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魔の森-1

「なんで、わざわざ、こんな森を通るのよ!」

 旅人の装束を纏うアストライアが露骨に嫌そうな顔をして、マントについたフードを目深に被るアレクシオスへ文句を言った。ルーデルもその髭と髭の奥にある怯えたような目で、アレクシオスとその奥の森を交互に見ながら訴える。

 アレクシオスが少し楽しそうに笑いながら答える。

「今回は隠密任務だからね。自分たちの身分を隠しながら王国に行くならこのルートがいいだろ?」

 アストライアがアレクシオスに近づき、そのフードの奥にある整った顔を睨みながら小声で怒鳴る。

「いや、ルーデルを何とか隠せばいいだけなんだから、正面からでも何とでもなるでしょう!なんでこんな脱獄囚でも選ばないようなルートを選ぶのよ!」

 これはアストライアに理がある。アレクシオスの権限をもってすれば、ルーデル一人ぐらいは余裕で正面から連れて行けるだろう。魔の森を突っ切るような違法ルートを選ぶ理由が全くない。

 アレクシオスはアストライアの圧など無いかのように答える。

「70年前の魔人はこのルートを通ったとみられている。だったら僕たちもそのルートを行くべきだ。彼について何か分かるかもしれない」

 それを聞いたアストライアが少しだけ考える素振りを見せた。アレクシオスがルーデルに目を向けて言う。

「と、いうわけで魔の森を抜けるよ。いいね!」

 ルーデルは嫌そうな顔をしているが、彼が何かを言っても流れは変わらない。アレクシオスは返事も聞かず、森へ向かって張り切って歩き出した。


 どこか楽しそうに見えるアレクシオスを先頭にして、三人が新緑の匂い立つ魔の森を歩いて行く。

「なんでそんなに楽しそうなの?」

 アストライアが当然の疑問を口にする。アレクシオスが嬉しそうな顔をしながら答える。

「いや、だってこんな冒険みたいなことをするのは本当に久しぶりなんだ!白魔法使いになって職位が上がるにつれて、勝手にどこかに行くなんてことはできなくなっていたからね!」

 そう言ったアレクシオスが新緑で埋め尽くされた森を眺めながら歩く。アストライアが呆れたような顔をしてアレクシオスを後ろから見つめる。ルーデルがそんなアストライアを横目で見ながら尋ねる。

「あの方は、いつもあんな感じなんですか?」

 アストライアも横目でルーデルを見ながら答える。

「最近では責任のある役割を背負って大人しい顔をしている時が多いけど、素はあんな感じ。彼とは幼馴染だけど、子供の頃は無茶をしてよくミリア様にも怒られていた」

 それを聞いたルーデルが、目の前の楽しそうなアレクシオスに目を移して言う。

「あの方はミリア様のお孫さんなんですね。貴方も面識があるのですか?」

 アストライアが少しだけ微笑みながら答える。

「ええ。もう一人の英雄であるアレクスとミリア様の娘が彼の母。アレクス様は魔王と相打ちになって亡くなったけど、ミリア様は10年ほど前までご存命だったから。私も良くお世話になったわ。優しい方だった」

 それを聞いたルーデルは、何も言わずに後ろからアレクシオスを見つめていた。


 突如としてアレクシオスが歩みを止める。真剣な顔つきで振り向かずに後方のアストライアに合図を送る。アストライアは何も言わずに目を閉じて探知魔法を展開し始めた。アストライアの探知魔法の波が広範囲に広がっていく。

(ルーデルを検知。魔法反応あり。アレクシオスを検知。魔法反応あり。樹齢の若い木が複数、緩やかな勾配、岩、その裏、生き物の反応あり。大きい。向こうも気がついて動き始めた。頭の動きが独特。尾が長い、いや、これは尾ではない)

 アストライアが目を開けてアレクシオスに伝える。

「二時の方角にキマイラ」

 アストライアの伝えた方向からガサガサと草木をかき分ける音がし始めた。ルーデルは怯えたように後ろに下がる。アレクシオスが武装魔法を使い始める。

 藪をかき分けて、三頭の獣がその姿を現した。獅子と山羊の頭を持ち、蛇の尾を持つ大きな魔物。キマイラがアレクシオスに襲いかかる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ルーデルが叫ぶ。アストライアは何も動じない。

 アレクシオスが武装魔法で作った武器をその手に持つ。それは鞭。次の瞬間、アレクシオスの手元から放たれた鞭の切っ先がキマイラの獅子の顔面を直撃した。その痛みに怯んだキマイラの動きが止まった。

 アレクシオスは止まらない。その周りに旋風が巻き起こり、亜金属の鞭の切っ先をキマイラに叩きつけていく。獅子の両目が弾け、山羊の角がへし折れ、蛇の胴体がズタズタになっていく。キマイラは一瞬で血だるまになった。

「ヴェー!」

 山羊が声を振り絞って叫ぶ。その声を聞いた獅子が、その声を頼りにアレクシオスの位置を掴むと、四肢を縮めて重心を下げて、最後の力を振り絞って突撃する。

 アレクシオスはその鞭を巨大な槍に変化させ、石突を地面に落とす。その矛先をキマイラの突撃に合わせてつっかえ棒のように獅子の顔面に向けた。槍に飛び込む形となったキマイラは、そのまま串刺しになり、勢いのまま転がっていった。


 一瞬の決着にルーデルが呆然とした目で見つめた。アストライアがムスっとした顔をしながらアレクシオスに言う。

「なんでわざわざ鞭?でもマリア様ほどじゃないわね!」

 それを聞いたアレクシオスが笑って答える。

「そうだね。でも魔人と戦うなら必要になるかもしれない。練習しておこうと思ってね」

 

 通常、二つ名はその者の特徴を表すものが用いられる。

 マリアなら「千光」

 レオルドンなら「聖獣」

 アクストリウスなら「青剣」

 

 だがアレクシオスは「天賦」。ランク7に達した数多くの者の中においても、なお彼はそう呼ばれた。単純にそう呼ぶしかなかったからだ。


 アストライアが嫉妬したように嫌味を言う。

「本当にアンタって可愛げが無い。アンタと同期ってだけで嫌!」

 それを聞いたアレクシオスが笑って答える。

「そんなことないだろう。僕だって君の真似は出来ないよ!」

 そんな二人を、ルーデルは毛むくじゃらの髪と髭の奥から見つめていた。

 

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