魔の森-4
アレクシオスとアストライアが集落を周って遺骨を集めた。ルーデルは屋敷の魔法陣が描かれていた部屋を調査した後で、自身も遺骨集めの手伝いに加わった。アストライアはルーデルの姿を少しだけ目に留めてから、すぐに目を逸らした。
アレクシオスが武装魔法で作ったシャベルを使って大きな墓穴を掘る。アストライアはいくつかの崩れた廃屋から木材を集めて墓穴に放り込み、遺骨を丁寧に並べていく。フレイヤの杖も同じように並べられた。
アレクシオスとアストライアが並んで墓穴に向かい、胸に手を当てて祈りを捧げた。祈りを捧げた後で松明を墓穴にくべ、火葬にしていく。
日が落ち、辺りが暗くなってきた。火葬の大きな炎が、廃墟となった集落を揺れる灯りで照らしていく。
墓穴の近くでアストライアが仮眠を取り始めた。アレクシオスが探知魔法を使って定期的に辺りを確認しながら見張りを続ける。
ルーデルは墓穴の近くの岩に腰を下ろして、火葬の炎をじっと見つめている。
見回りを終えたアレクシオスがルーデルの隣に座った。アレクシオスが火を眺めているルーデルに尋ねる。
「眠らなくて大丈夫かい?」
ルーデルは火葬の炎を見つめながら答える。
「何となく眠る気にならなくて……」
アレクシオスも火葬の炎を見つめ始めた。黒魔法使いと白魔法使いが並んで、火葬の炎を見つめている。
ルーデルが火を見つめたまま口を開いた。
「あの杖になっていた白魔法使いの方、ランク10なんですね。もう少し高い方なのかと思いました」
ルーデルの疑問を聞いたアレクシオスが、火を見つめたまま答える。
「元々はランク9だったらしいんだけどね。救済運動を始めてからランクが下がったらしい」
ルーデルが不思議そうに尋ねる。
「救済運動でなんでランクが下がるんですか?」
アレクシオスが答える。
「分からない。ランクは神が決めるものだから、理由は神しか分からない。ただ今までの情報の蓄積から、教義にのっとった行いや、名声が反映されやすいと考えられている。僕やアストライアは戦場の名声で上がったのだと思う。でも彼女は……」
そこまで言って、アレクシオスが言いづらそうに続ける。
「魔の森の奥地だと誰の目にも留まらない。実際、僕たちも今まで把握していなかった。ランクだけは神殿から確認出来るんだけど……」
ルーデルが無表情のままで呟く。
「誰の目にも留まらなかったからランクが下がった。神も見ていなかったんですね。それとも見ていた上で下がったのでしょうか?」
アレクシオスは無言になった。アレクシオスにも分からないし、同じく疑問に思っていたからだ。
ルーデルが続ける。
「私がこの大陸に来て初めて会ったのが彼女のような人だったら、私の人生も今とは違うものだったのでしょうか?」
アレクシオスは初めてルーデルにあった時、彼がアストライアの解呪を受けて喋れなくなっていたことを思い出した。
「そうかもしれないね。そういえば、君はなんでこの大陸に来たの?」
アレクシオスの問い返しに、ルーデルが答える。
「向こうの大陸で内乱が起きて、住んでいた場所が戦争に巻き込まれて、家族も死んで、それで逃げるように船に乗ってきました」
「そうか……」
アレクシオスが火を見つめたまま答えた。よく聞く話だった。そしてそういった者が闇ギルドに入るのも良くある話だった。
魔人が黒魔法使いに実験体として扱われていたという話を思い出し、アレクシオスが独り言のように呟く。
「魔人も、最初に会ったのがフレイヤだったら、別の生き方をしていたのかもしれないね」
暫しの間、無言がその場を支配した。
ルーデルが火を見つめたまま話を変える。
「そう言えば、貴方は英雄のお孫さんなんですね。英雄とはどんな人だったのでしょうか?」
アレクシオスが答える。
「祖父がアレクスで祖母がミリアだね。祖母は白魔法使いで僕が子供の頃に亡くなった。その時にはもう白魔法使いからは引退していて、フレイヤのような慈善活動をしていた。祖父は魔王との戦いで亡くなったと祖母から聞いている」
ルーデルが不思議そうに尋ねる。
「アレクス様も白魔法使いだったのですか?」
アレクシオスが少し笑いながら話す。
「実はそうではなかったらしいんだ。白魔法使いでも黒魔法使いでもないのに、とても強い人だったらしい。祖母が言うには、別の世界から来た人だったとかなんとか」
ルーデルが目を丸くして尋ねる。
「別の世界?別の大陸ではなくて?」
アレクシオスが思い出すような顔をしながら答える。
「うん。別の世界で死んだ時に、この世界へ来たとかなんとか。前の世界で死ぬ時に英雄になりたいと願ったから、この世界では凄い力を持つようになったとかなんとか」
ルーデルが少しだけ笑いながら突っ込む。
「異世界から転生してきたってことですか?それで本当に英雄になったと?人形劇みたいな話ですね」
アレクシオスがルーデルに顔を向けて、顔に笑みを浮かべながら続ける。
「祖母も本当かな?って笑いながら話していたから、祖父の作り話だったのかもしれないけどね」
ルーデルがその顔をもじゃもじゃの髭に埋めて震え出した。
「フハッ、ハハハハハハハハ!」
ルーデルが声を上げて笑った。




