魔の森-2
三人は魔の森を進んでいく。何か魔物が出て来ても、アレクシオスがすぐさま退治する。障害は無いようなものだった。
時折アストライアが探知魔法を展開して索敵し、現在地を手元の地図と照合するので迷う事もない。
順調に進んでいるのだが、アレクシオスは考えるような顔つきになっている。その表情をみたアストライアが不思議そうに尋ねる。
「どうかしたの?このままいけば順調に王国側に抜けられるけど」
それを聞いたアレクシオスが手をポンと叩いて思いついたように声を出した。
「それだ!魔人は二十年も魔の森にいたと考えられている。順調に抜けられなかったんだよ!」
それを聞いたアストライアが面倒くさそうな顔をして答える。
「じゃあ、何?私たちも頑張って迷ってみる?」
アレクシオスがそれを聞いて、少し嫌そうな顔をしながら言う。
「いや、そうじゃなくてさ。探知魔法で何か変わった物とか見つけたら言って欲しい、ってくらいだよ」
アレクシオスの言葉を聞いて、心外そうな顔をしたアストライアが叫ぶ。
「ちゃんとそれくらい確認しているわよ。今のとこは草と木と岩と魔物くらいしかないの!」
微妙に険悪な雰囲気になった二人の間に、ルーデルが無表情で割って入る。
「あの……以前聞いた話なんですが、魔の森の中には集落があったらしいです。何でも行く場所の無くなった人たちが、最後に行きつく場所だったとか」
ルーデルの話を聞いたアレクシオスが足を止め、真剣な顔つきでルーデルを見つめながら言う。
「その場所を教えてもらえる?」
ルーデルはアストライアの持っている地図を借りると、魔の森の中心辺りを指さした。
「確か、この辺りだったと思います」
三人はルーデルの指したあたりにあった集落の跡地に辿り着いた。アストライアが探知魔法を展開して辺りの状況を確認する。
「誰も居ないみたいね。建物の崩れ方と、点在している遺体の状況から考えるに、かなり前に壊滅したみたい……」
アストライアが探知魔法を閉じて、辺りを見渡す。
集落には倒れた柱と、崩れて歪んだ薄っぺらの木の壁が外れた廃墟ばかりだった。草が茫々と生え茂っており、いくつかの建物は成長した木と一体となっている。集落は森に飲み込まれつつあった。
アレクシオスが足元を見ると、いくつもの人骨が散乱していた。アレクシオスは膝を付いて手を胸に当てて目を閉じ、故人の冥福を祈る。そして目を開くと、その人骨をじっと見つめた。
「亡くなった後の遺体が、魔物や獣に荒らされたのかな?亡くなった状況が分からない」
アレクシオスが立ち上がり、集落全体を眺める。最奥にひと際大きな廃屋があるのを目にとめた。
「一旦集落の状況を確認しよう。それが終わったら、この人たちの墓を作ろう」
その提案にアストライアは無言で頷いた。ルーデルは廃墟の最奥をじっと眺めていた。
三人が最奥の廃屋に足を踏み入れた。他の集落よりは大きくしっかりとした作りだったようだが、それでも長年の風雨による劣化によって全体にゆがみが生じていた。床に穴が空いており、柱には虫食いの跡が残っている。
「中に罠とかは無さそう。奥の部屋に何かがあるわね」
探知を済ませて波紋を閉じたアストライアが言った。アレクシオスは光霧魔法で明かりを作り出し、床を踏み抜かないように慎重に歩を進めていく。
廃屋の最奥にはひときわ大きな部屋があった。集会などに使えそうな広さの部屋だ。その部屋の真ん中には大きな魔法陣が描かれていた。それを見たアストライアが呟く。
「これは……黒魔法に使う魔法陣ね。詳しくは分からないけど、転送魔法用じゃないかしら」
アレクシオスがルーデルに意見を求めるように目線を送った。ルーデルは困ったような様子で言う。
「私には……分かりません。ランク12なので……魔法陣なのはわかりますが」
ルーデルが魔法陣の近くでしゃがむと、魔法陣に触れながら続ける。
「魔法陣自体が壊れているので使えないみたいですね。仮に転送魔法用であったとしても、使われなくなって久しいのではないでしょうか?」
アレクシオスが部屋をざっと眺める。隅に祭壇らしきものがあり、その近くに立てかけてある杖を見つけた。アレクシオスが祭壇に近づき、そっとその杖を手に取る。その杖には脊柱が巻き付いており、明らかに黒魔法使いの召喚用だった。
アストライアがその杖を横から眺めて、嫌悪感をむき出しにした顔つきになる。
アレクシオスがその脊柱を眺めて気がつく。
「これは魔物の脊柱じゃないな。人の脊柱だ」
それを聞いたルーデルがアレクシオスの持った杖を見て提案をする。
「それで召喚してみましょうか?」
アレクシオスが少し考えるような顔をしてから、目を閉じて言う。
「済まない。頼めるだろうか?」
三人は外に出た。ルーデルが外で膝を付きながら魔法陣を描く。
魔法陣を描き終わったルーデルが立ち上がった。アレクシオスが杖をルーデルに渡す。
ルーデルは受け取った杖を魔法陣に投げ込むと、手をかざして召喚魔法を使った。
杖から無数の血管が生み出され、それが女性の人形のように形どっていく。その血管から筋肉が生え、それに沿って骨が伸びていく。その表面を滑らかな皮膚が覆って、まるで生きているかのように脈打ち始めた。
杖から召喚されたのはエルフの女性だった。アレクシオスは裸体の召喚体から目を背けながら、自分のマントをその召喚体に着せる。
ルーデルが召喚体を見つめる。アストライアは目を背けながら嫌悪感に満ちた顔で一言だけ叫んだ。
「最悪!」




