しぬいた。


 アレクシオスがしんみりとした表情で舞台を見つめている。隣に座っているアストライアは冷めきった表情で頬杖をつきながら舞台を眺めている。ルーデルは無表情で舞台を見つめていた。


 舞台が終わって席に残っているアレクシオスが感想を述べる。

「この演目はエメリアと魔人が恋仲だったという解釈だったようだ」

 アストライアが気に食わないという顔をしながら言う。

「エメリアの孤児院と黒魔法の生贄は無関係だったんだけどね。事実を歪曲するような脚本が気に食わないわ!」

 アストライアは調査の過程でこの事件について調べつくしたので、事実との齟齬が気になって仕方がない。ルーデルが無表情で疑問を呟く。

「でも孤児院を経営する傍らで、黒魔法に手を染める。彼女はどういった心境だったんでしょうね?」

 アレクシオスが誰も居ない舞台を見つめながら答える。

「たまにいるんだよ。自分がやっている事が罪であると気がついて、かといって今さら手を引くことも出来ない。だから罪を帳消しにするかのように善行に励む」

 それを聞いてルーデルが呟く。

「確かにガロ様にもどこかそういうところがありました。逆に善の側にいた者が、罪に手を染めることもあるのでしょうか?」

 アレクシオスが表情を変えずに答える。

「いるよ。悲しいことだけどね」

 

 アレクシオスが取材のていで舞台裏に向かって情報収集をしている間、アストライアとルーデルは外で待っていた。アレクシオスがいないので二人とも気まずい。

 気まずい沈黙に耐えきれなくなったルーデルは、話題を探すために周りを見渡す。近くで流し劇団が人形劇をしていたので、それを遠巻きで見つめることにした。

 人形劇が始まる。

 

 帝国に敗れし魔族の国ヴォルガルド。その北方には巨人族が住んでいた。

 ある日、巨人族が南下をはじめ、魔族の国に攻め込んだ。丘のような巨人の前に、魔族たちは手も足も出ない。魔族は帝国に泣きついた。

 そんなヴォルガルドに派遣されたのは、皆さま御存じのアレクシオス。彼は巨人と戦い、倒し、その膝を突かせた。

 膝を屈した巨人の王が覚悟を決めて、アレクシオスに頭を垂れる。だが、アレクシオスは剣を収めてこう言った。

「何故あなた方は攻め込んだ?今まで共に平和に暮らしていたのではないのですか?」

 巨人の王は己よりも小さな男を見下ろしながら、不承不承に答えを語る。

「北から襲ってくる竜から逃げるためです。彼らは何よりも恐ろしい」

 それを聞いたアレクシオスが、巨人の王に提案する。

「だったら共に戦いましょう。我々で竜を追い払おうではありませんか!」

 そうしてアレクシオスは巨人の肩に乗り、恐ろしい竜に戦いを挑んだ。

 激しい戦いだった。

 だがアレクシオスは戦い抜いた。巨人と共に竜を屠り、ついには竜を北に追い返した。


 人形劇を見ていたルーデルの傍らで、アストライアが当時を思い出しながら独り言のように呟く。

「新生魔王軍の事件が起きる前の事ね。あの戦いは激戦だったわ……」

 ルーデルも独り言のように呟く。

「やっぱりアレクシオス様は凄い方なんですね……」

 それを聞いたアストライアが鼻で笑って言う。

「そうなの。凄いのよ、アイツは」


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